「丁寧に書きなさい」「静かに待ちなさい」京都府立高校の入試会場、なぜ命令調?

試験上の注意の放送に耳を傾ける受験生(2月15日、京都市上京区・鴨沂高)

 「丁寧に書きなさい」「静かに待ちなさい」。京都府公立高入試の会場を取材で訪れると、命令調で試験上の注意を告げる放送が流されていた。ただでさえ緊張している受験生にさらなるプレッシャーをかけることにならないか。文言が決められた経緯や、他の自治体の対応を探った。

 前期選抜のあった2月15日の府立鴨沂高(京都市上京区)の教室。試験開始前に、「答案用紙に受付番号を記入しなさい」と最初の放送があった。その後の注意事項の説明でも、「不正なことをしないように、真面目に受検しなさい」と続いた。ただ、全てが命令調ではなく、「解答時間は50分間です」などの丁寧な表現も一部にみられた。

 アナウンスの例文は府教育委員会が作成している。例文が作成された時期や経緯ははっきりしなかったが、府教委の担当者は「入試の形態が変わった1985年度からはこの形だろう。試験上の注意は、お願いではなく、あくまで指示。『…ください』では、受験生にやるか、やらないかの判断を委ねているようにもとられかねない。簡潔に伝えたいとの思いもあったのだろう」と当時の状況を推測する。

 受験生はどう受け止めたか。鴨沂高の複数人の合格者に尋ねた。「命令調だったのは覚えているが、緊張のあまり何も感じなかった」「覚えていない」と問題視する声は聞かれなかった。

 現在の注意の例文は各自治体の教委で文言が異なる。滋賀県は「…ください」、「…いけません」と丁寧語の表現になっているという。兵庫県も「全てを把握しているわけではないが、命令形はないのではないか」。一方、大阪府、奈良県、和歌山県は京都府と同様に、「書きなさい」などと命令調の表現があるとした。

 「筆記試験には『答えなさい』との設問が多くみられることから、単に命令調の注意が悪いとはいえない。やさしい声なのか、緊張感のある硬い声なのか、それでも受け手の印象は全く異なる」と指摘するのは、元NHKアナウンサーで大阪芸術大の住田功一教授(音声表現)。ただ、大学共通テストでは、試験開始と終了の『始め』と『止め』以外は『ください』などの表現が用いられていることを挙げ、「今後は丁寧語や『ですます調』が主流になるのではないか。受験生にはどうするのがよいのか、時代に合わせて考えるべきだろう」との見解を示した。

 今後のアナウンス例文の在り方について、京都府教委高校改革推進室は「今の例文は、当の府教委職員でも首をかしげる部分は確かにある。受験生からの苦情はなかったとしても、変えていかないといけないだろう」と2025年度の入試では変更を検討するとした。

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