輪島で地震被災の19歳男性が福井大学医学部に進学 避難しながら受験「将来は奥能登助ける医師に」

能登半島地震の影響で隆起した海岸にたたずむ辻竜太朗さん。「将来は奥能登の医療に携わりたい」と誓う=3月27日、石川県輪島市輪島崎町

 能登半島地震で最大震度7を観測した石川県輪島市で被災し、避難生活を送りながら受験を乗り越え、福井大学医学部に進学する男性がいる。輪島市を含む半島最北部の奥能登地方は、医師不足などから「医療過疎」とも言われており「将来は奥能登の医療に携わり、患者に寄り添える医師になりたい」と誓う。

 男性は辻竜太朗さん(19)=石川県立輪島高校卒。医師を志したきっかけは、母が大病を患った小学2年にさかのぼる。長男の辻さんら幼い4人きょうだいを育てながら、同県金沢市内の病院に片道2時間かけて車で通院する姿は「かなりしんどそうだった」。中学生になると、奥能登は医師不足で医療体制が不十分だと知り「地域医療に携わりたい」との思いは一層強まった。

 その後、地域医療について調べると、福井県永平寺町と連携した訪問診療や、総合診療専門医の育成に力を入れている福井大学医学部の取り組みが目に留まった。大学受験に失敗し、浪人が決まった際には「1日12時間は絶対に勉強する」と強い気持ちで志望校を目指した。

 元日の地震発生時は、自宅近くの予備校で勉強中だった。突然の揺れに机の下に逃げ込んだが、つかんだ机の脚が上下に弾むような激しさ。収まると同時にスマートフォンとかばんだけを手にとって逃げ出し、教材は古文の単語帳しか手元に残らなかった。小学校に開設された避難所では「教材がないのが一番しんどかった。周りがざわざわしている中、単語帳を繰り返し覚えるくらいしかできなかった」という。

 避難する親戚の車に同乗し、1月3日に金沢市内のホテルへ2次避難した。不慣れな生活を強いられながらも、大学入学共通テスト用の教材を購入し、インターネット上にある予備校の問題を解きながら「ラストスパートをかけた」。共通テストは昨年を大幅に上回る点が取れた。学校推薦型選抜の面接に挑み「奥能登で地域医療に携わりたい」との思いを率直に伝え、合格を勝ち取った。

 地域医療で必要とされる総合診療医を目指すだけに「さまざまな病気に対する知識が必要」と、努力を重ねていく意志は固い。地震発生時、災害派遣医療チーム(DMAT)がいち早く輪島市に駆けつけ、活動する姿を目の当たりにした。「将来はDMATの一員として被災者を直接助けられるようになりたい」との目標も掲げている。

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