心の鎧(3月31日)

 新潟県の私立高野球部を長年率いた名監督が取材で明かした。信頼関係をつくろうと、就任当初は厳しい指導に徹した。ナインは口数少なく、心を開いてくれない。自らについて「知らず知らず、鎧[よろい]を着ていた」▼ある時、必要なことは真逆だったと気づく。「指導者も時代の変容に合わせて変わらなければ、選手は離れていく」。笑顔で相手の気持ちをほぐし、対話しながら互いの溝を埋めていった。チームの力は年を追うごとに伸びた。在任中、春夏合わせて8度、甲子園に導いた▼JOB総研の「上司と部下の意識調査」によると、上司の59.7%、部下の56.6%が「上下間のコミュニケーションを大切にしたい」と答えた。残る4割の考え方が気になるが、世代間で完全に心を閉ざし合っているわけではなさそうだ。ちょっとしたきっかけが必要なのかもしれない▼今年の春のセンバツで33年ぶりの甲子園出場を果たした学法石川。監督は多数決で髪型を選ばせ、練習メニューも自主性を大事にしたという。復活の裏側には、選手の気持ちを軽やかにくみ取る指導法があった。鎧は重たく、肩が凝る。あすから新年度。まとう人あれば、古豪にあやかり、脱ぐに限る。<2024.3・31>

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