タグ・ホイヤーポルシェフォーミュラEチームの公式SASEパートナーが語るレースで勝つためのIT運用とは

3月29日から30日にかけて、フォーミュラEが日本で初開催を迎える。これに際し、29日に東京・港区にあるポルシェスタジオ銀座にて、タグ・ホイヤーポルシェフォーミュラEチームの公式SASEパートナーであるCato Networksがプレス発表会を実施した。テレビで観ているだけでは分かりづらい部分だが、今回のプレゼンテーションでは興味深い話が聞けた上に、成績に直結するファクターであることを再認識することができた。

次世代のモータースポーツで王者に君臨しているポルシェ

2014年にシリーズが始まったフォーミュラEは、電動自動車のフォーミュラカーで競われるレース。世界各国の市街地やサーキットで行われる次世代のモータースポーツカテゴリーとしてスタートした。化石燃料を使用せず、音に関してもモーター音のみと環境問題と騒音問題をクリアしたことで、これまでは不可能だった市街地でのレースは当時画期的でありセンセーショナルだった。

東京で初開催されたE-PRIXでは、パスカル・ウェーレイン(#94/写真)とアントニオ・フェリクス・だコスタ(#13)が参戦。アグレッシブな攻めを見せたが、それぞれ惜しくも5位と4位という結果だった。

開催国やレース数も増えていき、2020年にはFIA(国際自動車連盟)主催の世界選手権として世界格式のレースにまで成長。今年日本で開催されるフォーミュラEに、ポルシェは2019年から参戦している。

2021-2022シーズンでは初優勝を挙げるなど、毎年着実に結果を残していき、2022-2023シーズンに新しいシャシー「Gen3」が導入されると一気に躍進。ポルシェのパワートレインを積むアバランチ・アンドレッティ・フォーミュラEのジェイク・デニスが開幕戦で優勝すると、ポルシェのワークスチームであるタグ・ホイヤー・ポルシェ・フォーミュラEチームのパスカル・ウェーレインが第2戦と第3戦で連勝し、ポルシェは一躍チャンピオン候補の筆頭となった。

デニスとウェーレインはさらに1勝ずつ挙げ、チャンピオン争いを展開する。最終的にはコンスタントにポイントを積み重ねたデニスがチャンピオンに輝き、ポルシェがフォーミュラEで初の王者に輝いた。

今季も4戦終了時点で2勝を挙げているポルシェ。パワートレインやドライバー、チーム力はもちろんだが、この活躍の裏にはITによる支えも大きく影響しているという。

ポルシェの躍進をITで支えるCato Networks

今回プレス発表会を実施したCato Networksは、これまで2019年に提唱されたSASEプラットフォームを提供する業界の先駆け的存在。SASEとは、数が増え複雑化しているセキュリティとネットワークを1つのプラットフォーム上で管理できる概念だ。

共同創業者兼CEOであるシュロモ・クレイマー氏のビデオメッセージも流れた。

これまでセキュリティやネットワークは1つの課題に対して1つの構成というのが主流だったが、それではシステム全体がバラバラに管理されているため、管理や運営コストの増加、接続遅延といった課題が出始めていた。

統一されていない複数のシステムが同時に動く場合、セキュリティリスクが高まるうえに、1つのデバイスだけに問題が起こったことなのか、どんな情報が盗まれたのかなど原因を特定するための調査にも莫大な時間と労力を要してしまうという。

Cato Networksでは複雑化されたセキュリティとネットワークを一元管理するクラウドであるSASEプラットフォームを提供し、ユーザーを脅威から保護・機密データの損失防止に貢献。同社は、SASE分野のリーディングカンパニーとして世界で2200以上のクライアントを抱えている。

難しく馴染みのない分野だが、私たちの日常生活でいうと、かつてはカメラやコンピュータ、音楽を聴くことを複数のデバイスで行っていたが、今はiPhone1台でおこなうことができる、みたいなことだろうか。

今回のプレス発表会では、Cato Networks株式会社セキュリティ戦略担当シニアディレクターのイタイ・マオル氏が登壇。SASEやCato Networks株式会社の概要について上記の説明があった。

Cato Networks株式会社セキュリティ戦略担当シニアディレクターのイタイ・マオル氏からは、ウイルスやマルウエアよりも、バラバラに管理されたネットワークやセキュリティこそが企業にとって最大の脅威になると語られた。

また、東京E-Prixに先立ち、ハードウェアをアップデートせずに10Gbps(データ通信を表す単位)を達成という新記録を樹立したことも併せて発表された。この業界では10Gbpsという数字は特別なことではないそうだが、セキュリティとネットワークの両方をカバーしての10Gbps達成は唯一無二の記録だという。

SASEが提供する強力なサポート

ポルシェのワークスチームであるタグ・ホイヤーポルシェフォーミュラEチームとCato Networksがパートナーシップ契約を結んだのが2022年11月のこと。

リザーブドライバーでシミュレーターでの作業も多いシルベストロ選手。今回のTokyo R-Prixのように全くの新しいサーキットではシュミレーターで3〜4日かけて訓練すると現場で適応できるレベルになるという。東京大会の舞台となる特設コースについては、前半セクションはタイトだが、レーキングポイントはさほど難しくないため、回生もしやすいと印象を語っていた。

フォーミュラEではバッテリーの消耗具合や、アタックモード(アクティベーションゾーンと言われるコースの外側に設定されている区間を通過することで、一時的にパワーレベルを上げることができる。計2回の通過義務があり、入るタイミングは各チームそれぞれ。コースの外側を通過することになるため、タイムやポジションを落とすリスクがある。いつ発動するかの決断が勝敗を分けるファクターのひとつだ)を使うタイミング、タイヤの温度などリアルタイムでデータを分析し、瞬時に判断を下さなければならない。

ポルシェはドライバーとピット以外に、ドイツにあるポルシェ・モータースポーツの本拠地であるヴァイザッハ研究開発センターとの連携をとりながらレースを戦っている。しかし、世界中を転戦するだけに、国や地域によってはレイテンシ(データ転送における指標のひとつで、転送要求を出してから実際にデータが送られてくるまでに生じる、通信の遅延時間のこと)が大きく変わってくるため、これまで対応には苦労したという。

たとえ地球の反対側であろうとも、ドイツにあるチーム本部からリアルタイムで送られてくるデータは結果に直結するだけに、正確さと信頼性は重要だ。

これはどの企業にも言えることだが、各メーカーが鎬を削るモータースポーツにおいても情報は速さ以上に、セキュリティ面も充実していなければいけない。このことからも、セキュリティとネットワーク両方を一元管理したプラットフォームを持つCato Networksが選ばれたのも納得だ。データを安心かつ即座にドライバーや現場チームにフィードバックできるCato Networksの高性能なプラットフォームは、パートナーシップ締結後、結果として表れている。

今回のプレス発表会では、Cato NetworksやSASEについて知ることで、近年のポルシェ勢のバッテリーマネジメントをはじめとする強さを理解することができた。(写真:河村大志、ポルシェA.G.)

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