TBS福澤克雄監督が語る「想像を超えるドラマの作り方」〜日経デジタルフォーラム レポート(その1) / Screens

2024年2月6日、日経デジタルフォーラム「映像プラットフォームにおけるマーケティングの過去・現在・未来」が大手町・日経ホールにて開催。マーケティングや映像制作の一線で活躍するキーマンが登壇し、それぞれの事例を踏まえながら、デジタルマーケティングにおける顧客コミュニケーションのヒントを提起した。本記事ではこの中から、基調講演「ドラマを作ること・届けることとマーケティング」の模様を5回にわけて紹介する。

第1回は『日曜劇場VIVANT』『日曜劇場半沢直樹』など話題作を多数監督する株式会社TBSテレビ コンテンツ制作局 ドラマ制作部 福澤克雄氏が講演。聞き手を日経CNBCキャスター・改野由佳氏が務めた。

左から)聞き手:改野由佳氏、株式会社TBSテレビ 福澤克雄氏

■海外展開を意識した『日曜劇場 VIVANT』のストーリー構成

モンゴルで2ヶ月にわたるロケを行い、通常のドラマの倍以上の予算をかけて制作されたという『VIVANT』。「日本のドラマは国外に出ていかなければいけない、という気持ちがあった」と福澤氏はいい、ブームとなった韓流ドラマを背景に挙げる。

「人口が日本の半分以下である韓国は20〜30年前から海外向けのコンテンツ流通を念頭に置いており、当初は無料で配布するほど積極的に取り組んでいた」と福澤氏。「こうした取り組みが現在の韓流ブームにつながっている」とし、「日本も国内向けにコンテンツを作っているだけではいけない」と強調する。

「世界的なコンテンツ展開力を付け、制作母体としてのテレビ局にも優秀な人に入ってもらう流れを作らなければいけない」(福澤氏)

日本のテレビドラマの構造について、福澤氏は「原作におけるストーリーの3分の1を1話で描ききってしまうなど、とかく1話に全力投球をしがち」と指摘。一方、海外ドラマの1話目は「面白いが、それだけではストーリー展開がわからず、続きが気になる仕組みになっている」といい、「『VIVANT』でもそれにならい、思い切って1話目のわかりやすさを捨てた」と語る。

「1話だけではストーリーが見えない仕組みにあえてしたことで、視聴者からは『わかりにくい』という声が寄せられたが、視聴率は落ちなかった。『VIVANT』では3〜4話ごとに展開のピークを設け、定期的に時間軸をさかのぼってストーリーの背景を示すことで関心を引き付け続ける構造にした」(福澤氏)

■「ノウハウと手応えを蓄積することが大事」TBSがドラマの“内製”にこだわる理由

途中「ヒットの秘訣は?」とたずねる改野氏に、「安牌を狙って過去の成功例を焼き直しするというセオリーをまず捨てることが大事」と福澤氏。「『こんなもの出して良いのだろうか』と作り手が “ビビりながら出す”くらいのチャレンジをしなければ、社会現象化するヒットは生まれない」と力をこめる。

「いつも考えているのは、『よりワクワクする、みんなが見たいものをどう生み出していくか』ということ。『半沢直樹』シリーズも当初は『ハズレる』という見方をされていたが、視聴者のみなさんが描いていた『好きなドラマ像』のさらに上を行くドラマを作ったことで受けたのではないか」(福澤氏)

こうしたチャレンジを支えていたのは、TBSが長年のドラマ制作によって培ってきた社内文化も大きく寄与しているという。「TBSのドラマ制作は外部のプロダクションでなく、社内での制作が基本」と福澤氏。「『渡る世間は鬼ばかり』をはじめとするプロデューサーとして活躍した石井ふく子氏の時代から連綿と受け継がれるノウハウの蓄積がある」という。

「ドラマ制作の現場では、少しでも悪天候が長引くと赤字になる。多くの場合は外部のプロダクションへ発注したがるが、そうすると社内にノウハウが残らない。一番大事なのは、大ヒット作を作っていく過程で得られる手応えや体感が蓄積していくこと」(福澤氏)

「TBSではドラマ班に入るとまず助監督からスタートし、さまざまな先輩に囲まれながらドラマ作りを学んでいくことができる」と福澤氏。「前例のないことにも信念を持って取り組めば『そこまで言うならやってみるか』と支えてくれる風土がある」と、社員の取り組みをサポートする社風も追い風になっていると振り返った。

「いわゆる『業界の常識』を打ち破りたいと考えており、『半沢直樹』でも世間と業界の“常識のズレ”を描いた」と福澤氏。「私のような仕事は別になくても良い仕事」と謙遜しつつ、「普段苦労している方たちに心のやすらぎやワクワクをお届けできる仕事だと思っているので、人生をかけて取り組んでいきたい」と意気込みを示した。第2回に続く。

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