製造業の景況感が悪化、企業の販売価格見通しは引き上げ=日銀短観

Takahiko Wada Kentaro Sugiyama

[東京 1日 ロイター] - 日銀が1日発表した3月短観は、大企業・製造業の業況判断指数(DI)がプラス11と、4期ぶりに悪化した。自動車の減産などが下押し要因。一方で、大企業・非製造業はプラス34と8期連続で改善し、91年8月以来の高水準となった。人件費などの価格転嫁が進み、企業の販売価格見通しは引き上げられた。物価見通しも2%付近で安定していることが示され、市場では日銀の将来の追加利上げにつながる材料との見方が出ている。

大企業・製造業の業況判断DIは、ロイターがまとめた予測中央値(プラス10)を上回ったが、23年9月以来の低水準となった。「自動車」はプラス13と、前回から15ポイント悪化。「鉄鋼」や「非鉄金属」にも影響が出た。「生産用機械」や「業務用機械」などからは海外需要の弱さが指摘された。

先行き判断DIはプラス10と、小幅悪化を見込む。「木材・木製品」、「非鉄金属」などから海外経済の先行きを懸念する声が大きかったほか、「鉄鋼」、「食料品」、「造船・重機」などコスト高への不透明感も聞かれた。

大企業・非製造業の業況判断DIは、ロイターがまとめた予測中央値(プラス33)を上回った。価格転嫁の進展やインバウンド需要などが寄与して改善した。

先行き判断DIはプラス27と、悪化を見込む。「物品賃貸」や「卸売」から海外経済の動向や市況に対する不透明感、「不動産」、「電気・ガス」、「宿泊サービス」からエネルギーコスト高や原材料高への懸念が聞かれた。

事業計画の前提となる想定為替レート(全規模・全産業)は2024年度通期で1ドル=141.42円と、23年度の140.36円から約1円円安方向に振れている。

大企業・全産業の設備投資計画では、23年度が前年度比11.5%増。12月調査の13.2%増を下回った。24年度は4.0%増で過去平均を上回った。

<販売価格見通し、総じて上昇>

総務省発表の消費者物価指数(CPI)では、原材料価格の上昇分の価格転嫁の影響が明確に剥落してきているが、大企業の仕入れ価格判断DIは製造業・非製造業ともに5期ぶりに上昇した。大企業の販売価格判断DIは製造業がプラス25と5期連続の低下となる一方で、非製造業はプラス27と4期ぶりに上昇した。

企業の物価見通しは維持された。全規模・全産業で見ると、1年後が前年比プラス2.4%、3年後はプラス2.2%、5年後はプラス2.1%でいずれも前回と変わらず。

販売価格見通しは1年後、3年後、5年後がいずれも前回を上回った。1年後が現水準対比でプラス2.7%、3年後がプラス4.0%、5年後がプラス4.7%。日銀の担当者は、中小企業の販売価格判断DIの先行きが大幅に上昇していること挙げ「人件費などを転嫁したい、転嫁しなければいけないという気持ちが出ているのではないか」と述べた。中小企業の販売価格判断DIの先行きは、製造業で足元対比7ポイント高いプラス33、非製造業で6ポイント高いプラス32となっている。

ニッセイ基礎研究所の上野剛志上席エコノミストは、日銀短観について、設備投資計画は強め、物価見通しは価格転嫁の継続の中で2%台をキープといった内容だったと指摘。日銀にとっては「『賃金と物価の好循環』の実現に伴う基調的な物価上昇率の上昇に対して期待をつなぐ材料となるだろう」と話す。3月に金融政策の正常化に踏み切ったばかりのため、今回の短観が決め手になって追加利上げを行うことはさすがに想定されないが「将来の追加利上げにつながる材料になった」とみている。

<借り入れ金利のDI、利上げ織り込む>

今回の短観の調査期間は2月27日から3月29日。回答基準日は3月13日で、基準日までの回収率は7割弱だった。日銀は3月18―19日の金融政策決定会合でマイナス金利解除を含む大規模緩和の修正を決定した。回答基準日が決定会合の前だったため、今回の短観に日銀の政策変更は織り込まれていないとみられる。

ただ、借り入れ金利の水準判断DIを見ると、先行きが全規模・全産業でプラス31で足元のプラス17を大きく上回るなど先行きの値が大幅に上昇している。日銀の担当者は、日銀の利上げを織り込んだ可能性が高いとの見方を示した。

日銀は短観対象企業の定期見直しを行い、3月短観から新ベースでの発表となった。1日公表した3月短観の概要には、12月調査の数値として新ベースで算出し直した値が用いられている。

(和田崇彦、杉山健太郎)

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