「金持ちは何をしても許されるのか」性的暴行で有罪のD・アウベス、1.6億円で保釈に批判。ロビーニョの電撃逮捕はその影響か【現地発】

元ブラジル代表DFのダニエウ・アウベスが14か月と5日ぶりに塀の外の空気を吸った。

2022年の12月、D・アウベスはバルセロナのナイトクラブの化粧室で23歳の女性に性的暴行をしたとして、年が明けた1月20日に逮捕され、そのままずっと収監が続いていた。

D・アウベスは事件に対し最初は「被害者の顔も知らない」と否定していたが、その後「会ったかもしれないが何もしていない」「接触はあったが直接の行為には及んでいない」「性的行為はしたが合意の上だった」「実は泥酔状態でほとんど何も覚えていない」と5回も供述を覆した。

そんなD・アウベスに対し、被害者側は12年の刑を望み、検察側は9年を求刑。この2月の裁判では有罪が確定し、刑期は4年半だった。

しかしD・アウベスの女性弁護士(なんとグアルディオラという苗字だ)はこれを不服とし、彼をすぐさま自由の身にするよう求めた。その理由は「すでに14か月拘束されていること」「初犯であること」「外国人であること」「犯行時に泥酔状態であったこと(スペインでは泥酔状態は心神喪失の状態であると解釈され、責任能力がなかったと判断される)」「補償金を前払いしていること(昨年8月にネイマールが150万ユーロを融通した)」などだ。

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被害者女性側からはもっと重い刑が求められていたが、スペインの裁判所が出した答えは100万ユーロ(約1億6000万円)を払うなら保釈を認めるというものだった。判決が出たあとD・アウベスはすぐさま刑務所を後にできたはずだが、彼はその後も2晩を塀の中で過ごした。保釈金100万ユーロをすぐにそろえることができなかったからだ。彼は多くの財産を持っているが、前の妻と慰謝料問題で争っていることから銀行の金は凍結されており、そのほかはすぐに現金化できない不動産だ。

D・アウベスの保釈金の件が表に出ると、すぐさま反応したのはネイマールの父だ。

「誰もが知っているように、私たちは、最初はDエウ・アウベスを助けた。しかし今回はあり得ない。スペインの裁判所はすでに彼に有罪判決を下している。それなのに人々は憶測で、私や息子の名前を出し、関係ない問題に結びつけようとしている。私たちとしてはダニエウが自分の家族とともに、この問題を解決することを願っている。私たちにとって、私の家族にとって、この問題は終わったことなのだ」

彼はかなり強い調子で声明を出した。ネイマールは昨年D・アウベスの賠償金を肩代わりし、「犯罪者に加担するのか」とかなり叩かれた。今回は予防線を張ったのかもしれないし、もしかしたら実際にD・アウベスから打診があったのかもしれない。ネイマールがまた払ってくれると信じていたとすれば、事前に保釈金を用意していなかったのも納得がいく。

とにかく100万ユーロは支払われ(今のところ出所ははっきりしてはいないが、多くは前妻が銀行の凍結の解除に動いたと見ている)、3月25日の16時25分D・アウベスは自由の身となった。ただし彼のパスポートは没収され、ブラジルに帰ることはできす、毎週木曜日に警察に出頭することが義務付けられている。

それでもとにかくD・アウベスは久々に熱い風呂に入り柔らかいベッドで眠ることができた。ウーバーイーツでハンバーガーも注文したようだ。
しかしこの処置には多くの者が非難を浴びせている。被害者側はもちろん、即刻彼を刑務所に戻し、刑を全うせるように訴えているし、多くの世論も裁判所のこの判断に異を唱えている。

「金を払えば、罪は消えるのか」
「結局金持ちは何をしても許されるのか」

TVや新聞のジャーナリストもD・アウベスにというよりは、このスペイン司法のシステムに疑問の声をあげている。こうした圧に押されて、裁判所が保釈を取り消す可能性も十分ありうる。

ところでD・アウベスが出所したのと入れ替わるように刑務所に入ったのがロビーニョだ。ロビーニョは2013年、ミランでプレーしていた際に集団暴行の罪で起訴され、2017年にはイタリアで懲役9年が言い渡されている。ただし刑が確定した時、ロビーニョはブラジルに逃げ帰っており、そのまま自由を謳歌していた。

ブラジルには国外で有罪となった自国民を引き渡すことが禁止する法がある。ブラジルから出ない限り、彼は逮捕されないはずだった。しかし今回ロビーニョが突然逮捕された。インタポールがこの件にかかわりブラジル当局に強い圧力がかかったからもあるようだが、D・アウベスの保釈を受けて、金持ち選手の性犯罪を問わない風潮を疑問視する声が、ブラジルでもあがってきていることも無関係ではないようだ。

ブラジルのルーラ大統領は「金で性犯罪を買うことはあってはならない」と声明を出し、ブラジルサッカー連盟も「犯罪を犯した者はその罪を償わなくてはいけない」との声明を出している。

それにしてもかつてブラジル中を沸かせたスターたちが、こうした犯罪を起こし、何よりそれから逃げようとしていることには残念であり、憤りを感じる。

取材・文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子

【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/1963年8月29日生まれ、ブラジル・サンパウロ出身。ジャーナリストとし中東戦争やユーゴスラビア紛争などを現地取材した後、社会学としてサッカーを研究。スポーツジャーナリストに転身する。8か国語を操る語学力を駆使し、世界中を飛び回って現場を取材。多数のメディアで活躍する。FIFAの広報担当なども務め、ジーコやカフー、ドゥンガなどとの親交も厚い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授として大学で教鞭も執っている。

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