反町隆史が『GTO』26年ぶり復活に込めた思い 「現状に対して力を込めて“ノー”と言いたい」

1998年に放送され大ブームを巻き起こした『GTO』が一夜限りの復活を果たす。カンテレ・フジテレビ開局65周年特別ドラマとして4月1日21時より放送される『GTOリバイバル』で、再び伝説の教師・鬼塚英吉を演じる反町隆史に、奇跡の復活の舞台裏や『GTO』への思いについて話を聞いた。

『GTO』26年ぶり復活の背景には『トップガン』の影響も

ーー今回の『GTOリバイバル』は反町さんからの声がけで実現したそうですね。過去に何度か復活しないかというオファーもあったそうですが……。

反町隆史(以下、反町):僕が『ビーチボーイズ』に出演したのが23歳のときで、その1年後、24歳のときに『GTO』に出演したので、あれから26年経つわけですが、その間に何度か再び『GTO』をやらないかというオファーをいただいたことは実際にありました。ただそのときは、過去の作品を復活させるということに対して、俳優としてどうなんだろうという思いもありましたし、基本的には新しいことに挑戦したかったので、自分の中で前向きに捉えられなかったんです。なので、「またいい機会があれば」というかたちでお断りしていました。

ーーそういう背景がありながら、なぜ今復活させようと思ったんでしょうか?

反町:『相棒』(テレビ朝日系)を7年やっていたときに、ちょうど僕が歌っていた『GTO』の主題歌「POISON ~言いたい事も言えないこんな世の中は~」を赤ちゃんに聞かせると泣き止むという現象が話題になったこともありましたが(笑)、改めて自分が書いた歌詞を見直したときに、「結構いいこと言ってるな」と思ったんですよね。これを今の時代に置き換えたらどうなるんだろうと思ったのがきっかけでした。今の時代に『GTO』や鬼塚英吉は存在しないけれど、「もしかしたら今の時代だったらもっと通用するのかな?」というのが、まずひとつ、僕なりの見方でした。

ーー「POISON ~言いたい事も言えないこんな世の中は~」がきっかけでもあったんですね。

反町:それと、トム・クルーズの『トップガン マーヴェリック』を観て感じたことがあって。あの作品は『トップガン』以来36年ぶりの続編でしたが、その間にトム・クルーズは俳優としていろんな代表作があったのに、なんで今『トップガン』を復活させるのかなと正直思ったんです。ただ、実際に観てみると、映画の内容はもちろんですけど、俳優としてのトム・クルーズの生き様に共感できたんです。これはすごいことだなと。自分も昔、「また『GTO』をやりませんか?」って言われたときに、「今はちょっと……」と断ってしまいましたけど、『トップガン マーヴェリック』を観て、「あ、今だったらできるな」と自分自身につながったんです。ただ再び鬼塚英吉を演じるということではなくて、結局、訴えたいことや伝えたいことがないとできないものなので、今だったら鬼塚英吉として、自分なりに話せることがあるのかなと。それがもうひとつのきっかけでした。

ーー今、鬼塚英吉として「訴えたいこと」「伝えたいこと」とは?

反町:それは生徒に対しての「愛情」ですね。僕には2人の娘がいて、彼女たちは留学でアメリカの学校に通っているのですが、先生方の愛情が、日本とアメリカではものすごく違っているなと感じていて。日本にももちろんいい先生はいるとは思いますが、愛情のかけ方や手厚さが文化として異なっているんです。今の日本の高校生たちは、尊敬している先生がいるのか、先生から愛情をもらっているのか、そして先生たちは本当に生徒たちのことを親身に考えてくれているのか……と。普段ニュースを見ていても、「いや、これはないよ」という事件がものすごく多かったりしますし。鬼塚英吉は、生徒の目線に立って愛情を表現をする教師なので、令和のこの社会に、鬼塚が大事にしているものを出したいなと思いました。

ーーとはいえ、前作から四半世紀のブランクがあるわけで、復活させるにはいろいろとハードルもあったのではないでしょうか?

反町:実は、決定稿が上がるまでに相当時間はかかりました。準備稿が12稿もあったんです。もちろんそれは、プロデューサーも制作陣も脚本家も僕自身も、やっぱりいい形でやりたいという思いが強かったからで。今回は1998年の『GTO』とはプロデューサーも脚本家も違うので、みんなが考える『GTO』を一致させるまでに、それなりの時間がかかったんですよね。そこの擦り合わせはすごく大事でした。僕自身が一番最初に思って、そして最後まで思っていたことは、1998年当時に『GTO』を観てくださっていた方たちに対して裏切りがないようにしたいということでした。当時観てくれていた方たちに「これが『GTO』だよね」「これが言いたいんだよね」「こういうことだよね」と思っていただけるような脚本を作りたかったんです。

ーー当時『GTO』を観ていた人たちにとって、池内博之さん、山崎裕太さん、窪塚洋介さん、徳山秀典さん、小栗旬さん、藤木直人さんら26年前の『GTO』メンバーが再集結するというのは、ものすごく大きなトピックです。

反町:約2日間の撮影だったので、そこまでがっつり共演できたわけではないのですが、自然と当時の雰囲気を感じることができました。特に男同士ですし、余計な会話があるわけでもないんですけど、みんなも「なんか懐かしいな」と感じていたんじゃないかなと思います。僕は過去のことを忘れっぽいほうなんですけど、山崎裕太くんが意外といろんなことを覚えていて。「え、そんなことあったっけ?」っていうこともありました。あと、小栗くんと窪塚くんと池内くんと山崎くんとで、グループLINEを作ったんですよ。そこで池内くんが当時のスケジュール表を送ってきて。「お前なんでこんなの持ってんの?」って(笑)。そういうこともありましたね。でも僕が一番印象的だったのは、みんなが『GTO』を大事にしてくれていたこと。『GTO』という作品に対して、この25年間、みんなが愛情も思い出も全部背負っていてくれたことが、僕にとっては一番嬉しいことでした。

ーー彼らが戻ってくるのは反町さんのアイデアだったんですか?

反町:彼らが出てくれると、1998年版を観てくれていた方たちに「おぉ、懐かしい!」と思ってもらえると思ったので。当然ながらその期待感はあると思いましたし、その期待に応えるというのが復活させる意味でもあったので、プロデューサーの安藤(和久)さんと相談しながら、オファーさせていただきました。

ーー反町さん自身はすぐに鬼塚に戻れましたか?

反町:きっかけとして、過去の映像は見返しました。ただ今回は役作りというよりも、本をみんなで作ったりしていく中で、鬼塚の言葉が徐々に自分の中に染み込んでいったので、現場に立ったときに自然と「この感じだな」となりましたね。そこは無理することはありませんでしたし、26年前と変わらなかったです。あと、最後まで自分が現場で言わせてもらっていたのは、とにかく熱く芝居をして、熱くいること。とにかく全てにおいて熱くやるのが『GTO』だと思うので、そのエネルギーが観ている方に伝わって、「この瞬間っていいな」と思ってもらえればいいなと思いました。

反町隆史にとって『GTO』鬼塚英吉の存在とは

ーー反町さんはこれまでさまざまな役を演じられていますが、その中で『GTO』の鬼塚英吉はどういう位置付けなのでしょう?

反町:『利家とまつ~加賀百万石物語~』(NHK総合)で織田信長を演じたり、『相棒』(テレビ朝日系)で刑事ドラマに挑んだり、本当にいろんな役を演じてきましたが、『GTO』の鬼塚英吉って、「こういう先生いたらいいな」とか「普通の先生はこういうこと言ってくれないよね」という存在で、普通の大人じゃないところがあったと思うんです。鬼塚の姿を見て、ちょっと爽快になれるというか、「そうそうそう!」と共感できるような存在というか。

ーーそうですね。

反町:25年経って、自分自身も“大人”になったときに、今の子供の社会って、ある意味残酷だなと思ったんです。やっぱり若いときって余裕もないですし、みんながみんな自分のことしか考えていないといいますか。大人になったら少しは学習して、相手のことを思ったりできますけど、若いときって、1人1人がすごく不安を抱えていて、自分のことしか考えられない。で、大人になって普通に生きていたら、みんな出世したいですし、お金も欲しいし、家族が大事なので、生き方も変わってくる。でも、鬼塚は何も変わらないんです。ドラマの中で、傷ついた奴がいんのに見て見ぬふりはできない、ガキの頃にできた傷はガキのときに治してやんないと、などと鬼塚が言うシーンがあるのですが、僕自身もまさしくそうだと思っていて。自分自身いろんな役をやっている中で、自分が『GTO』を通して言いたいのはそこなんですよね。俳優として、それを伝えたいです。

ーー反町さんのそういう強い思いが込められた役柄が鬼塚英吉だと。

反町:先ほども言いましたが、教師にとって一番大事なのは、生徒に対して愛情を持って接することだと思うんです。だから我々大人も、子供の目線に立つことが大事。ある一線を越えてしまったら、大人も介入しなければいけないところが必ずあると思うんです。それを学校や先生の立場の人が見て見ぬふりをするのは、僕は違うような気がする。そして、その一線を越える存在が鬼塚なんです。だから今の学生や先生たちが『GTO』を観て、「こんな先生いたらいいな」とか「鬼塚がこういうことを言ってたけど、なんかわかるな」と何かのきっかけになってくれれば嬉しいですね。それが僕にとっての俳優としての醍醐味でもありますし、『GTO』で鬼塚英吉を演じてよかったと思える瞬間になると思うので。

ーー反町さん自身は俳優として、この26年間で何か変わったことはありますか?

反町:今回復活させてみて気付いたんですけど、当時は演じるだけで精一杯というか、ただがむしゃらにやっていたところがあったんです。それこそ自分のことでいっぱいいっぱいでした。でも今は、自分のためというよりかは、作品を観てくれる人たちが何か救われるような題材に挑んだり、役を通して救いになるようなことが言えたらいいなと思うようになりました。この令和という、いろんな不安や悩み、葛藤がある時代の中で、今の若い人たちにエネルギーを与えたり、期待感が得られるきっかけになればいいなという気持ちですね。「POISON ~言いたい事も言えないこんな世の中は~」の歌詞の中に、「冷めた目で笑いかけてる」というフレーズがありますが、それが今の世の中じゃないですか。「横にいる人助けないの?」「もっと心で会話できないの?」って思うんです。自分は「いや、人間はそうじゃないよ」と思いたい。痛かったら痛い顔をしていいし、誰かが痛い顔をしたら「大丈夫?」って声かけてくれる人が絶対にいる。その麻痺してしまっている現状に対して、自分は力を込めて「ノー」と言いたいです。
(文=宮川翔)

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