高橋ヨシキ&柳下毅一郎、『ゴッドランド』を語る 「フレームの外側を考えさせられる」

エリオット・クロセット・ホーブが主演を務める映画『ゴッドランド/GODLAND』が3月30日に公開。東京・渋谷にあるシアター・イメージフォーラムでは、アートディレクター・映画ライターの高橋ヨシキと、翻訳家・映画評論家の柳下毅一郎のトークイベントが行われた。

本作は、北欧で注目を浴びるフリーヌル・パルマソン監督の最新作。第96回アカデミー賞国際長編映画賞アイスランド代表選出作品で、第75回カンヌ国際映画祭ある視点部門に出品されるなど、世界で注目を浴びる作品がとうとう日本に上陸した。

19世紀後半、デンマーク人の牧師・ルーカス(エリオット・クロセット・ホーブ)は、同国の統治下に置かれていたアイスランドへ布教の旅に向かう。辺境の村に教会を建てる任務を負ったルーカス。しかし、馬に乗ってはるか遠い場所をめざす旅は、過酷なものだった。彼は、デンマーク嫌いの年老いたガイド・ラグナル(イングヴァール・シーグルソン)と対立し、予期せぬアクシデントに見舞われる。瀕死の状態で村にたどり着くと……というあらすじだ。

先日、パルマソン監督にオンラインインタビューをしたという2人。高橋は「映画を観れば分かりますが、すごく真面目な人」と印象を述べる。続けて「ご本人が言っていたのは、『映画というのは、準備をするのに、ものすごく時間がかかるもの。何年も準備して、例えば撮影となると1カ月かかってしまう。僕は毎日撮って、毎日編集したいから、今でも家の周りに出ては撮って、編集して……をよくやっているんだ』と言っていましたね。そんな考え方もあるんだなと思いました」と語った。

一方、柳下は、本映画のモチーフにもなっている馬が亡くなるカットについて紹介。「定点で、土に帰るまでを撮っているんですよ。あれは、監督の実家が農家で、お父さんの馬が亡くなったときに、2年かけて撮影したそうですね。毎日撮っていたものを作品にしよう、というところから『ゴッドランド』は出来上がったそうです」と明かした。

そんな馬は旅の中でもルーカスたちのお供として活躍しているが、裏でも重要な役割を担っていたようで、「(ロケ地は)本当に馬でしか行けない場所だったので、撮影機材などの荷物を馬に乗せて移動していたそうです」と柳下。撮影隊も過酷な状況であると紹介した。

スクリーンサイズにもこだわりがある本作。通常、映画は映像に余裕を持たせて撮影し、映画館のスクリーンサイズに合わせて区切るのだが、あえてフルスキャンすることで、フィルムの端が見えるようになっているという。高橋はその方法を絶賛しつつ「(映画を観ていると)フレームの外側を考えさせられるんですよ。映っていないものもあるので、“今観ているものはこれだけの窓なんですよ”ということを常に意識させられる作りになっていて……。それって本作のテーマと結びついているのかなと思います」と感想を述べた。

また、「面白いのは、伝道物語ではないんですね。当然、随分前からアイスランドにキリストは来ている。あれは区分を分けて、自分の教区を作っているんですよ。要はマトリクス化しようとしているんです」と高橋。終盤、ラグナルがルーカスに向かって言う台詞については「深堀りのしがいがある。どういうつもりでそれを言ったのか。いろんな意味に取れると思いますけどね。テーマとクライマックスが見事に一致しているなと思いました」「多層的にすごく真面目に考えられた映画なんで、いろいろ考えることがいくらでもできる」と振り返った。

エリオット・クロセット・ホーブも、イングヴァール・シーグルソンも監督の作品には出演経験がある役者だ。高橋が「気心が知れたいい役者とスタッフとが、時間をかけて一緒に映画を作っている」と言うと、柳下も「お金という意味ではなくて、贅沢な映画ですよね」と同調していた。
(文=浜瀬将樹)

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