浜口の居酒屋「焼き鳥 雀の巣」 惜しまれ30日閉店 女将が切り盛り…赤ちょうちん半世紀 長崎

今月下旬、閉店が迫った「焼き鳥 雀の巣」で接客する女将の光武邦代さん=長崎市

 長崎県長崎市浜口町で、半世紀以上にわたって赤ちょうちんをともし続けた居酒屋「焼き鳥 雀の巣」が、30日で営業を終了した。閉店が決まって以降、カウンターとテーブル2台で15席ほどのこぢんまりとした店内は連日、名残を惜しむ常連客らでにぎわった。1986年に夫を亡くした後、40年近く店を切り盛りしてきた女将(おかみ)の光武邦代さん(83)は「大変だったが一生懸命やって、家庭の主婦では味わえない経験がたくさんできた。今は幸せ」と思いを語った。

 光武さんは平戸市出身。「雀の巣」は65年、結婚したばかりの光武さんと夫の修さんが、長崎市本石灰町に開店。4年後に浜口町へ移転した。修さんは86年に51歳で急逝。後を引き継いだ光武さんは朝から晩まで働き、2人の子を育て上げた。

 焼き鳥や刺し身、季節の手料理などを安価で提供し、浜口町の飲食街で老舗として知られた。古くから通うなじみの客に加え、近年は昔懐かしい雰囲気に引かれ、県外から訪れる人もいた。しかし昨年末に光武さんが体調を崩し、年明けに閉店を決めた。

入り口にともった赤ちょうちん。昔懐かしい雰囲気に引かれ、多くの客がのれんをくぐった

 閉店まで1週間を切った25日午後6時ごろ。店内は既に客でいっぱい。入り口近くのテーブルとカウンター席には、2021年に82歳で亡くなった画家、前田齊(ひとし)さんが1975年ごろから約30年間、店の向かいで開いていた絵画教室の元生徒ら9人が集まっていた。
 教室が終わると、毎回のようにここで杯を傾け美術論を交わしたという。この日は福岡市在住の前田さんの妻昭子さん(84)も駆け付け、思い出話に花が咲いた。教室に初期から通った長崎市の美術家、内藤修子さん(74)は「前田さんを慕って中央の有名な画家らが訪れ、ここで一緒にいろんな話を聞いた。その中で絵のことを根底から学んだ」と往時をしのんだ。

閉店を惜しむ客でにぎわう店内

 一番奥のカウンターで背中を丸めていたのは、共に元県職員で同市の下舞修さん(73)と山下敬則さん(75)。下舞さんは30年来の常連で、国内外の山々を踏破した光武さんの山登り仲間でもある。この日は店で働く光武さんの姿を5年ほど前、趣味のカメラで撮影した写真をパネルにして持参。記念にと光武さんや店員に贈った。
 下舞さんは「寂しい。仕事が大変な時も、この店でたくさん癒やしをもらった。(光武さんを)また山に誘いたい」としんみり。
 連日の盛況に「みんなが来てくれてうれしいけど、もうへとへと」と穏やかに笑う光武さん。「お店をやめたら、のんびりと列車で旅行でも楽しみたい」。そう言うと、引きも切らない注文をこなすため厨房の奥へと消えていった。

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