『虎に翼』初回から伊藤沙莉の演技が面白い! 『ブギウギ』スズ子と同い年な寅子の青春時代

「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」

日本国憲法の第十四条に書かれている一文に寅子(伊藤沙莉)は涙する。その涙の理由が、初回の15分間にすでに詰まっているように思えた。

第110作目となるNHK連続テレビ小説『虎に翼』は、日本初の女性弁護士で、のちに裁判官となるヒロイン・猪爪寅子の物語。日本国憲法の公布から遡ること15年前、寅子はお見合いの席にいた。両隣にいる父と母が必死で場を回しているが、当の本人は全く元気がない。実は前日の夜、寅子はお見合いが嫌で家出を試みていたのである。だが、お手洗いに起きてきた弟の直明(永瀬矢紘)に見つかり、計画は失敗に終わった。

猪爪家には、寅子と両親、兄の直道(上川周作)と弟の直明に加え、下宿人の優三(仲野太賀)が暮らしている。そんな優三も見ている前で、母・はる(石田ゆり子)のお説教タイムがスタート。家出の理由を問われ、寅子は大阪にある“梅丸少女歌劇団”に入るためと答える。実は寅子、前作の朝ドラ『ブギウギ』のヒロイン・スズ子(趣里)とは同い年。また寅子の父・直言を演じる岡部たかしは、同作でアホのおっちゃん役で出演していた。2つの作品の世界線が繋がっているみたいで、なんだか嬉しくなる。

2人が青春時代を送った昭和初期は、“職業婦人”なんて言葉が存在していたように、働く女性はごく僅かで、女性は女学校を出たら結婚し、子供を産み、家庭を守るのが当然とされていた時代。スズ子はやりたいことをさせてくれる両親のもとで伸び伸びと育ったが、寅子の場合はそうじゃない。結婚した自分が想像つかないどころか、ズキズキワクワクしない寅子に対して、「『はい』か『いいえ』で答えなさい」と反論すらさせないスタンスのはる。その後ろで直言をはじめ、男性陣はおろおろとしている。どうやらこの家で一番権力を持っているのは、はるのようだ。寅子もそんな母には強く逆らえず、しぶしぶお見合いをすることになってしまった。

しかし、全く納得がいっていない寅子は、お見合いの途中でいびきをかいて寝たり、場の空気を読まず理屈を捏ねたりしてしまい、結果は惨敗。結婚がどうしても良いものとは思えなかった。一方で、まだやりたいことが決まっていない寅子は、やりたいことがあるならまだしも、ないなら結婚して良き母になるのが親孝行だと親友の花江(森田望智)に諭され、三度目の正直と意気込み、帝国大学を卒業したエリート貿易マン・横山(藤森慎吾)とのお見合いに挑む。「結婚相手とはさまざまな話題で語り合いたい」と話す横山に好印象を抱いた寅子。だが、調子に乗って日本経済について持論を展開した寅子は相手を怒らせてしまう。

この人となら対等な関係を築けるかもしれない。そう思い、寅子は嬉しかったのだ。それなのに、「分をわきまえなさい! 女のくせに生意気な」と言われてしまった寅子は「はて?」と鳩が豆鉄砲を喰らったような表情を浮かべる。理屈っぽく早口で喋る寅子はどことなくコミカル。けれど、置かれた状況はなかなかに辛いものだ。

ナレーションを務めるのは、2011年度後期の朝ドラ『カーネーション』で主演を務めた尾野真千子。父親の反対を押し切り、洋裁の道を進んだヒロイン・糸子を生き生きと演じた尾野の語りは俯瞰的でありながらも、どこか心強い。これからも寅子には、日本国憲法の一文だけで涙が出てくるような出来事に次々と見舞われるのだろう。だが、米津玄師が軽快に歌い上げる主題歌とともに女性たちの姿が伸びやかに描写されたオープニングも含め、随所に希望を感じられる初回だった。
(文=苫とり子)

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