若い部下に仕事を任せるとき「スピード」と「完成度」どちらを優先させるのが正解?【マネジメントのプロが解決】

部下に仕事をしてもらう際、スピードと完成度のどちらを優先すべきでしょうか。部下との関係性を築く上でも仕事の方針は重要です。今回は、横山信弘氏による著書『若者に辞められると困るので、強く言えません』(東洋経済新報社)から、部下に仕事を任せる時のスピードと完成度の優先順位についてご紹介します。

仕事は「スピード」と「完成度」、どちらを優先すべき?

「スピードと完成度、どちらを優先したらいいのか?」ある課長から、こんな質問を受けた。

望ましいのは、部下が自分の力で期限までに仕事をやり抜くことだ。しかし、その課長の部下は、スピードを優先させると仕事の質が悪くなり、完成度に重きを置かせたら考え込んでしまうそうだ。

だからスピードと完成度、どちらを部下に優先させたらいいのか、わからないと言う。
実際に、このような悩みを抱えているマネジャーはとても多い。マネジャー自身が「ス
ピード派」ならスピードや量を重視する。「完成度派」のマネジャーなら、完成度や質に
気を遣う。

どちらも正解と言いたい。しかし、まだ経験が浅い若手には「スピード」を優先させる
べきだ。量と質と悩んだ場合でも同じだ。量を選ぶのである。

では、なぜ完成度に重きを置くのがダメなのか。量よりも質を選んではいけないのか。
その理由は次の3つである。

(1)大事なことを忘れてしまう (2)悩みを深めてしまう (3)途中で諦めてしまう

(1)完成度を優先すると、大事なことを忘れてしまう

完成度を優先させてはいけない最初の理由は、(1)の「大事なことを忘れてしまう」だ。意外と思われるかもしれない。だが、これが最もダメな理由である。

「ヘルマン・エビングハウスの忘却曲線」をご存じだろうか。この曲線は、いったん覚えた情報でも指数関数的に忘れていくことを表している。忘却曲線は24時間後にようやくなだらかになるが、「最初の20分」「最初の1時間」で急激に記憶から失われていくそうだ。

仕事を依頼したら、20分後。無理でも、せめて1時間後にはいったん着手してもらったほうがいい。まさに「鉄は熱いうちに打て」である。

もしそれができなかったら、依頼した内容を書き留めさせておくだけでもいいが、手を動かしてもらうほうが、記憶の定着度合いは高い。

「期限まで1週間ある」という場合でも、5分でもいいので着手してもらうべきだ。そうすることで、どれぐらいの時間がかかりそうか、部下自身も見当をつけることができ、期限直前に慌てて取りかかるということも防げるだろう。

つまり完成度を重視しようと思ったとしても、すぐに手を動かしてもらうことが重要だ、ということだ。

[図表1]ヘルマン・エビングハウスの忘却曲線から 学べる「効果的な記憶法」

(2)完成度を優先すると、悩みを深めてしまう

次に(2)の「悩みを深めてしまう」である。完成度を優先しようとすると、悩みを深めてしまうことが多い。理由は、考えるための「切り口」を知らないからである

考えるための手がかり、切り口がなければ考えようがない。「切り口」とは、考えるためのスイッチのようなものだ。スイッチを押さないと機械が作動しないように、「切り口」が見つからなければ頭の中の「考える機械」が動かない。

そのため知らず知らずのうちに、「考える」が「悩む」に変容してしまうのである。考えるための「切り口」を得るには、知識と経験が不可欠だ。特に「失敗経験」を通じて体得することが多い。だから何事も試行錯誤(トライ&エラー)が必要なのだ。

精度の低い仮説であっても、その仮説に基づいてスピーディに実践(トライ)し、間違い(エラー)を通じて、「ああ、そうか。そういうことか」と学ぶのである。「成功があるか、失敗があるか」ではなく、「成功があるか、学びがあるか」で考えるのが正解だ。

(3)完成度を優先すると、途中で諦めてしまう

最後が(3)の「途中で諦めてしまう」である。完成度を優先して悩みが深まると、時間への焦りが募ることだろう。完成度を高めるどころではなくなる。

そして依頼者である上司に相談することになるのだ。「いろいろ考えたのですが、どうしたらいいかわからなくって困っています。期限が迫っていますし、どうしましょう?」
と泣きつく。

当然、期限ギリギリでこんな相談をされたら、「どうして、もっと早く相談してこないんだ!」と怒りを覚えるのは無理もない。

しかし、部下が相談できなかったのは当然だ。手を動かしていないものだから、相談する「切り口」がわからないからだ。最悪なのは、上司が仕事を巻き取ることだろう。

「もういい、こっちでやるから」上司がこう言って、仕事を奪ったらいつまで経っても部下は成長できない。お互いの関係も崩すことになり、いいことは何一つない。

「やる気」が「やらされ感」に変わる4つのプロセス

スピードよりも完成度、量よりも質を優先する思考がモチベーションの低下につながることもある。

したがって、たとえ部下が、依頼した直後は、「わかりました! すぐに取りかかってみますね」と言ったとしても、きちんと行動に移しているかを確認したほうがよい。

というのは、時間が経過することによって失われるものは、依頼の詳細だけでないからだ。最初はあったはずのやる気や熱量も急激に減少していくのだ。時間が経つと「すぐやろう」という感情が「まだやらなくていい」と変化する。

期限が近づいてくると「期限に間に合わなくてもいい」とう邪な考えまでが頭をよぎるかもしれない。こうなると歯止めがきかなくなる。

(1)すぐにやったほうがいい (2)まだやらなくてもいい (3)期限までにやらなくてもいい (4)私がやらなくてもいい

このような4プロセスは、思考を負のスパイラルへと陥れるだろう。

(1)努力不足 (2)責任転換 (3)被害者意識の高まり

のプロセスとよく似ている。スピーディに始めれば浮かび上がらなかった「悪い思考のクセ」が、こうした悪循環を招いてしまうのだ。

「Quick&Dirty」で仮説検証を行う

このような「負のスパイラル」に陥らないようにするには、どうしたらいいのか。

コンサルタントの業界には、古くから「Quick&Dirty」という言葉がある。「完成度が低くてもいいから素早く」という意味のスローガンだ。

完成度を優先して悩みを深めるよりも、素早く動いて仮説検証の数を増やしたほうが、結果的に完成度の高い仕事ができるものだ。

とはいえ「Quick&Dirty」は「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」の発想ではない。そのような乱れ撃ちをやっていたら疲れるし、弾切れになる可能性もある。

だから、しっかりねらいを定めて撃つのだ。命中しなかったら、どれぐらい的から外れているかを検証して、また撃つ。外れたら、また検証して撃つ。このようにテンポよく仮説検証を繰り返すことだ。

反対に、スピードではなく完成度を意識すると、じっくりねらいすぎることになる
外れると、さらに慎重になる。あまりに慎重にやっていると、弾切れではなく「時間切れ」になる可能性が高い。

横山 信弘

株式会社アタックス・セールス・アソシエイツ代表取締役社長

経営コンサルタント

※本記事は『若者に辞められると困るので、強く言えません』(東洋経済新報社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。

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