【光る君へ】「四角関係」の誕生か?道長の複雑な婚姻事情

吉高由里子主演で、日本最古の女流長編小説『源氏物語』の作者・紫式部(ドラマでの名前はまひろ)の人生を描く大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。3月24日放送の第12回「思いの果て」では、藤原道長が周囲の政治的思惑&本人の猛プッシュで源倫子と結ばれるのと並行してもうひとり、訳ありの女性が登場するところが描かれた(以下、ネタバレあり)。

倫子(黒木華)の部屋に通された道長(柄本佑)

■ 第12回「思いの果て」あらすじ

まひろから、妾になることを拒否された藤原道長(柄本佑)は、父・兼家(段田安則)や姉・詮子(吉田羊)が望んだ通り、左大臣・源雅信(益岡徹)の娘・倫子(黒木華)の婿入り話を進めることにする。一方息子が即位したことで、皇太后となった詮子は、兼家が追い落とした政敵の娘・源明子(瀧内公美)と道長の縁談も同時に進めるが、明子が詮子に近づいたのは、兼家の呪詛が目的だった。

道長婿入りの話を渋る雅信(益岡徹)

兼家や詮子に苦手意識を持つ雅信は、道長婿入りの話を渋るが、倫子が「私は道長さまをずっとお慕いしておりました」と涙ながらに訴え、妻・穆子(石野真子)も娘の味方をしたことから、泣く泣く結婚を承知する。そして庚申の夜、道長は突然左大臣邸を訪問。道長が倫子の部屋に通されると、倫子は自分から積極的に道長に迫り、道長はとまどいながらもそれに応えた・・・。

■ 出世コースに乗るための最良の選択

本当に好きな人とは結ばれなかったから、ヤケになって自分にモーションをかける金持ちと結婚した・・・というのは、結構いろんな小説や漫画では定番の展開ではあるけれど、そのルートにまんまと乗ってしまったのが、この第12回の道長くんだ。ただ歴史的な視点で見ると、この結婚は道長にとっては、出世コースに乗るための最良の選択ではあった。

境遇が違うまひろ(吉高由里子)に気を使う倫子(黒木華)

まず倫子は天皇家に近い高貴な家柄で、父・雅信は左大臣と、間違いなく五本の指に入る権力者。摂関家をのぞいては、これほど盤石な実家はそうそう存在しない。しかも『光る君へ』の倫子は、境遇が違うまひろにも気を使えるほど優秀なバランサーで、政治状況などもしっかり把握していることが、第11回で描写されていた。決してうわついた令嬢ではなく、まひろとは別のベクトルで優れた女性というスタンスになっているのだ。

いっそまひろをいじめ抜いたり、実は性格が悪い悪役令嬢であったなら、私たちは心おきなくまひろサイドに付けたのに、倫子さまは倫子さまで応援したくなるキャラにしたのは、制作側の人の心のなさ(褒)だ。今後2人は道長をめぐって、大なり小なり腹のさぐりあいや、マウントの取り合いみたいなことが起こるだろう。そうなったら私たちは、本気でどちらの味方に付けばよいのか? と、今からハラハラしてしまっている。

雅信(益岡徹)に涙ながらに訴える倫子(黒木華)

■ 絶対に不穏、三角関係を超えた四角関係

さらに、追い打ちをかけるように登場したのが、もうひとりの未来の妻・源明子だ。家柄は倫子とは決して遜色ないけれど、父・高明が大宰府に左遷されてしまい(この顛末は、実は在りし日の直秀たちの散楽一座も演じていた)、バックが脆弱というのがマイナスポイントとなり、北の方にはなれなかった。とはいえ設けた子どもの数は倫子と同じぐらいなので、立場的にはほぼ同等だったとも言われている。

倫子同様、明子の方もまた、道長からアプローチしたのではなく、やはり姉・詮子のお膳立て。しかしその狙いが権威というより「高明の怨霊を鎮めるため」というのが、平安時代ならではの理由だろう。そのためには、ほかの同腹の兄弟よりも大らかで信頼がおけて、なおかつ「穢」同様「怨霊」にも無頓着そうな道長に白羽の矢を立てるのは、まあ当然っちゃ当然と思える。

藤原家への復讐心を燃やす明子(瀧内公美)

ただこの明子女王、どうやら胸の内では父を追い落とした藤原家への復讐心をひそかに、そして激しく燃やしているという、倫子とは対極のダークサイドキャラだったことが判明。詮子に近づいたのも、兼家呪詛のアイテムを手に入れるためと明言しており、大変おだやかではない。こんなおっかない女性がどうやって「子だくさんのお母さん」に変貌を遂げるのか、そしてまひろとの関係はどうなるのか? この三角関係を超えた四角関係、絶対に不穏なものにしかならなさそう・・・。

『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。3月31日放送の第13回『進むべき道』では、まひろが新たな生きがいを見つけると同時に、道長の父・藤原兼家(段田安則)の栄華に陰りが出てくるところが描かれる。

文/吉永美和子

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