有機野菜、添加物、うま味調味料……誤解が多い食の用語は?  『食の選び方大全』著者・あるとむインタビュー

2023年、イベントで販売された無添加のマフィンに起因する食中毒事件が発生し、SNS上では食の安全に対する関心が高まっているようである。添加物や農薬の使用の是非などは、いつの時代も消費者の関心が高いテーマだろう。とはいえ、スーパーの店頭にはいろいろな食品が並んでいる。原材料名などの表示を見ても、専門用語ばかりでなんだか難しい。どのように食品を選べばいいのか――迷っている人も多いのではないだろうか。

そんななか、『食の選び方大全』(あるとむ/著、浜竹睦子/イラスト、サンクチュアリ出版/刊)が話題を呼んでいる。著者のあるとむ氏は自然食品店の店長を務める傍ら、食糧アドバイザーとして食に関する様々な現場に立ち会ってきた。健康に生きるために重要な食とは、どのようなものなのか。あるとむ氏に話を聞いた。(山内貴範)

食にこだわってきた人にも関心を持ってほしい

――あるとむさんが本書を執筆しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

あるとむ:サンマーク出版の編集さんから、「自分には食の知識がないので、誰でもわかるような内容で書いてください」と提案があり、執筆を始めました。食の安全に初めて向き合う人には、「こんな選び方があるんだ!」と目から鱗になる内容に。そして、“向き合いすぎている人”にも向けて構成しようと考えました。

――向き合いすぎた人、といいますと?

あるとむ:日常的に農薬や添加物の有無に気を配り、食べ物を選んでいる人のことです。こだわりすぎたあまり、かえって体調を崩したり、ストレスや自己嫌悪に陥った人を何人も見ているんですよ。家族にこだわりが理解されていないケースもあり、せっかくの食事が楽しい場ではなくなっているケースもあるんです。いったい何のために食にこだわるのか、もう一度考え直してほしいと思いを込めました。

――食について啓発活動を行っているあるとむさんですが、もともとはジャンクフードもお好きだったそうですね。

あるとむ:3食ジャンクフードの日もあるほど、好きでしたね(笑)。母が自然食品のお店を経営していたのですが、高校の頃から親元を慣れていましたので、好みのままに食べ物を選んだらジャンクフードにばかりお金をつぎ込んでしまい、アレルギーや低体温症になって体調を崩すことも多かったんです。留学先で体調を崩して帰国したところ、両親が薦めてくれたのが自然食品の仕事でした。何もわからないまま会社説明会に行き、話を聞いているうちに食べ物の仕事に関心を持ちました。

――お母さんが自然食品の店を経営していたのに、ジャンクフードばかりとは(笑)! 何か反抗心のようなものがあったのでしょうか?

あるとむ:いえ、特に反抗心があったわけではないです。母はそういう仕事をしているのに、子どもに自然食品を強制するタイプではなかったんですよ。母は店を始めて30年以上になるのに、今でも食品に関する知識はあまりない方です。自分が食べておいしかったから、人に薦めているという感覚(笑)。でも、それでちゃんと続いているんだから、こだわりすぎないのが結果的に良かったのかもしれません。

あまりに偏りすぎてもよくない

――昨年はマフィンの食中毒事件が社会問題化しました。SNS上でも食に対する関心は高まっているように感じます。

あるとむ:振り返ってみると、いつの時代も食べ物は人々の関心事であり続けていますし、健康はいつでもブームになっています。テレビで「納豆が健康にいい」と放送されるとドサッと売れたりしますから、それくらい食べ物は多くの人にとって身近で関心の高いものだということでしょう。

――食べ物について、私はまったくと言っていいほど何も気にしないで食べてしまうのですが……(笑)。気にする人とそうでない人の差が極端ですよね。

あるとむ:僕も自然食品の業界に入った時はかなり思想が偏った時期があり、「そんなものを食べたら病気になるよ」とお客さんに言ってしまったこともあります。でも、年々、食べものに気を付けているのに体調を崩す人も見てきました。また、食べ物には見向きもせず、20種類のサプリを飲んでしまうなど、健康食品だけに偏ってしまう人もいました。食べ物のせいで生き方が窮屈になるのは本末転倒でよくないですよね。どうやったらお客さんが健康になり、楽しく食に向き合えるのか……と考えて、発信してきました。

――批判が多い添加物に関しても、あるとむさんは一定の理解を示しておられますよね。

あるとむ:添加物の健康面での良し悪しはいったん置いておいて、食中毒が予防できるなどの一定の効果がありますし、料理をする手間をショートカットしてくれる便利なものです。ただ、あまりに手軽になったせいで、生産者との距離が離れてしまい、食べ物を粗末に扱ってしまう弊害は生まれたと思いますが。

――うま味調味料について、あるとむさんはどうお考えですか。

あるとむ:ぼくは、うま味調味料を使うのも全然いいと思うんですよ。これも個人の選択ですからね。ただ、うま味調味料を使えば確かにおいしくなるのですが、何でもうま味調味料の味になっちゃうんですよね(笑)。できることなら、子どもの頃から素材本来の味は覚えておいて欲しいと思います。

意外と知らない、食の業界用語

――チョコレートと準チョコレートなど、見たことはあるけれど深くは知らなかった用語の説明まで、親切に加えられているのが本書の魅力だと思いました。

あるとむ:販売する側にとって当たり前の知識を、お客さんは知らないことが多いんです。SNS上でも間違って解釈されているし、専門家でも知らないで使っている人もいます。担当編集者もほとんど知らない様子でしたが、だからこそ初歩的なところから説明して、初めての人にも手に取ってもらいやすい本にできたと思います。

――お恥ずかしいことに、私も全然知りませんでした(笑)。なかでも、誤解が多い用語は何でしょうか。

あるとむ:やはり“有機”ですね。有機野菜って、第三者機関で承認をとったものしか名乗れないんですよ。そんな有機野菜ですが、国の管理の中で認められたものに限り、農薬の使用が許可されています。

――有機野菜って、無農薬じゃないんですか!?

あるとむ:はい。そのことを知った人は、「ぜんぜん有機じゃないじゃん!」と言いますが、一方で、“自然栽培”の方が怖いと指摘する人もいます。自然栽培は公的な検査機関による認証がないので、ちゃんとした検査が確立されていません。有機野菜は栽培の履歴も事細かにチェックされていて、3年間遡って認可外の農薬を使ってはいけませんし、農機具にも農薬が付着していないか調査されるなど、厳しい基準があります。これだけの規則を守っている生産者の努力を知ると、有機の価値を再認識する人もいるのではないでしょうか。だから、僕は生産者のもとを訪問し、現場で見たことをお客さんに伝えるように心がけているのです。

外国産のものでも、いいものはいい

――極端な“国産”信仰をする人も見かけます。

あるとむ:国産でも外国産でも、いいものはいいと僕は思うんです。国産を神格化しすぎるのはどうでしょうか。伝統を守るのもいいのですが、外国にも素晴らしいものがあります。現代はグローバル社会なので、いいものを取り入れるべきだと思うんですよ。他にも、生産者が外国でいいものを発見し、日本人の味に合うように加工して提供するのも素晴らしい知恵ですからね。

――食に対する関心は、日本と海外では異なるのでしょうか。

あるとむ:イギリスで考案されたフードマイレージという考え方があります。食べ物が生産地から届くまでにどれだけ地球環境に負荷がかかっているかを示す数値ですが、日本はこれが世界1位で、多くの食材を輸入に頼っていることがわかります。輸送距離が長いほど、多くのエネルギーを消費するので、二酸化炭素の排出量も増加し、環境負荷が高いといわれています。ヨーロッパはこれを減らすことも重視しています。特にドイツの人たちは、有機食品を選ぶ理由として、自分の健康のためというより、動物や植物を守りたいという環境への配慮を挙げる方が多いようです。

――この本を読んで、食に興味を持った人にまず実践してほしいことはありますか。

あるとむ:加工食品ばかり食べているようであれば、自分で料理を作ってみてはいかがでしょうか。ちょっといい調味料を用意して、みそ汁をつくってみたりして、手作りの良さを感じて欲しいです。日常の食の質を向上させたら、自然に健康になっていくと思います。消費者が食品を選ぶ基準の一つが値段ですが、有機栽培の食品は高いですよね。その価格の理由も、食品について知識を深めるとわかってきますし、生産者を応援したいという気持ちも芽生えてきます。

パン屋のおばあさんのエピソードに感激

――『食の選び方大全』の執筆に当たり、あるとむさんは生産者のもとを回ったりと、取材を行ったそうですね。取材中の興味深いエピソードなどはございますか。

あるとむ:ある老舗のパン屋さんに行ったとき、白砂糖をたっぷり使っている、まるで昭和のような菓子パンが売ってありました。現代の主流である。ヘルシー志向のパンとは対極に位置します。店のおばあさんに、「どんなことを思いながら、このパンを作っているんですか」と聞いたら、昔、娘さんにあまりパンを食べさせてあげられなくて、自分で作った砂糖たっぷりのパンを食べさせたら、凄く喜んでもらえたそうなんですね。その想いを大切にして、今もパンを焼いているのだそうです。

――感動的なエピソードですね。

あるとむ:食べ物で一番大事な、作り手の思いを感じ、大切なことを教えてもらったと思いました。胸が熱くなりましたよ。どんな食べ物にでも、役割があるんだなと。栄養素や効果効能、安全性などの視点だけでは測れない、食べ物が持つ役割を忘れてはいけないと思いました。

――最後に、この記事を読んだ読者にメッセージをいただけますか。

あるとむ:食べ物にこだわりを持ってこなかった人には、作り手がどんな思いで食べ物を作っているのか、考える機会をもっていただきたいと思います。食べ物に気を使いすぎてきた人は、もしかすると疲れている人も多いかもしれません。そういうときは原点に立ち返るべきです。食べ物は身体をつくるだけのものではなく、食べて幸せになることも本質であると、思い出していただきたいですね。

(山内貴範)

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