【漫画】「男女の友情は成立する?」という議論自体の窮屈さ SNS漫画『絶対付き合わない男女の話』が痛快

多くの人が意見を問われたことがあるだろう、「男女の友情は成立するのか?」という議論。多様性の時代にナンセンスな感覚もあるが、「成立しない」と強く主張する人も少なくないなかで、実際に友人として仲のいい異性がいるとき、周囲から何かと恋愛に結び付けられることに嫌気がさしているという人もいるだろう。3月中旬にXで公開されたオリジナル漫画『絶対付き合わない男女の話』(ハルオとなつき)を読むと、性別と恋愛をベースに人との関係性を捉えることの窮屈さと、それ以前に「ソウルメイト」といえる友人がいることの素晴らしさが感じられる。

本作を手掛けたのは、音楽活動をメインに、シナジーのある漫画制作をはじめたという椎名かいねさん(@kaineneko)。今回の作品とともに楽曲とボイスドラマも制作予定だという。見事成立している男女の友情を描いた本作がどのように生まれたのか、話を聞いた。(望月悠木)

■音楽を聴いてもらうために漫画制作

――椎名さんは漫画制作だけではなく、音楽活動もされていますね。

椎名:もともと歌手メインで活動しており、活動4年目にしていろいろ思うことがありました。漫画やイラストは移動中やごはん中などで手軽に摂取できます。一方、楽曲はそうではありません。3~4分間を音楽のためだけに費やすことは、ショート動画が流行っている今現在と相性が悪いです。

――漫画やイラストのほうが注目、あるいは消費されやすいと。

椎名:はい。「間口が広く手軽に注目してもらえる漫画やイラストから興味を持ってもらい、自分の音楽を聴いてもらうキッカケになればいいな」と思ってマルチに活動するようになりました。

――今回『絶対付き合わない男女の話』を制作した経緯は?

椎名:友人のラッパー・咲乃木ロクくんと『ハルオとなつき』というタイトルのEPを制作しています。ハルオとなつきの心情などをベースにした作成した4曲、ボイスドラマ2本を収録する予定です。いきなり楽曲を発表するよりは、「本編漫画があったほうが面白いんじゃないかな」と思って今回漫画を制作しました。とはいえ、肝心の楽曲はまだ鋭意制作中です(笑)。

――なぜ“男女の友情”をメインに据えたのですか?

椎名:ロクくんとはよく2人で遊ぶ仲なのですが、漫画内のように店員さんに「彼氏さん、かっこいいですね」みたいなことを言われてモヤっとしたことがキッカケです。今は多様性の時代と言われていますが、同性同士で遊んでいても「付き合ってるの?」と聞かれることはありません。友達同士のほうが上手くいく人もいれば、恋人同士が最適なバランスの人もいる。にもかかわらず、男女が一緒にいると真っ先にそういう色眼鏡で見られることに違和感を覚えていたことが影響しています。

――なつきとハルオは実際に椎名さんと咲乃木さんをモデルにしたキャラなのですか?

椎名:まずハルオの見た目は完全に自分の趣味です。“チャラチャラした見た目の男性が実は真面目”みたいなのがすごく好きなので。とはいえ、性格は仲の良い男友達の要素をちょっとずつ拾って作り上げました。

――なつきはどうですか?

椎名:大枠は自分の性格を投影しました。加えて、ハルオ同様に「外面と内面の印象が違う」ということも意識しています。露出の少ない保守的な見た目ですが、口が悪くガサツで好きな人には気持ちが抑えられなくなる部分がある、という風にしました。

■ラストは急遽差し込んだ

――2人が会話している様子が読んでいてとても心地良かったです。2人の会話を描くうえでこだわった点など教えてください。

椎名:これは自慢なのですが「椎名かいねは表情を描くのが上手い」とよく言われます。1人でいる時、なつきとハルオと一緒にいる時は若干“表情の温度感”を変えました。また、ハルオのほうがなつきよりも柔らかい喋り方にしています。表情やセリフなどそういった変化を加えたことが心地良さにつながったのかもしれません。

――ちなみに中盤をラストにして、終盤を2人の馴れ初めにする構成にした狙いは?

椎名:もともとは公園のシーンで終わりの予定でした。ただ、ハルオの心情が描き切れていないような気がして、急遽馴れ初めのシーンを差し込みました。ハルオの友人関係に対するこだわり、“男女関係”についてどんな認識であるかを明示することで「ハルオのほうはなつきが好きなのでは?」という憶測を生まないようにしたくて……。

――なぜ“レンタルスペース”という空間にしたのでしょう?

椎名:実際大人数のレンタルスペース飲み会をした経験があります。なんとなく静かな場所を求め、キッチンやベランダなど人が少ないところで、なつきのように強めのお酒をチャージしていました。その時の経験を思い出しながら描きました。自分の場合は鬼殺しではなくストロング飲料だったのですが(笑)。

――最後に今後のクリエイティブ活動の展望など教えてください。

椎名:今回の『絶対に付き合わない男女の話』こと『ハルオとなつき』は、4月28日に東京流通センターで行われる同人音楽即売会イベント『春M3』で、冊子×音楽×オーディオドラマのスペシャルアイテムとして頒布する予定です。ハルオとなつきの声を確認できるので、ぜひ手に取ってもらえたら嬉しいです。

また、普段は“ぼくはせかいをえがいてうたうひと”というキャッチコピーで、ストーリー性のある音楽を制作しています。誰かの記憶の一部に掠めるような、一度は経験した苦い気持ち、楽しい経験、嬉しい匂いなど、さまざまな人生をテーマに物語を綴っています。気になった人はSNSをチェックしてもらえると嬉しいです! あなたの思い出になりたい。椎名かいねでした!

(望月悠木)

© 株式会社blueprint