バチバチではなくリスペクトし合う関係性――豊作世代の甲子園監督たちが“同志”から受ける刺激

敗軍の将にしてはやけに晴れやかだった。

「さりげなくプレーしているんですよ。ガツガツやるというよりも、非常にさりげなく淡々と実行する。決め球を打つボールにしてもファウルにすることなく仕留めていく。監督の意図するところが選手に伝わっていたのかなというふうに思いますね」
2回戦で山梨学院に敗れた創志学園の門馬敬治監督が試合後のインタビューで淡々と話していたのが印象的だった。負けた悔しさは当然あるのだろうけれども、それ以上に勝手知ったる指揮官が作ってきたチームにリスペクトを抱いている。

その表情には「さすがだな」「やられたよ」というのが滲み出ていているような語り口で、門馬監督はその敗戦に大きな価値を感じているようでもあったのだ。

「本気で勝利したいと思ってどの相手にもやるわけですよね。甲子園で過ごした時間というのは誰にも与えられたわけではなくて、だからこそ、そういう時間を力にしてほしい。吉田監督の野球から感じたことはたくさんありました。それは選手も同じだと思います。でも、それこそ負けて感じていては遅いわけでね。やっぱり勝った中でね、感じられるように。チームを強くしたいなというふうに思います」

最近ではよく知られるようになったが、甲子園監督の豊作世代というのがある。門馬監督とこの日の対戦相手だった吉田洸二監督はともに1969年生まれの同世代だ。このほかに、2度の春夏連覇を果たした大阪桐蔭の西谷浩一監督や京都外大西の上羽監督、常総学院の島田直也監督なども同じ世代にあたる。

やはり、指揮官同士、意識するところもあるというが、この世代の監督たちを取材すると独特な空気感がある。ライバルというバチバチしたような関係ではなく互いをリスペクトするような関係性だ。

西谷監督は話す。

「今大会は同世代監督が多いですよね。意識をするというか、仲間、同志ですね。お互い、それぞれの都道府県を勝ち抜けて良かったという気持ちはあります。僕らは昔から仲良かったというわけではなかったんですけど、島田監督は甲子園のスター選手でしたし、上羽監督は甲子園で選手宣誓をしたほどの選手でした。僕は甲子園も出れなかったので、その悔しさを持ちながら監督をしてきましたけど、門馬監督が2000年に初めて優勝した時に、同級生なんだーというのを思ったのを覚えていますよね。お互い刺激をいただきならやっています」 今大会の2回戦で勝利して、甲子園通算勝利数最多記録を更新した西谷監督にも勝てない時代があったが、こうした仲間の存在がいたことはその記録達成過程においては少なくなかっただろう。不遇な時代もありながら、同級生とともに歴史を刻んできた。

昨今は2022年の夏、東北勢初優勝を果たした仙台育英の須恵航監督やその前年の覇者・智弁和歌山の中谷仁監督など若い世代の指揮官の台頭も久しいが、西谷監督らの世代がこうして今大会多くが顔を揃えていたという意味では面白さも光った。
吉田監督は話す。

「不思議なんですけど、負けたくないとかライバル心はないんですね。この2試合同級生と試合をさせてもらって感じたのは良いことも悪いことも背負いながら僕ら進んでるんで、お互いが苦労したものがあってここでやってるんだなっていう感覚です。同じ時代を生きた仲間なんで、どっちかっていうと、戦ってるというよりもいたわり合いがあるかもしれませんね。お互いの苦労を分かち合えるから、勝った負けたじゃないんだなって。同級生に勝ったからどんな感情になるのかなと思ったけど、嬉しいとかはなかったですね。門馬監督も今の学校で2年目ですから、これからもっとチームを強くされるんだろうなと思います」

甲子園で優勝する監督にはそれぞれ歩いてきた道のりはある。強豪校には強豪なりの苦労があり、それを知っているからこそ互いのチームをリスペクトできるのであろう。

いく分、穏やかな表情で互いについて語りあう豊作世代の監督たち。まだまだその情熱が衰えることはなさそうだ。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。

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