JFE商事審査部 インタビュー ~ 与信管理から取引支援に拡大、商社審査はなくならない ~

企業の与信管理の要諦は「審査部」だ。その活動が表舞台に出ることは少ないが、商取引や提携・買収にかかわる情報収集や検討、債権の保全・回収まで手掛けるケースもあり、幅広い知見と行動力が必要だ。
足元で企業倒産が増加傾向にあることに加え、海外取引の増加やマネーロンダリング防止に向けた取り組みなど、審査部に求められる業務の質は目まぐるしく変化している。
今の時代に求められる審査部とは――。
東京商工リサーチ(TSR)は、大手鉄鋼商社のJFE商事(株)(TSR企業コード: 570046190、千代田区)審査部の樂貴光部長、赤澤亮祐氏、坂本明玖美氏に話を聞いた。

JFE商事
川鉄商事(株)とエヌケーケートレーディング(株)が統合して2004年に発足したJFEホールディングス(株)(TSR企業コード: 295598875、千代田区、2023年3月期連結売上高5兆2,687億円)の100%子会社。
事業会社は、鉄鋼事業のJFEスチール(株)(TSR企業コード:660007533、千代田区、同3兆8,811億円)、エンジニアリング会社のJFEエンジニアリング(株)(TSR企業コード:291141307、千代田区、同5,125億円)、商社のJFE商事(同1兆5,141億円)の3社。

―JFE商事とは

JFEグループの商社として、鉄鋼部門では国内外の自動車や造船、電機メーカーなどに鋼材を販売している。原資部門では、鉄鋼向け主原料や製鉄所向けの資材、バイオマス燃料などを取り扱っている。また、それぞれ特徴を持ったグループ会社が国内に43社、海外に54社ある。
例えば、グループ会社の川商フーズ(株)(TSR企業コード:296107930、千代田区)は、ノザキのコンビーフや酒類、他のグループ会社では半導体デバイスなどを扱っており、鋼材だけでなく幅広い商品を扱う商社だ。
鉄鋼商社は、鉄鋼メーカーと需要家の自動車メーカーや建設業などの契約を仲介する「紐付き」、最終的な販売先を決めず商社や問屋が在庫をして販売する「店売」などがある。当社は、JFEスチールが製造する鋼材の半数超を扱っている。同じJFEグループの事業会社として、常に連携している。

右から樂部長、赤澤氏、坂本氏

―審査部の歴史は

川鉄商事の前身となる1900年頃の指定問屋、新庄鋼材や青山特殊鋼、摩耶興業の時代から審査業務を行っていた。1954年設立の川鉄商事にも「審査法務部」があった。1999年に野崎産業と統合した時に審査部と法務部に分かれた。
川鉄商事の時代から与信管理を厳しくする文化があり、石橋を叩いて渡るのではなく、叩きすぎて壊してしまうくらい慎重にやっていた。川鉄商事が審査を通せば、他社は大丈夫といって取引をしていた話があったそうだ。
エヌケーケートレーディングとの統合で、審査部も次第に規模が大きくなった。

―審査部の業務や理念は

審査部は当然、与信管理が重要だが、債権保全や滞留債権の管理、グループの与信管理教育のほか、商社の審査部として安全保障貿易、カントリーリスクなど海外の取引に関する審査業務も強化している。
当社グループ全体で審査部門は37名が在籍している。当社だけでなく、グループ会社にも審査部か審査法務部があるところが多い。特に当社は、グローバル4極体制として、国内とアセアン、中国、米州に事業本部を設置しているが、各事業本部に審査部から審査のノウハウを持っている駐在員を一人ずつ出し、海外における与信管理も強化している。

―審査担当の育成は

国内はグループ会社の審査部門で連携し、「審査連絡会」という名称で定期的に情報交換や、「審査アカデミー」と銘打って勉強会などを開いているほか、審査部のOB会を開くなどして過去のノウハウを継承する取り組みなど、部員のレベルアップを常に図っている。
昔は、審査部にベテラン部員の占める割合が多かった。だが、当然ながらその方々も異動や定年退職となってしまった。現在は、審査業務歴が長い人が減り、若手社員が増えている。また、女性の比率も高まり、現在は9名が審査部で活躍している。
これまでも国内の倒産が減少しているから、審査部の人員も縮小という話はなく、むしろ海外などリスク管理強化に人的資源を割り振ってきた。従来、審査パーソンの教育には相当の年数が必要であるが、外部環境のスピードは早まっており、可能な限り早期に一人前にする教育、育成方法を常に悩みながらも実践している。

―変化と求められる役割は

以前の審査部は、貿易など海外の審査業務を担当する人は、海外の審査しかやらないという体制だった。現在は、国内も海外も両方バランスよくできるようにしている。審査方法は変わったのかというと基本的には変わっていないと思っている。日本流の国内向け与信管理をしっかり習得し、そのベースで海外与信も管理している。

JFE商事審査部・樂貴光部長

組織としても、営業部門の牽制機能であるべきという基本理念は変わっていない。当然、営業部門の部長や、本部長にもきっちり審査部としての方針を伝えなければならない。ただ、相手の立場になって考え、サポートすることを重視している。
債務超過だったら単純に取引をやるべきではないという話ではなくて、どうやったら取引できるか、どこが改善できれば取引できるようになるのか、営業部門から相談してもらえるようにならないといけない。
それぞれ営業部門からの相談から知識が高まり、そのノウハウを共有、蓄積することで審査担当者が成長していく。審査部の目標は「頼りにされる審査部に」だ。相談されるには勉強しないといけない。審査部は、簿記2級とビジネス法務検定2級を必須資格としている。審査部は色々なことが求められるため、会社として補助を出し、知識を高めている。

―審査部の苦労は

海外現地取引や貿易取引リスクへの対応は強化していかなければならない。国内の与信管理の知識を高めればと言いつつ、海外では情報量が少ない、回収遅延の状態など文化や商慣習がまったく違うことを理解しながら海外現地の与信管理を構築していかなければならない。
そのため、今後も海外事業本部への審査人員の派遣を継続していきたい。審査経験が長く、これまで中核を担ってきた管理職を派遣している。だが、海外に部員を派遣するルーティンを考えると、どうやって後任を育てていくかが課題となっている。
国内の与信管理を理解し、「次は海外ね」と言ってもピンとこない。色々なことを経験したいと考えている若手も多い。審査を続けたい人もいるし、法務や財務経理といった違う部署を経験したい人もいる。今の若手はキャリアプランをしっかり持っている。それを踏まえ、いかに審査担当者としてノウハウを経験させ、育成していくかが難しい。
審査部にずっといることで審査パーソンが育つとは考えていない。取引や営業を理解できている人材も審査に来て欲しい。そういう部署とローテーションで人材育成をやっていきたい。また、会社として海外売上を増やす目標がある。当社グループは海外に61拠点あり、海外の与信先件数もどんどん増えている。貿易ではなく現地取引のリスクが高まっているので、強化していかなければならない。
現地取引の与信管理を日本人が担当するのかという問題がある。まずは日本から人材を派遣し、日系企業としての与信管理の業務を、ナショナルスタッフにも共有し、その中からリーダーを作っていきたい。
また、各国で法制度がまったく違うので、その国に即した与信管理や担保設定が必要になっている。海外の弁護士事務所の協力を得ながら、企業内弁護士のいる当社法務部などにも力を借りながら対応している。

―与信管理の将来は

国内企業の財務情報を基に、独自の財務判定格付システムを構築している。現在はAIを研究しながらこのシステムの高度化や海外版の財務判定格付システムの構築を進めている。完成すれば今まで財務分析に使っていた時間を、取引リスクなどをみる時間にまわしたいと思っている。

赤澤亮祐氏

また、L/C取引や仕入取引にも予期せぬリスクが発生する。特に、三国間取引などだ。当社グループが成長するためには仕入先を増やすことが必要だが、こういった仕入先の与信管理もさらにみていくことが必要だ。

JFEグループのなかでも、しっかりと当社の審査機能を発揮していきたい。現在は、過去の決算書や定性情報をベースとして格付を導き出しているが、過去の情報が基本だ。当社が更に成長していくためには、過去の情報で与信上課題のある企業とも取引する可能性もでてくる。成長性が見いだせるから取引しようといえるような、それの裏付けとなるような評価ができるようになればと思う。
AIなどをうまく活用して予測したいが、AIが審査にとって代わるとは思っていない。最終ユーザーなど全体の商流もみながら、さまざまな取引リスクも判断し、営業と一緒に考えて取り組む必要がある。事例を積み重ねればAIでも対応可能になるかもしれないが、今後も人が行う商社の審査部がなくなることはないだろう。
生成系AIなども試しに使いながら効率化の検討も進めている。それで人を減らすわけではなく、もっと違うところに時間をかけたいと思う。
将来、審査部は重要性を増し注目度が高まっていくだろう。顧客の成長のために審査部のノウハウを提供し、成長につなげてもらう取り組みを続けている。今後は取引先の分析などコンサル機能とはまではいかないが、当社の与信管理の仕組みや格付などをグループだけでなく、社外にも協力、支援していきたい。

坂本明玖美氏


審査部の赤澤氏は、「取引リスクをマネジメントして、取引や販売に繋げたい。審査部として取引先で与信管理の講習会などを行い、取引先が自社の与信管理の強化に繋げたり、知識を共有することで互いにプラスとなるような関係を構築したい」と意気込む。
また、審査部に約1年在籍する坂本氏は、「財務情報から会社の状況がわかる。これは審査部に入る前はわからなかった。いちから審査を始めると相当の年数が必要というのはあながち間違いではないと思う」と、審査の重要性と難しさ、やりがいを語る。
古き良き審査部の歴史を踏襲しながら、与信管理を取引先コンサルティングに進化させ、日本流の先進的な審査を現地法人にも根付かせる。そして、過去と現在をみて将来性を予測する部分にまで審査の幅を広げている。
JFE商事審査部の弛まぬ取り組みがグループの底力を押し上げている。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2024年4月1日号掲載「審査業務 最前線」を再編集)

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