“水原問題”再発防止のためにどんな対策が必要なのか。選手の「お抱えスタッフ」の身辺調査や監視が重要<SLUGGER>

メジャーリーグや海外サッカーチームへの日本人の移籍が珍しくなくなった今日、「外国人」である日本人が、「お抱え」スタッフをチームに入れることが慣例化している。その役割は通訳、トレーナー、日常生活の世話など多岐にわたり、これらは長年の付き合いからの信用がなくては困難であることは理解できる。だが、大谷翔平選手(ドジャース)の通訳を務めていた水原元一平氏の違法賭博や窃盗に関する疑いは、こうした流れに再考を促すことになる。

そもそも、選手が必要とする人材と、チームが必要とする人材は必ずしも一致しない。現状では、チーム側はスター選手の周囲を固めるスタッフや関係者の「質」を詳しくは吟味せず、選手の意向に沿った形に収めているのが現状だ。選手が望む形のサポート認めるという考えが前提にあるからだろう。しかし実際には、そうしたスタッフや関係者がチームの運営にも関わることにもなる。それだけに、本来は球団が責任をもってスタッフや関係者の身辺調査を行う必要がある。学歴や家族内を含めた犯罪歴も含めてだ。身辺調査を経て入団を認めた後でも、交友関係などは継続して「監視」する必要がある。

また、入団前の段階で、スター選手が必要とするスタッフに関して、その者が選手個人のみならず、チーム全体にどういう効果を与えるかを考慮すべきであるだが、この部分が欠落している。水原元通訳の賭博歴は、何も最近になって始まったわけではないはずだ。賭博の常習性と中毒性はギャンブルの特性でもある。素行調査をしっかりと行っていれば、賭博への関与も前もって把握できたかもしれない。 さらに言うならば、大谷選手自身が元通訳の素行を把握していなかったのも課題だ。これは結果論だが、長年の付き合いの中でも分からないでは済まされないのが、プロチームへ人材の参画における問題である。現状、あまりに緩すぎる。選手がチームに加えたいと思う人材への調査がまず最優先すべき対応、入団後の行動監視は2番目、すなわちセーフティネットの立ち位置で、それが今は確立されていない。本来はチェックシートを設けておいて、定期的に覆面調査を行う必要性があると思う。

一方で、スタッフの業務の範疇が明確でないという問題もある。「何でもします」的な便利屋のような扱いをさせていることが多い。一人で複数の仕事をこなし、特に競技に関する業務から離れ、選手のプライベートにまで関わる傾向があるのは改善すべきだろう。業務の範囲や規範を明確にする必要がある。

例えば、通訳業務のみで、選手のプライベートに関わることはさせない。まして預金口座の管理等は一切関わらせない。選手個人の預金口座や金銭に関する事柄は、本来チームスタッフが関わるべきものではない。ただし、スター選手の預金に関しては常に危険が潜むので、選手個人のみならずチームとしても、その安全な運用については、何らかのガイドラインを設ける必要がある。賭博以外にも株の運用など、素人が手を出すべきではないことが多々ある。こうしたことに関わらないようにするためには、チームやリーグがある程度ガードすべきだろう。 今回のような一件で選手生活や経歴に傷がつくようなことは、本来はあってはならない。また一番調子がよく、注目されているときこそ要注意であることを認識しなくてはならない。大谷選手においては、ワールド・ベースボール・クラシックでの優勝から2度目のMVP受賞、超大型契約でのFA移籍、結婚発表とまさに公私とも絶好調という中で起きた通訳の違法賭博際だった。「好事魔多し」をつくづく実感させられる一件だった。

素性の知れない者がプロスポーツチームに関わることでどのような問題が起こり得るのか、基本に立ち返る必要がある。たとえ語学に優れていても、他の生活面などで荒れていることは少なくない。多額の借金を持つ者は、もともと不適格である。その適性や判断基準を明確にし、経過観察を行うことが重要だ、

また、選手の「わがまま」を認めてはいけない。チームに関わるステークホルダーを常に健全な状態に保つことが、選手を守り、チームを守り、ひいてはファンを安心させることにつながる。本来チームを支えるべき人物が、選手の足を引っ張るような形になるのは言語道断である。それを許容していた選手やチームも問題なのだ。 企業ではリスク対策にBCP(業務継続計画)を有していることが多い。プロスポーツチームでもこのBCPを活用・アップデートしながら選手やスタッフの研修に生かすべきだと思う。緊急事態が発生した際の対応から、その後の事後処理などをマニュアルとともに訓練を重ねることが重要だ。

今回の事件を教訓にしながら、プロスポーツ選手とチームがリスクに対して強くなることが望まれる。同時に、倫理面における強化とガバナンスもさらに研ぎ澄ます必要があるだろう。

文●古本尚樹

著者プロフィール
ふるもと・なおき。株式会社日本防災研究センター(2023~)。医学博士。阪神・淡路大震災記念人と防災未来センターリサーチフェロー。東京大学大学院医学系研究科外科学専攻救急医学分野医学博士課程中退。専門分野:スポーツ選手やチームの危機管理・コンプライアンス・ガバナンス、防災。

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