60歳専業主婦、最近「熟年離婚」が頭をよぎるのですが、働いていない自分は「年金」を受け取れませんか? 自分1人の場合、老後はいくら稼げばよいでしょうか?

専業主婦(夫)が受け取れるのは老齢基礎年金

「配偶者」が会社員や公務員として働いていて、一定の要件を満たすと「厚生年金保険」に加入します。例えば、夫が正社員かつフルタイムで働いていると将来老齢厚生年金を受給できますが、専業主婦自身は加入していないので、老齢基礎年金のみ受け取る形となります。

国民年金第3号被保険者となる専業主婦(夫)は、保険料を自分自身で納付する必要がなく、保険料納付済期間として将来の年金額に反映されるのが大きな特徴です。保険料を満額納付している場合の年金額は、2024年4月以降だと月額6万8000円、年額では81万6000円です。

離婚したら年金分割の対象となる

万一離婚しても年金分割制度により、婚姻期間中の配偶者の厚生年金記録を相手と分け合うことができます。

年金分割は、「合意分割制度」と「3号分割制度」があり、前者は夫婦間の合意や裁判所による手続きで厚生年金記録の按分割合を決めます。後者は2008年4月以降の婚姻期間のうち、請求者が国民年金第3号被保険者であった期間における相手方の厚生年金記録を2分の1ずつ分け合うことができます。

3号分割制度は、当事者間の合意を必要としないところが大きな特徴です。つまり、離婚予定の相手が年金分割に難色を示したとしても、専業主婦(夫)の受給権が失われるわけではありません。原則離婚後に年金事務所へ標準報酬改定請求書を提出すれば手続きできます。

合意分割と3号分割はどちらかしか使えないわけではありません。合意分割請求が行われた際に、婚姻期間中に3号分割の対象期間が含まれていると、合意分割と同時に3号分割の請求もあったとみなされます。

3号分割は2008年4月以降の婚姻期間が対象となるため、それ以前の期間については合意分割の手続きが必要です。「自分は専業主婦(夫)だから3号分割の手続きだけすればいい」わけではないので要注意です。どちらの手続きをすればいいのか迷った場合は合意分割請求を行いましょう。

年金分割制度の注意点

「もし熟年離婚してしまっても、年金を折半できるなら安心」と思われるかもしれませんが、年金分割の対象はおもに厚生年金の部分で国民年金は対象外です。つまり、単純に「夫婦2人が受け取る年金を50%ずつ分割できるわけではない」ので注意しましょう。

一般的に離婚する際は慰謝料や子どもの養育費などが注目されることも多く、それらに比べると年金分割は意識されない側面があるかもしれません。ただし、離婚した日の翌日から2年を過ぎると年金分割の請求ができなくなります。そのため離婚後はすぐに年金分割の請求を行うことをおすすめします。

年金に依存しない仕組みづくりが重要

2024年度の場合、夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な厚生年金額は23万483円です。2人分の老齢基礎年金13万6000円を差し引くと9万4483円となり、仮に年金分割で50%支給されると自身の老齢基礎年金と合わせて月額約11万5000円もらえます。

総務省統計局のデータによると、65歳以上の単身無職世帯の支出は15万7673円です。毎月の生活費として最低16万円かかる場合、年金収入のみでは毎月6万円近く不足します。60歳以降年金を受給するまでに収入がない場合は16万円以上の赤字が発生することになるため、働いて収入を得たり、預貯金などでカバーしたりする必要があります。

まとめ

本記事では、配偶者が会社員であった専業主婦(夫)が離婚したら年金をもらえないのかを解説しました。本人の老齢基礎年金があるほか、配偶者の老齢厚生年金の分割を請求できますが、単身無職世帯の平均生活費に届かない受給額になることが予想されます。

急に大きな病気やけがをするなどの不測の事態が発生すると、支出規模はさらに大きくなることも考えられます。収入を年金に依存せず、働いて収入を得ることも視野に入れる必要があるかもしれません。

出典

日本年金機構 国民年金の第3号被保険者制度のご説明
厚生労働省 令和6年度の年金額改定についてお知らせします
日本年金機構 離婚時の厚生年金の分割(合意分割制度)
日本年金機構 離婚時の厚生年金の分割(3号分割制度)
総務省統計局 家計調査報告(家計収支編)2023年(令和5年)平均結果の概要

執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー

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