運賃上げられれば簡単だが…トラック業界が頭を抱える「2024年問題」、荷主や消費者の危機感は薄く

産地で集荷した農産物を別のトラックに積み替える実証実験=2023年12月、鹿児島市本港新町(画像の一部を加工しています)

 トラック運転手の時間外労働が4月1日から年960時間に規制され、輸送量低下によって物流が滞る「2024年問題」が懸念されている。対策を講じなければ、24年は19年比で14.2%(4億トン)、30年には34.1%(9億トン)の輸送能力不足に陥るとされ、大消費地の都市部に遠く、輸送時間がかかる鹿児島県にとっては深刻な影響が予想される。物流の危機をどう乗り越えるのか。商慣行の見直しや作業の効率化、荷主や消費者らの意識変革…。現場では試行錯誤が続いている。

 食料供給基地の役割を担う鹿児島県は日々、遠く離れた大消費地へ農産物を運んでいる。農産物は手作業による荷物の積み降ろしが多く、季節や天候による物量の変動も激しいため、運送業者の負担が特に大きい。課題は大きく二つある。県内各産地からいかに効率良く集めるか、遠く離れた消費地へどう届けるか。関係者は対策を模索してきた。

 南大隅、錦江両町の生産者でつくる「なんぐう地区ばれいしょ専門部会」は、3年前から選果場でパレット(荷役台)の活用を始めた。以前は10キロの箱入りバレイショを運転手が一個一個、手作業で積み降ろししていた。パレットに載せることでフォークリフトを使えるようになり、労務も作業時間も削減された。

 海上輸送も増えつつある。乗船中は休息を確保でき労働時間にもカウントされないため、運転手1人で遠くまで運べる。JA物流かごしま(鹿児島市)は関東・関西向け青果物でフェリーの活用を徐々に増やし、従来の5割程度から約7割に引き上げた。ただ、陸送に比べ東京で片道3万円、大阪で2万円ほど費用が上がる。最近は規制を見据えた他社の利用も増え、予約が取りにくくなっている。

 労働時間が規制されれば、例えば鹿児島-関東では同社の場合、1カ月間で1人が往復できる回数は約1割落ちる。一方、離職の懸念から賃金は下げられないというジレンマを運送業者は抱える。

 幹線事業部の早稲田一剣部長は「運賃を値上げすれば簡単だが、金額が大きいと生産者へのしわ寄せが大きい。コストを商品価格に転嫁できるよう消費者の理解も必要」と訴える。

 物流業界では、産地で荷物を集約する集荷車両の活用や、消費地の拠点で別便へ荷物を積み替える中継輸送など、安定輸送へ試行錯誤する。ただ、運送業者の危機感に比べて送り主や受け手の当事者意識には濃淡がある。新たな規制のもと、業界は多くの課題を抱えたまま走りだす。

■「国民全体で物流を考えて」(県トラック協会長)

 残業規制が始まるが、これまで5年間の猶予期間があり、1日から何かが大きく変わることはないだろう。物流は国民生活や経済を支えるインフラと言える。ただ運送業をはじめ、行政、荷主、消費者と、各セクションで切迫感が違っている。国も本腰を入れ始めたが、社会全体の問題として捉えられていない。

 これまで船便利用や中継輸送といった実証実験に取り組んできた。運転手の労働時間は削減できるものの、問題はコストの増加。この増加分をどのように解消するかが難しい。価格転嫁については荷主側の理解は広がりつつあると思うが、その先の納品先までは及んでいない。消費者の理解はまだまだという印象だ。

 運賃とは別に荷役作業料を出し、自動運転のフォークリフトを活用するなど、大手を中心に改革の動きは見え始めた。これが中小や零細企業まで波及することに期待したい。隣の宮崎県ではフェリーを使う場合、一部を補助する制度がある。行政側にも、さまざまな支援を検討してもらえればありがたい。

 24年問題はピンチではなくチャンスとして捉えたい。社会的な課題として、国民全体が物流を考える契機になればいい。今はその過渡期だと思っている。業界としても待遇改善を図り、持続可能な業種へと変わる努力を続けたい。

「2024年問題は社会全体の問題として捉えられていない」と話す鹿児島県トラック協会の鳥部敏雄会長

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