東京ドーム公演急増の背景とは? 市場やトレンドが変化する一方で大規模会場不足に懸念も

2024年に入って、東京ドームでの単独ライブ公演が目覚ましく増えている。

これまでたびたび公演を行ってきた人気アーティストやアイドルグループだけでなく、2日間で約10万人を動員したBE:FIRST、解散ライブとなったBAD HOPなど初の東京ドーム公演を実現させる例も相次いでいる。

3月27日には、NewJeansが初の単独来日公演『NewJeans Fan Meeting 'Bunnies Camp 2024 Tokyo Dome'』を6月26日・27日に開催することも発表された。海外アーティスト史上最速となるデビューから約2年での東京ドーム公演だ。

2024年の1月から3月までに開催された東京ドーム公演の数は計33公演(後述の『オードリーのオールナイトニッポン in 東京ドーム』を含めた算出)。コロナ禍前の2018年や2019年の同期間と比較しても倍以上の数字だ。

なぜ東京ドーム公演はここまで増えてきているのか? 音楽シーンの潮流と構造的な変化をもとに考察したい。

まず一つ目の理由は、世界的なライブエンタテインメント市場の好況だ。世界最大のイベントプロモーション企業であるライブネーション・エンターテイメントの業績発表によると、2023年の売上高は前年比36.4%増の227億ドル。観客動員数、チケット売上共に過去最高を記録した。この先もさらなる成長が見込まれている。

大物アーティストによるスタジアムツアーの動員増もグローバルなトレンドとなっており、これを反映するように、2024年初頭には大物やレジェンドクラスの海外アーティストの来日公演が相次いで東京ドームで行われた。1月にはブルーノ・マーズによる7日連続の公演、エド・シーランの約5年ぶりの来日公演が実現。2月にはテイラー・スウィフトが『第66回グラミー賞』と『第58回スーパーボウル』の合間に4日連続の公演を行った。また、ビリー・ジョエルは74歳にして約16年ぶりの来日公演を行い、Queen + Adam Lambertは初の4大ドームツアーを実現させた。これらの公演の増加には、アジアなど海外からの渡航客からのニーズが高まっていることも背景にある。

二つ目の理由は、アイドルグループのみならず、ドーム公演を積極的に目標に掲げるアーティストが増えてきたということが挙げられる。今年1月から3月にかけて初の5大ドームツアーを完遂したKing Gnuを率いる常田大希(Gt/Vo)は、2022年に初の東京ドーム公演を行った際に「子供の頃に憧れていたドームクラスのロックバンドを作ること」がバンドの結成理由だったと明かしている。国内HIPHOPアーティスト初の東京ドーム公演を実現させたBAD HOPもドーム公演をグループの目標に掲げてきた。昨年6月に解散ライブを行ったBiSHや、11月にONE OK ROCKとの対バンライブを行ったMY FIRST STORYも活動初期から東京ドームのステージに立つことを目標として公言してきた。BE:FIRSTもデビュー当初からドーム公演のビジョンを語っている。

かつては武道館がアーティストの“夢”としての聖地のイメージを担っていたが、いまや東京ドームが“物語”を実現させる場所、ファンとの“約束”の場所になってきているということだ。

そういう意味では、音楽ライブ公演ではないが、2月に開催され星野源もサプライズ登場した『オードリーのオールナイトニッポン in 東京ドーム』もエポックメイキングなイベントだったと言える。芸人の単独イベントとしても、ラジオの番組イベントとしても最大規模。前代未聞のイベントを実現させた原動力もオードリーとリトルトゥース(リスナーの愛称)との“物語”だった。

そして、三つ目の理由には、K-POPシーンの盛況とボーイズグループシーンの地殻変動が挙げられる。昨年にはBLACKPINK、SEVENTEEN、東方神起、aespa、ENHYPEN、Stray Kids、TREASUREが東京ドーム公演を開催。ENHYPENとStray Kidsにとっては初の国内ドームツアーとなった。2024年2月にはSHINee、3月にはNCT 127が東京ドームのステージに立っている。

3月には滝沢秀明が代表取締役を務める芸能事務所 TOBEの所属アーティストが出演する初のコンサート『to HEROes ~TOBE 1st Super Live~』が4日間にわたって開催。三宅健、北山宏光、Number_i、IMP.、大東立樹、wink firstが出演し、計22万人を動員した。

2010年代を振り返ると、年間の東京ドーム公演のうちの3~4割を旧ジャニーズ事務所所属グループのコンサートが占める年も多かった。EXILEや三代目 J SOUL BROTHERSなどLDH所属のダンス&ボーイズグループも大きな動員を記録していた。比べると、様々な要因によってシーンが多様化したのが今の状況につながっていると言えるだろう。

また、ドーム公演増加の背景には機材や演出の進化もある。特にLEDビジョンの目覚ましい大型化と高解像度化は大きい。かつては一番後ろの客席からステージを見るとアーティストが豆粒のようにしか見えなかったが、ビジョンによって一体感と没入感のある空間演出が可能になったことでオーディエンスの体験価値が上がったことも見逃せない。

複数のライブやイベントで同じステージ設営を使用する動きも進んでいるようだ。2月17日にはJUJUのデビュー20周年を記念したライブ『スナックJUJU 東京ドーム店 ~ママがJUJU20周年を盛大にお祝い!! 一夜限りの大人の歌謡祭~』が開催された。翌18日には前述のオードリーが、19日にはBAD HOPが東京ドーム公演を行っているのだが、『BAD HOPのオールナイトニッポン0』(ニッポン放送)で語られたことによると、JUJUとオードリーとBAD HOPでセットや機材を共用することで会場費用を抑えることができたのだという。

この後も東京ドームでは、COMPLEX(吉川晃司と布袋寅泰)、YOASOBIなど、モニュメンタルな公演の数々が行われる予定だ。ただ、当然、開催できる公演数には上限はある。そもそも東京ドームは野球の試合が主に行われる場所だ。

長期的な先行きを考えると、東京における数万人規模の会場の不足という新たな問題が表面化する可能性もある。国立競技場や日産スタジアムや味の素スタジアムはあるが、5万人以上を収容できる首都圏の全天候型多目的スタジアムというと、今のところ東京ドーム以外には見当たらない。そして、その東京ドームもすでに築35年以上を迎えており、そろそろ老朽化から建て替えの準備を見据える時期となっている。

野球やサッカーなどのスポーツ産業だけでなく、ライブエンタテインメントにとっても、都市圏におけるスタジアムやアリーナの整備は今後さらに重要な局面を迎えていくのではないだろうか。

(文=柴那典)

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