クラウドファンディングの可能性は尽きない 2023年の支援金額が示す市場の未来

クラウドファンディングと聞いて、「もう流行りじゃないですよね」と思った人もいるかもしれません。でもコロナ禍を超えて、支援金額は別に小さくなってなどいないのです。

今年(2024年)3月、GREENFUNDING AWARD 2023の発表がありました。クラウドファンディングプラットフォームのGREENFUNDINGが、1年間でもっとも支援を受けたプロジェクトに対して表彰をするものです。2023年のプラチナ賞を受賞したのは、この2つ。

・ViXion01、支援額約4億2500万円
・OPENFIT、支援額約2億6000万円

金額にびっくりした人もいるのではないでしょうか。

そして、2022年のGREENFUNDING AWARDでは、以下のプロジェクトが受賞しています。

・SHOKZ「OpenRun Pro」、支援額約1億9000万円
・JBL「Bar 1000」、支援額約1億2000万円

23年のプラチナ賞受賞プロジェクトの支援金額は、前年と比べてはるかに大きいことがわかります。

なお、私はここで紹介した、自動でピント調節する"オートフォーカスアイウェア"「ViXion01」(ヴィクシオンゼロワン)の関係者です。目の前でいろんなことが起きていくのをViXion01のクラファン期間中に味わいましたし、今も味わい続けています。実際、ViXion01がクラファンで集めた支援金額というのは、1メーカーが集めた金額としては、2023年最高の数字でした。つまり、クラファンとは、「過去に流行った一過性の現象ではない」ということです。今回は、その経験を元にクラファンの興り、国内外での立ち位置の差、そして現在とこれからの姿の話をしたいと思います。

あるアニメ映画が、「日本でのクラファン」を一躍有名に

クラウドファンディング(略称:クラファン)は、インターネットを通じて不特定多数の人々から資金を調達する新しい手法として、2010年代に入り世界的に急速に普及し、日本でも独自の発展を遂げてきました。

クラファンでは、斬新なアイデアを持つ個人や団体が、そのアイデアを実現するために必要な資金を、インターネット上で広く一般の人々に呼びかけ、賛同者から支援を募ります。支援者は、プロジェクトが目指す理念や目的に共感し、金銭的な支援を行うことで、その実現に寄与することができるのです。

海外では、クラファンは当初、アーティストの活動支援を中心に始まりました。Kickstarterのはじまりのきっかけも、「ライブをやれば満席近くになることがわかっている音楽家が、ライブのための小屋をおさえるお金がない」という話であったことが知られています。

一方、プロダクト開発への支援では、製品の納品が大幅に遅れたり、実現しなかったりする例が相次ぎ、問題となるケースもありました。支援したプロジェクトが、資金不足や技術的な問題により頓挫し、支援者に製品が届かないトラブルが多発したのです。ここに関しては、それを自己責任、つまり自分の目利きの力の問題とすることもできますが、一部には、詐欺的なプロジェクトも存在し、クラファンの信頼性を揺るがす事態となりました。

では、日本では、クラファンはどのように発展を遂げたのでしょうか。

日本のクラファン初期の大きな成功プロジェクトは、映画制作への支援でした。2016年に公開されたアニメーション映画「この世界の片隅に」は、クラファンを通じて製作資金を調達したことも話題となりました。これがきっかけとなって、クラファンの存在を知った人も多いでしょう。なにしろ、クラファンで資金集めをしていた映画が、その後大ヒット作になっていったわけですから。

実は私自身もこのクラファンを支援しており、今の水準では到底考えられない金額で、本編のエンドロールに名前がクレジットとして入りました。

こういった成功のおかげで、クラファンという存在が日本でも広く知られることになり、「モノづくりへのクラファン」もどんどん増えていきました。ただ、海外とは違う動きはありました。

海外のクラファンでは、クラファンにリスクもある部分は、ある程度理解されていました。しかし、日本では、日本人の品質へのこだわりという面もあり「支援したものが届かない」ことに対して海外以上に苦情が相次ぎました。

そのため日本のクラファン市場は、海外のクラファンと比較すると「完成品を届ける」ことを基本とする方向へ舵を切りました。プロジェクト主催者は、製品の品質を支援者に保証することが求められるようになり、未完成の製品や実現可能性の低いアイデアへの支援は集まりにくくなりました。

納期の正確さも、日本のクラファンでは求められるところです。プロジェクト主催者は、製品開発のスケジュールを明示し、進捗状況を定期的に報告することが一般的となりました。これにより、支援者は製品の完成時期を見通しやすくなり、安心して支援に参加できるようになったのです。日本を代表するクラファンMakuakeが、現在はクラファンという呼称ではく「応援購入サービス」という言葉でその事業を説明しているのも、こういった背景があります。

「それはもはやクラファンなのか、ただの購入なのではないか」という意見もあります。しかし、事前に資金を集めることで動けるようになるというのは現実としてありますし、クラファンというのは集まった金額が良くも悪くもはっきり見えるので、その成功の度合いがわかりやすいという利点があります。

「新製品のテストマーケティング」にも

現在、日本のクラファンは、目標金額を達成することが大前提としてあるとしても、それだけが目的ではなく、ビジネスの手段のひとつとして活用されています。会社名も知られてないスタートアップにとっては資金調達だけでなく、プロモーションの役割が重要です。「新製品が出ます」という情報だけで、注目を集めたり、メディアが取り上げてくれたりすることは、まずありません。

この製品でこれだけのお金を集めたということが、ある意味で話題の広がりを担保してくれる形となっているわけです。さらに、自分たちの製品がどう受け止められるのかを知ることで、製品やサービスの改善点を見出し、ブラッシュアップしていくことができるのです。

大企業にとっても、クラファンは「新製品のテストマーケティング」の場として重宝されています。いわゆる市場調査よりももっと消費者に近いところで、その反応を探ることができ、成功次第ではありますがより効率的です。もちろん話題性の高いプロジェクトは、メディアに取り上げられる機会も増え、通常の製品よりも広告宣伝効果も期待できます。

ただし、クラファンで成功を収めるのは容易ではありません。プロジェクト主催者は、社内外で幾度となく体験会を開催し、潜在顧客の声に耳を傾ける必要があります。支援者とのコミュニケーションを通じて信頼関係を構築し、プロジェクトへの理解と共感を深めていくことが肝要です。

例えば、ViXion01の場合でいうとクラファンをスタートさせる前の時点で、直接連絡が取れる人たち限定ではありましたが、20人規模の体験会を2回実施しています。そこで得られた知見をクラファン開始時のウェブサイトに反映させました。このおかげで、その新規性がゆえにわかりにくい部分もあった製品が、理解されやすくなりました。

SNSの活用も欠かせません。プロジェクトの進捗を定期的に発信し、支援者の期待に応えることが重要です。双方向のコミュニケーションを重ね、プロジェクトの魅力を広く伝えることで、新たな支援者の獲得にもつながります。

ViXion01では、二子玉川にある蔦屋家電+での展示をクラファンスタートの初日から実施していました。そして、その初日に目に問題を抱えた息子さんがいる親子連れが訪問してくれました。そこで交わされた感動的な言葉は、対応した店員からそのままViXion側に伝えられ、体験者の声として取り上げることができました。こういった製品に対する生きた言葉が波のように広がっていき、スタートダッシュの要因の1つとなりました。

1億円以上の資金調達を達成すれば、メディアに取り上げられる機会も格段に増えるでしょう。新聞やテレビ、雑誌など、様々なメディアに露出することで、プロジェクトの知名度は飛躍的に向上します。メディア露出は、プロジェクトの信頼性を高め、事業の成長を加速させる原動力となるのです。

日本のクラファン市場は、独自の進化を遂げながら、スタートアップや大企業のビジネスツールとして確立しつつあります。綿密な準備と支援者との緊密なコミュニケーションが、クラファン成功の鍵を握ります。実際、クラファンの募集期間が終わった途端にユーザーとのコミュニケーションをすっかりやめてしまう事例というのはけっこう見かけるのです。

当初、日本のモノづくりに新風を吹き込む存在として、発展が期待されたクラファン。一過性のものではなく、十分根づいた感があります。

つまり、クラファンで成功して終わりではなく、ある意味「クラファンで成功する」を前提として、自分たちのビジネスのロードマップの中にどう組み込んでいくかが求められています。

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