<レスリング>【2024年全国高校選抜大会・特集】ベスト8に終わったが、信頼回復を第一に考え、再起の道を歩み始める…日体大柏(千葉)

3年連続優勝を狙った日体大柏(千葉)は、第2日の最初に行われた準々決勝で、昨年夏のインターハイの覇者・鳥栖工(佐賀)に敗れ、連続優勝はならなかった。51kg級からの3階級を、55kg級の終盤の逆転勝ちを含めて3連勝し、「あと1勝」としながら、鳥栖工の厚い中重量級の壁を破れず(125kg級は不在のため不戦敗)、悔しい内容となった。

丸山蒼生監督は「いろんなことがありまして…。多くの方に迷惑をかけました。その中で、関東選抜大会で勝つことができ、ここに挑むことができました」と第一声。昨年夏、部内で不祥事があり、インターハイの出場を辞退。部の存続も危ぶまれたが、スタッフや体制を一新して再出発。外部コーチから一気に指揮官へ昇格した丸山監督にとっては、初の全国大会だった。

▲リードされていた55kg級の北出幸也、ラスト数秒で足首へのタックルを仕掛けて逆転。いいムードをつくったが…

監督になって一番気をつけたのが、厳しい中にも伸びやかにレスリングをやらせること。「レスリングは、好きでなければ本当に強くなれないと思います。そのためには、伸び伸びとやらせることが必要だと思います」という方針のもとで再起を目指し、関東予選優勝という結果を出した。

ただ、1年生(4月からの2年生)が大半で、2年生は1人のみというメンバーでは、全国大会上位入賞は厳しかった。「負けたのは悔しいですが」という前置きのあと、「今の各選手の実力は出せたうえでの結果だと思います」と、ベスト8に終わった今回の結果を振り返った。

試合後のミーティングでは、続いて行われる個人戦とインターハイへ向けて、「レベルアップした練習をやっていかないと、同じ結果になる」と伝え、今後の実力アップを望んだ。「1年生中心のメンバーなので、来年も見据えて、しっかりやっていきたい」と前を向いた。

日体大柏・二期生の丸山蒼生監督、団体戦の全国大会は負け知らず

同監督は愛知・ゼントータルクラブ時代の2015年に全国中学生選手権で優勝し、創部2年目の日体大柏高レスリング部へ。グレコローマンに活路を見い出したため、学校対抗戦は2番手選手として出場だったが、最終学年では全国高校生グレコローマン選手権で2位へ躍進(決勝の相手はパリ・オリンピック内定の日下尚)。日体大時代にも2022年全日本学生選手権2位の成績を残している。

▲日体大柏高在籍中の2018年全国高校生グレコローマン選手権決勝で、日下尚(当時香川・高松北高=現三恵海運)と闘う丸山監督

卒業した昨年4月、鍼灸の専門学校に通うとともに母校の外部コーチとなり、高校選手の指導を手伝った。そこで不祥事に遭遇。監督とコーチの引責によって監督に昇格し、部の立て直しに着手することになった。

現在は、合宿所の寮監として選手とともに寝泊まり。朝練習が終わったあと、東京・渋谷にある鍼灸学校へ。終わると高校へ戻り、練習を見る毎日。選手の生活にも細心の注意を払っている。全国を何度も制したチームとして、引き継ぐべき習慣ややり方はあると思われるが、「任せてもらった以上、練習や雰囲気は、自分なりのやり方に変えました。がらりと変えた部分もあります」と、新生チームとして再出発したことを強調。

選手主体の活動を目指し、「伸び伸びやらせて、レスリングを好きになってもらう」という言葉を繰り返す。さらに、「部活動である以上、学校からの支援がなければできない。応援されないクラブが強くなれるはずはない。学校から認められ、サポートしてもらえるクラブづくりを心がけてきました」と振り返った。

「母校のレスリング部をつぶしたくない」と監督就任を受諾

不祥事が起こると、噂が一人歩きし、根も葉もない話となって広がることがよくある。日体大柏のレスリング部が「廃部になる」「廃部にされる」などと耳にした人も多いだろう。当然、丸山監督の耳にも入っていた。レスリングの指導者がいなくなれば「廃部やむなし」となるだろうが、学校は生徒の夢を一方的に奪うことまでは考えていなかった。

「残った選手のために何ができるかを考えたとき、レスリングを教えられる自分がやるしかない、と思いました。選手の気持ちをかなえさせてやりたい」と、23歳にして監督就任を受諾。根底には「母校のレスリング部をつぶしたくない、という思いがあります」と語気を強めた。

▲全国高校選抜大会6度、インターハイ5度優勝の強豪チームを引き受け、「0」からの再起にかける丸山蒼生監督(右)

部の存続を考え、強くなることより、まず信頼回復に力を入れ、学校や周囲からの支援を得ることを「第一に考えていきたい」と言う。その一環として練習に打ち込ませ、努力することの大切さを教えることもある。それが強化につながる。

同校のインターハイ3連覇(2016~18年)と全国高校選抜大会2連覇(17・18年)を選手として内側から見てきた経験があるので、強くなるための練習は体で知っている。「いい指導は取り入れ、時代に合わないと思うところは、どうするべきかを考え、今の時代に合った練習をやっていきたい」

新生・日体大柏が、力強く再起の道を歩み始めた。

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