産総研、博士号取得を支援 修士卒者育成図る 茨城・つくば 採用を強化、学費負担

産業技術総合研究所の本部・情報技術共同研究棟=つくば市梅園

産業技術総合研究所(産総研、茨城県つくば市)が、修士卒研究者の育成に力を入れている。今年4月から対象者の博士号取得を業務に位置付け、学費などを全額負担。金銭面や卒業後の就職先に対する不安などから博士課程への進学率が全国的に低下する中、博士号取得を後押しして高度研究人材の育成を図る。

産総研は、基礎研究から社会実装まで幅広い研究基盤の構築を目指し、研究職の採用を強化。これまで100人程度だった採用者を2022年度に120人、23年度には150人に増やした。

採用は博士号取得者が中心ではあるものの、採用強化の一環で、23年から研究領域8分野全てで修士卒研究職の採用を開始。修士卒採用はこれまで「地質」「計量」の2分野で10人未満にとどまっていたが、23年度は3分野以上で計18人に増えた。

修士卒研究者の支援態勢では、大学との共同研究などを前提に、業務の一環として博士課程に入学し、大学教官の指導の下で論文を執筆、博士号取得を目指す。各分野の研究グループ長などが育成責任者となり、研究内容について相談も受ける。

学費については、これまで博士号取得は業務外だったため、補助は上限10万円だった。今後は、産総研が大学院の入学費や授業料、通学費などを全額負担する。修士卒研究者は入所後10年以内、通学開始から5年以内の博士号取得を目指す決まりだ。

産総研の人材マネジメント推進室は、高度研究人材の育成が急務とした上で「経済的事情で博士課程へ進めない人も含め、修士卒で研究開発に意欲のある人を採用したい」と話す。

文部科学省によると、国内の博士課程の入学者数は03年度の1万8千人余りをピークに、22年度は1万4000人程度に減少。修士課程から博士課程への進学率も緩やかな減少傾向が続いており、1981年の18.7%から2022年度は9.9%とほぼ半減した。

同省の科学技術・学術政策研究所の調査では、博士課程に進まず就職を選んだ理由について、全体の4割以上が「生活の経済的見通しが立たない」と回答。また、博士課程修了後の就職を懸念する回答も3割超に上ったという。

産総研は「課題解決や産業競争力の向上などを担う中核的な存在となることを期待して、全面的に博士号取得を推進していきたい」としている。

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