時間外上限規制の適用スタート/魅力ある産業へ転換点にできるか、官民でさらに加速を

いよいよ1日から時間外労働の罰則付き上限規制が建設業に適用される。猶予期間の5年で準備を整えるべく、国土交通省や建設業団体が連携し、現場の週休2日や工期の適正化を推進する施策や働き掛けを強め、業界に深く根付いた働き方の慣習を見直す動きが進んできた。ただ他産業より休日が取りにくく、労働時間が長い傾向は依然、解消されていない。官民双方でより強くアクセルを踏み、上限規制の適用後も働き方改革の機運を一層高めていくことが重要だ。=各面に関連記事
「上限規制をクリアできるかどうか不透明な状況だ」。日本建設業連合会(日建連)の宮本洋一会長が3月下旬の記者会見で発した一言からは、現状の厳しさがにじむ。日建連や全国建設業協会(全建)の会員向けの調査では、現場管理や書類作成を担う技術者を中心に超過勤務の削減が思うように進んでいない。全建の奥村太加典会長も同月の会見で「現時点でクリアするのが大丈夫という会員はいないだろう。民間工事比率が高い大手は特に厳しい」との見解を示した。
両団体は昨夏以降、適正工期で見積もりする行動目標を掲げ、民間を含む発注者の理解促進を急ぐ。先月には全国中小建設業協会(全中建)と建設産業専門団体連合会(建専連)を加えた4団体の共同で、現場の土日一斉閉所に向けた初の全国運動に乗り出した。業界で共通した危機意識から、大手と中小、元請と下請の立場を超えて結束する。
国交省も働き方改革推進の手を緩めることなく加速。2024年度から新規も含めた関連施策をパッケージ展開する。まずは規制内容の理解を促すため、災害対応や除雪作業に従事する際の対応など、業界ニーズを把握した上で法令解釈や運用を明確化し周知する。
発注者に対応を求めてきた施工時期の平準化は「ピークカット」の視点を取り入れた新指標を24年度の早い時期に提示する。閑散期(4~6月)の工事稼働数を増やすために用いてきた「平準化率」だけでは、繁忙期の一時的な業務量の増加は防げない。閑散期と繁忙期の両面で工事稼働数の増減を解消できれば、労働者の安定した働き方につながるとの考えから、地方自治体に改善を求めていく。
今国会に提出された建設業法改正案では、工期ダンピング対策の強化が目玉の一つ。受発注者双方に規制範囲を広げることで当初設定の工期不足を防ぎ、リスク情報の通知義務化で変更協議もしやすくする。中央建設業審議会(中建審)は3月27日に改正し勧告した「工期に関する基準」に、上限規制を順守した工期の確保に向けた受発注者の具体的な行動を書き加えた。
斉藤鉄夫国交相は3月29日の閣議後会見で「工期を無理のないものにすることと、働き手の処遇改善で若い人たちが魅力を感じてたくさん入ってくる産業にすることが2024年問題に対する最も基本的な課題解決につながる」と訴えた。
業法改正で賃金原資となる労務費の確保と行き渡りを図り、働き方改革と両輪で実行していく。こうした視点に立てば、上限規制の適用は魅力ある産業への転換点となり得る。

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