『ラブライブ!』色褪せないアイドルアニメとしての功績 後輩グループにも継承されるμ'sの意志

『ラブライブ!』シリーズの原点となるスクールアイドルユニット・μ'sに、改めて注目が集まっている。というのも、彼女たちの活躍を描いたTVアニメ『ラブライブ!』の放送10周年を記念したイベント『TVアニメ放送10周年記念 LoveLive! Special Talk Session』が、2024年2月23日・24日の2日間、東京ガーデンシアターで開催され、μ'sのキャストたちが(9人全員ではないが)ひさしぶりに1つのステージに集ってライブを届けたのだ。

彼女たちが単独イベントで歌唱したのは、2016年に東京ドームで開催された伝説のファイナルライブ『ラブライブ!μ's Final LoveLive!~μ'sic Forever♪♪♪♪♪♪♪♪♪~』以来、約8年ぶりのこと。それ以前にも、2020年1月に行われたシリーズの9周年イベント『LoveLive! Series 9th Anniversary ラブライブ!フェス』で9人揃ってのライブを披露し、大きな話題となった。

声優ユニットとしては初の『第66回NHK紅白歌合戦』出演や東京ドーム公演開催など(いずれも声優個人としては水樹奈々が先に実現している)、数々の伝説を打ち立てたμ'sは、今でもステージに立つだけでニュースになるほど、大きな存在であり続けている。それほどまでに彼女たちの功績は大きく、後続のシリーズや他のアニメ作品に与えた影響も計り知れない。『ラブライブ!』とμ'sの何が革新的で人々を魅了したのか。アニメの放送から10年が経った今の視点から振り返ってみたい。

μ'sが当時のアニメおよびキャラクターコンテンツのシーンにおいて、絶大な人気を獲得した理由の1つとしてまず挙げられるのが、シリーズ全体の根幹になっているスローガン「みんなで叶える物語」を徹底した活動だろう。TVアニメ『ラブライブ!』第1期の放送が開始したのは2013年1月のことだが、コンテンツ自体のスタートは2010年、雑誌「電撃G's magazine」の誌上企画にさかのぼる。当初はグループ名も決まっておらず、1stシングル『僕らのLIVE 君とのLIFE』は「ラブライブ!School idol project」名義で発表されたのだが、その後、一般公募によってグループ名が「μ's」に決定。さらに2ndシングル『Snow halation』からはセンターポジションの投票企画が行われるようになるなど、ファンの意見やアイデアを取り入れながら進路を決めていった。

おそらく当時のアイドルシーンで隆盛を誇っていたAKB48の選抜総選挙にヒントを得たものだろうが、そういったファン参加型の運営方針が、ファンにも自分を含めた「みんなで叶える物語」という意識を持たせ、より熱中させる要因となったのは間違いない。ちなみにセンターポジションの投票企画は、後続シリーズである『ラブライブ!サンシャイン!!』のAqoursのナンバリングシングルにも受け継がれたほか、『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』でも初のアニメーションPV付きシングルが制作される際に、ファン投票で歌唱アイドルが選ばれた(その結果、制作されたのが中須かすみ「無敵級*ビリーバー」)。

また、アニメのストーリー面においても「みんなで叶える物語」というコンセプトはしっかりと貫かれている。そもそもμ'sがスクールアイドルユニットと謳っていることからもわかるように、『ラブライブ!』シリーズで描かれるのは「スクールアイドル」という、学校の部活動としてアイドル活動に励む女子高生たちという設定。そのなかでμ'sは、母校の統廃合を防ぐため、学校を宣伝して入学希望者を増やす目的でメンバー9人が集まり、スクールアイドルの日本一を決める大会「ラブライブ!」への出演および優勝を目指す。様々な逆境や困難、ライバルとの勝負を乗り越えながら、絆を深めて一丸となっていく彼女たちの「みんなで叶える物語」は、アイドル作品でありながら部活動もの特有のスポ根的な熱さも内包している。ただかわいさを描くだけではない、ドラマチックで心を熱くするストーリーこそが、幅広い層の支持を得た理由と言えるだろう。

さらにμ'sの魅力を語るうえで欠かせないのが、キャストによるリアルライブだ。キャラクターを演じる声優が自らステージに立ち、アイドルとしてライブを行うコンテンツと言えば、『アイドルマスター』シリーズが先行して存在していたわけだが、『ラブライブ!』およびμ'sのライブにおいて際立っていたのが、スクリーンに投影されるアニメーションのライブ映像と、キャストの動きをシンクロさせたパフォーマンス。アニメやPVで観た名シーンの数々が、実際のステージで同じ振り付けやフォーメーションで再現される楽しさと没入感たるや、当時は他ではなかなか味わえないものだった。また、彼女たちはそれを実現するために相当量の練習を重ねていたという話で、実際、ステージ上での彼女たちの振る舞いは、歌もダンスも含めて、本物のアイドルと遜色ないものだった。μ'sのキャストには、子役タレント出身の飯田里穂や歌手活動をしていたPileなど、もともとは声優専業ではない人材もメンバーに抜擢されていたわけだが、彼女たちの活躍が声優のマルチタレント化をさらに推し進めた側面もあったように感じる。

そんなμ'sの活躍およびTVアニメ『ラブライブ!』で描かれたスクールアイドルの物語は、後続のシリーズにも様々な形で継承されている。「廃校の危機を救うためにアイドル活動を行う」というストーリーのひな型は、静岡県・沼津市の架空の学校を舞台にしたTVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』の物語に受け継がれ、Aqoursはさらにアニメとのシンクロを強めたパフォーマンスやライブ演出によって人気を集め、2018年にはμ'sと同じ東京ドームでの単独ライブを実現、2022年には再度東京ドーム公演を行った。

また、「スクールアイドル=グループによる活動」という従来のシリーズの概念を覆し、メンバー全員がソロアイドルとして活動しているのが『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』。アニメでは、同じ同好会の仲間であり、ときにはライバルとして切磋琢磨し合う関係性、そしてメンバー個々のパーソナルな部分により迫ったストーリーが描かれ、ライブではキャラクターごとに個性豊かなパフォーマンスを楽しむことができるのも特徴だ(もちろん全員で歌唱する楽曲やユニット曲も存在する)。

そして『ラブライブ!スーパースター!!』では、スクールアイドルユニット・Liella!のメンバーたちが物語の進行に合わせて進級し、後輩メンバーの加入によって人数も最初は5人組だったのが、9人組、11人組と推移していく、今までのシリーズにはなかった要素が加わっている。さらにアプリゲーム「Link!Like!ラブライブ!」を中心に展開されている『ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ』では、現実の時間経過と連動したゲームシステム、3Dモデルによるリアルタイムのバーチャルライブや生配信といった要素が採用されており、より臨場感をもってスクールアイドルたちの物語に触れることができる。

そのようにμ'sが打ち出した「みんなで叶える物語」「ライブにおけるキャストとキャラクターの同期性」といった部分を踏まえつつ、各シリーズごとに新たな挑戦をしながら進化しているのが『ラブライブ!』シリーズなのだ。

ちなみに『ラブライブ!』シリーズのキャストにはμ'sの活躍に刺激を受けていたというメンバーも多く、Aqoursの伊波杏樹や鈴木愛奈はAqoursとして活動する以前からラブライバーだったことで知られるし、Liella!の伊達さゆりや鈴原希実も『ラブライブ!』好きが高じて『ラブライブ!スーパースター!!』の一般公募オーディションを受けた経緯がある。また、『ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ』のキャストである楡井希実、花宮初奈、月音こなもμ'sに憧れを抱いてオーディションを受けたと公言しているほか、『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』の優木せつ菜役を楠木ともりから引き継いだ林鼓子も『ラブライブ!』ファンとして知られ、Run Girls, Run!時代に「Snow halation」をカバーしたことがあるほか、愛称の「はやまる」はμ'sの矢澤にこ役の声優・徳井青空の愛称「そらまる」から取られたものだ(徳井のファンである父親が命名したという)。

いずれにせよ、TVアニメ『ラブライブ!』とμ'sが当時巻き起こした、社会現象とも言うべきムーブメントは、『ラブライブ!』シリーズの枠を超えて広がりを生んだ。『Tokyo 7th シスターズ』『Re:ステージ!』『IDOLY PRIDE』のように、ゲーム/アニメ/リアルライブなどのメディアミックス展開を行うアイドル作品が増加し、『ラブライブ!』を手がけた木皿陽平も『SELECTION PROJECT』『シャインポスト』といった作品で音楽プロデューサーを担当。今や声優がアイドルとしてステージに立つのは珍しいことではなくなった。その先駆者として、μ'sという存在はいつまでも色褪せることなく輝き続けることだろう。
(文=流星さとる)

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