「ちょっとあなた、何よその口ぶりは」義母の嫌味は、関心の裏返しに聞こえてくる。|うさぎの耳〈第二話〉谷村志穂

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あまり期待してはいけない、と自分に言い聞かせていた。

「お義母さん、買い物は、メモにある通りでいいですよね?あとすみませんが、今日は少し余分にほしいんです」

夕方になると綺麗なウールのセーターに明るい色のパンツなどにはき替えて、髪の毛を整えて、うっすらメークもする。そして、俳句のノートを手に、少し近所を散歩する。帰ると自分の食べたい料理を私に頼むか、気が向けば自分でも作る。いつも白ワインを二杯くらい飲むようだ。

彼女との再会は、あっけないほど早く訪れた。翌月曜日、以前と同じベンチに座っていたら、また髪の毛をふわりと揺らした女性が公園に現れたのが視界に入ったのだ。

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谷村志穂●作家。北海道札幌市生まれ。北海道大学農学部卒業。出版社勤務を経て1990年に発表した『結婚しないかもしれない症候群』がベストセラーに。03年長編小説『海猫』で島清恋愛文学賞受賞。『余命』『いそぶえ』『大沼ワルツ』『半逆光』などの作品がある。映像化された作品も多い。

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