【漫画】何の能力も持たず異世界に転生したらどうなる? 主人公が不憫すぎるSNS漫画『転生能無しとゲスメイジ』

「異世界転生」がライトノベルや漫画の人気ジャンルとして定着したなかで、異色といえる尖った作品も増えている。3月下旬にXに投稿されたオリジナル漫画『転生能無しとゲスメイジ』は、何の能力も授からずに転生してしまった男と、ゲスな魔法使いのドタバタコメディで、テンポよく繰り出されるギャグが異世界転生モノの新たな側面を見せてくれる。

本作を手掛けたのは、Xで5万人を超えるフォロワーを抱える人気クリエイター・野愛におしさん(@nioshi_noai)。2018年に制作したということだが、今見ても新鮮に笑える本作をどのようにして描いたのかなど、話を聞いた。(望月悠木)

■参考のためにオープンワールドのゲームをプレイ

――なぜ『転生能無しとゲスメイジ』を制作したのですか?

野愛:実は2018年春に開催された『コミティア』の新刊として執筆した作品です。あの時は転生モノが今ほど多くはないものの、1ジャンルとして確立されつつあるタイミングでした。その中で「自分にしか描けないものは何か?」と考えた結果、ギャグに振り切った能無し主人公と動かしやすい命令係としてゲスメイジの2人をメインにすることを思いつきました。

――転生モノと言っても世界観や設定は幅広いです。どのように世界観や設定を決めていきましたか?

野愛:初めて転生モノを描くため、まず「自分自身が転生したら第一に何を考えるのか?」などを頭に浮かべました。そういった感情・疑問の解像度を上げるため、『The Elder Scrolls IV:Oblivion』というオープンワールドのゲームをプレイしました。

――ゲームをやって作品のイメージを具体的にしようと?

野愛:はい。同作のチュートリアルを終えて自由行動になった途端、どこに行ったら良いのかわからず、ほんの少し歩いただけでならず者達に遭遇して即死しました。それが無性に面白く、「コレを活かせないか」と思った結果、あの導入が誕生しました。

■当時の自分に伝えたいこと

――野愛さんらしいギャグがてんこ盛りの作品でした。ギャグ数はどのように調整したのですか?

野愛:ギャグ漫画として描いていたため、1ページに1ギャグ挟むくらいのイメージで描きました。紙の本で発行する関係でページ数に限りがあり、「ギャグばかりで物語が進まない」なんてことがないよう、ギャグの配分には頭を抱えた記憶があります。

――ちなみに、野愛さんの別作品『ゲーム機だって恋を応援したい』など、ボケ数が少ない作品も珍しくありません。

野愛:最初からギャグやコメディ路線で描く場合はたくさん盛り込みます。一方、見せたいことがギャグではない場合、ギャグは挟みません。「入れてもいいかな」と思う時もありますが、登場人物が真剣なのにギャグを入れると、真剣さが伝わりにくくなります。ですので、そういった作品にはギャグを入れていません。とはいえ、真剣な物語でも前日の話や日常パートなどがあれば、そこにギャグを入れる場合もあります。

――本作に話を戻すと、「棺桶になった主人公が引きずられる」「魔王城が狭い」など、転生モノ、ファンタジーモノの題材にしたギャグも散見されました。参考のためにチェックした作品はありますか?

野愛:実は一切チェックしていません。あまりRPGをプレイしたことはなく、ゲームによくある要素は世間的に知られている程度の知識しかないです。転生モノについても当時はまだ勉強不足だったのですが、「むしろ見ないほうが影響を受けず、展開が似たり寄ったりにならないのでは?」と考えてあえて避けました。ただ、現在は真逆で、いろいろな作品から良い点やオリジナリティの出し方を勉強しています。「そのやり方は間違っている」と当時の私に伝えたいです。

■オチを毎ページ用意することの大変さ

――本作では各ページの上に「タイトル」をつけて、4コマ漫画のような仕様になっていました。4コマ漫画っぽくもありながらストーリーが展開される構成にした経緯を教えてください。

野愛:『コミティア』に出展するのと同時に、1日1ページ公開しようと考えたため、1ページでキリ良く終われるこの形式を採用しました。実は本作は『コミティア』で大変好評で、その後も続きを描きました。もう公開はしていませんが、中々の長編になっており、その際も1日1ページ公開を続けました。

――ただ、各ページのラストのコマに毎回オチを用意しなければいけないため、結構苦労があったのではないですか?

野愛:もともと同人活動で4コマ漫画をメインに描いており、本作の1話に関してだけは、そこまで大変ではなかったです。しかし、ストーリーを最終的な着地地点に向かわせつつ、毎回オチをつけることはなかなか大変で、2話以降は本当に苦労しました。勢いを落とさず、読者さんの予想を上回るオチを毎回つけ、そして着地方法や着地に至る経緯を捻り出すことに頭を抱え、当時は何日も徹夜しました。懐かしいです。

――想像するだけで大変そうです。

野愛:ただ、途中からはストーリー重視に切り替え、この形式を時々崩しました。それでもたくさんの読者さんからの応援に背中を押され、何とか完走することができました。

――最後に今後の漫画制作における目標などあれば!

野愛:現在目標の一部は叶いましたが、まだまだ一緒に仕事をしたい作家さん、メーカーさんは多いです。そのためにも漫画力、シナリオ力に加え、SDイラストの技術を今以上に磨き、多くの人の心を動かせる作品をたくさん生み出せるように今後も引き続き頑張ります!

(望月悠木)

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