裁判所の対応は手探り状態…再審制度「ルールづくりを」 大崎事件再審認めた元裁判官・根本渉さん、法整備へ「世論の後押し必要」

「再審は裁判所の考え方によって対応に差が出る」と語る元裁判官の根本渉弁護士

 超党派の国会議員連盟が設立され、裁判のやり直し(再審)の法整備に向けた機運が高まっている。審理長期化による救済の遅れが指摘され、1979年に大崎町で男性の変死体が見つかった「大崎事件」を巡っては4度目の再審請求が続く。2018年に福岡高裁宮崎支部の裁判長として再審を認めた根本渉弁護士(66)に大崎事件の印象や再審制度の在り方を聞いた。

 -大崎事件を担当した。

 「男性は自宅牛小屋の堆肥に埋められていた。親族らの家が隣接し、それぞれ周囲を崖や林に囲まれている。死体遺棄の事実がある中、外から来た人の犯行は想定し難いとして親族が疑われた。状況証拠の推認力が相当働いている事案だ」

 「怪しい証拠と強力な状況証拠で有罪認定されている。解剖した法医学者は再審請求審段階で窒息死の見解を変更し、共犯者の自白は記録を見ても公判廷でまともな証言ができていない。怪しい証拠を怪しいと言っても結論が覆らない妙な関係になっている」

 -第3次再審請求で再審開始を認める決定をした。

 「提出された法医学鑑定は死因について出血性ショックの可能性があるとした。鑑定に使われた当時の解剖写真は鮮明で、信用できると判断した。(確定判決の)窒息死が覆ってしまうと、首を絞めて殺したという殺人の根拠がなくなる」

 「殺人がなかった場合、側溝に倒れていた被害者を自宅まで運んだ人たちは重要な参考人になる。証言の信用性が慎重に吟味されるべきだが、善意の第三者は問題にならないと位置付けられていた」

 -最高裁は取り消した。

 「最高裁が積み重ねた判例の範囲で判断したつもりで、中身の事実の判断が覆されるとは思っていなかった。法医学鑑定に関し、直接解剖していないという理屈で否定されたが、それでは鑑定の見直しがほぼ不可能になる。他の事件への影響も危惧される」

 -大崎事件は過去に3回も再審開始が出ている。

 「何度も開始決定が出ていることには重みがある。再審の目的は冤罪(えんざい)被害からの救済。もし審理中に請求人が亡くなったら取り返しがつかない。救済が数十年後では遅い。再審はできる限り早く結論が出されるべきだ」

 -再審制度の現状をどのように見ているか。

 「再審請求審で出てきた証拠が決定的な判断につながった事件もあり、再審における証拠開示は制度化すべきだろう。さらに、再審公判の前段階である請求審のハードルが高くなっている。早期救済のためには検察官の抗告を禁止することが有効な方策となる。検察官に不服がある場合は公判で争えばいい」

 「裁判所の対応は手探りの状態で、ルールづくりが必要。法改正に向けた超党派の国会議員連盟ができても、法務検察が積極的に動かない限り、世論の後押しがないと進まない。静岡の袴田事件の再審公判は年内の判決が見込まれる。その時期は一つのチャンスだ」

 〈略歴〉ねもと・わたる 1957年生まれ。福島県いわき市出身。東京大学法学部卒。福岡高裁宮崎支部長、福岡高裁部総括判事などを歴任し、2022年5月に定年退官。現在は東京・麹町で弁護士として活動する。

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