『光る君へ』高畑充希がチャーミングな定子として登場 兼家の信念を受け継ぐ予感も

『光る君へ』(NHK総合)第13回「進むべき道」。4年前の政変で、摂政となった兼家(段田安則)は瞬く間に息子たちを昇進させ、政権の中枢に置く。月日は流れ、一条天皇(柊木陽太)が元服してわずか20日後、道隆(井浦新)の娘・定子(高畑充希)が入内した。道隆たち中関白家の絶頂期が始まろうとする一方で、権勢を誇る兼家に老いが迫る。兼家の後継者争いもまた始まろうとしていた。

その頃、まひろ(吉高由里子)は市に出かけた際、文字が読めないことで人買いに騙されてしまった親子の姿を目の当たりにする。道長(柄本佑)と別れた日のことを思い返したまひろは、自分の使命は文字を教えることによって民を救うことだと考え、行動に起こす。

道長は都で政に励み、まひろは文字を教えると言う自らの使命を見つけ歩み始めた。自分たちが暮らす世界でお互いの道を歩んできた2人だが、それぞれの行動の要にはお互いの存在がある。たとえ顔を会わせていなくとも、まひろと道長はお互いを思い続けている。劇中、道長がまひろを思い出す場面はなかったものの、妻である倫子(黒木華)や明子(瀧内公美)と向き合う道長の顔つきは、まひろと向き合うものとはどこか違って感じられた。倫子や明子に言葉をかける声色は優しげだが、まひろの前で見せたような素直な感情の昂りは感じられなかったからだ。

物語の終わり、まひろは土御門殿へと帰宅した道長と出くわす。まひろも道長も息をのみ、言葉もなく、複雑な表情で見つめ合った。その姿から、2人が庚申待の夜に別れて以来、一度も顔を合わせていなかったことがうかがえる。思い合いながらも添い遂げられない相手のことを胸に秘め、使命を果たそうと歩んできた2人が予期せぬ場所で再会した。再会の喜びを感じていないとは思わない。だが、苦しみが優ったような2人の面持ちに胸が苦しくなる。

そんな第13回では、道隆たち中関白家の絶頂期を意味する象徴的な人物が登場した。それが高畑充希演じる定子だ。

定子は父・道隆、母・貴子(板谷由夏)のもとへ兄・伊周(三浦翔平)の恋文を見つけたと駆けてくる。無邪気な面持ちや明るい声色、伊周をからかう言動にはどこか幼さが残るが、自信家の伊周とは違う形で堂々として見える。佇まいや所作が堂々としているわけではないが、兄に乱暴に文を取り上げられ、「だまれ」と強い言葉で制されても、定子は一切臆する様子を見せなかった。それどころか伊周の恋文について、兄を気遣う素振りを見せず「ちっともときめかなかったけれど」と評する。

思っていた以上にはっきりとした物言いに驚かされた。また伊周に期待を寄せる母の言葉を聞いた定子は「また兄上びいき」と笑い、伊周の婿入りはまだ先だと言う貴子に「母上は兄上が大好きで、手放したくないのね」と口にする。勝ち気な女性という印象は抱かないものの、思ったことは気後れせずに何でも言葉にする、といった一面があるようだ。

「入内するからといって浮かれるな」と兄に叱られ、いたずらな顔をしてみせた定子のチャーミングな人柄は一条天皇の心を掴む。定子は変な顔をして見せて一条天皇の緊張をほぐすと、「お上のお好きなもの、お教えください」「お上のお好きなもの、私も全部好きになります」と申し出る。「母上、椿餅、松虫」と答える一条天皇に、定子は「私、虫だけは苦手なんです」と打ち明けた。一条天皇が微笑み返したのはきっと、苦手なものを好きになると取り繕うのではなく、「虫だけは苦手」と打ち明けた素直さに心惹かれたからだろう。

しかし定子の存在は、一条天皇の母・詮子(吉田羊)に複雑な感情を抱かせる。詮子が内裏へやってきた時、一条天皇は定子とかくれんぼをしていた。一条天皇は大好きな母をかくれんぼに誘うが、詮子は断る。詮子としては国母の立場として、一条天皇に自らの立場を心得てほしいと願っているのだと思うが、詮子の言動は威圧的に映り、元服したとはいえ幼さの残る一条天皇は傷心したはずだ。一方、定子は手習いを嫌がる一条天皇に優しく寄り添うと、手習いが終わったら遊ぶことを約束する。

詮子と定子の対比は、定子が一条天皇にとって素直に甘えられる存在であることを象徴する。けれど定子が兄・道隆の娘であることを詮子は警戒しているようだ。言葉では、これまで遊び相手がいなかった息子の表情が明るくなったと礼を言いながらも、「これからもせいぜい遊んでさしあげておくれ」という物言いには、定子の影響力をけん制するかのような圧があった。

詮子の圧のある物言いに、定子は言い返すことも怯えることもなかったが、微笑みをたたえたまま、その場を立ち去る詮子をじっと見る姿にどこか底知れなさも覚える。中関白家の絶頂期の始まりには定子の存在も大いに関係している。家の繁栄のため、あらゆる手を使って政権を掌握しようとしてきた兼家の信念は、長男・道隆だけでなく、その娘・定子にも受け継がれている、そんな気がしてならない。

(文=片山香帆)

© 株式会社blueprint