「プレスリリースはクリエイターへのラブレター」『LINEマンガ』代表・髙橋将峰 国産webtoonへの真摯な思い

右開き・横読みがあたりまえだったマンガ界に、縦スクロール・フルカラーの新しいエンタメコンテンツとして登場したwebtoon(ウェブトゥーン)。そのリーダー的存在の電子コミックサービスが『LINEマンガ』だ。

2018年のwebtoonの配信当初は「縦スクロールなんてなじまない」と言われつつ、今や年間販売金額10億円超えの『入学傭兵』や2024年7月よりフジテレビ“ノイタミナ”ほかにてテレビアニメ放送が決定した『先輩はおとこのこ』など、大ヒット作品が数多く登場している。

スマホでこそ読みやすいUI(ユーザーインターフェイス)も功を奏し、マンガに不慣れだった海外の新しいユーザーを獲得。グローバルなマンガ市場のパイを大きくさせる牽引役を果たしているのだ。

インタビュー前半で「今後、日本発のwebtoonで数多くグローバルIPの輩出を目指す」「そのためにもクリエイター命、クリエイター・ファーストを貫いている」と語っていた、LINE Digital Frontierの髙橋将峰代表取締役社長に、その真意と具体的な施策について聞いた。

髙橋将峰氏へのインタビュー前編はこちら

■アマチュアの投稿マンガが、グローバルIPに直結する

――日本発のwebtoon作品をグローバルIP化するためにもLINEマンガは「クリエイター・ファースト」の姿勢を重視している、とおっしゃいました。どういう意味でしょうか?

髙橋:縦スクロール・フルカラーというスマホに最適化されたフォーマットで、マンガの新しいエンターテインメントを提供するのがwebtoonですが、それも「作品の面白さがあってこそ」です。

そのためにも作家の方々、あるいはwebtoonは作画、シナリオ担当などが分業して作品づくりをするスタジオも多いのですが、そうしたクリエイターの方々が「LINEマンガで作品を発表したい」と思える環境づくりをするのが、我々の使命。

それが素晴らしい作品を提供し続けることにつながり、ユーザーの方々に喜んでいただける。そのままグローバルIPへの道へとつながる――。こうした好循環をつくりあげたい。その起点はクリエイターの方々だ、ということです。

――具体的には、どのようにクリエイター・ファーストを実現されているのでしょう。

髙橋:まずは圧倒的に読者に支持され“読まれているプラットフォーム”としてLINEマンガを維持しています。我々が日本で展開しているLINEマンガのみならず、韓国の「NAVER WEBTOON」、アメリカ・欧州の「WEBTOON」、東南アジアの「LINE WEBTOON」など全世界のプラットフォームと連携し、10ヵ国語に及ぶwebtoonを展開しています。合算するとMAU(月間利用者数)は8500万に及び、ひと月の流通額は100億円を超え、世界1位の規模なんです。

――海外のプラットフォームと連携しているのは、御社以外はないのですか?

髙橋:ここまでの規模で深く連携しているのはLINEマンガだけだと思っています。大きな差別化のポイントになっていると自負しています。もっとも、この圧倒的なMAUも「クリエイターの方々のため」という視点が我々の真ん中にはある。自分の作品をより多くの方に楽しんでもらえるのはクリエイターの方々にとって、何より大きなモチベーションになりますからね。

だから、サービスとして本当に読者の方々がどれだけアクティブに利用していただいているかのKPIを重視しています。言うまでもなく、読まれた分だけ、作家さんやスタジオに入る収益も増える。クリエイターの方々が、創作を正当にマネタイズできる環境を提供させていただいています。

――新人作家を育てることにも積極的です。それもクリエイター・ファーストの一環でしょうか?

髙橋:そのとおりです。2023年12月には分業制の制作スタジオ「LINE MANGA WEBTOON STUDIO」を立ち上げ、6職種においてクリエイターを募集しています。また、LINEマンガ上で持ち込みは随時受け付けしていますし、「LINEマンガ大賞」などといったコンテストも実施しています。

中でも「LINEマンガ インディーズ」というアマチュア作家さんの投稿システムは力を入れています。LINEアカウントさえあれば、誰でもマンガを投稿でき、誰しも読めます。編集者が気になった作家さんへお声がけをし、LINEマンガでのトライアル連載へと進みます。ここでたくさん読者の支持を得られたら本連載に昇格。そこで人気が出たら、アニメやドラマになり……といった独自のエコサイクルを用意しています。お手本が『先輩はおとこのこ』です。

もともとはインディーズ作品として「LINE マンガ インディーズ」に投稿したものが、多くの読者から推されて本連載に。そして世界7ヵ国語でも配信されたうえ、AnimeJapanが毎年実施している「第5回アニメ化してほしいマンガランキング」の1位となり、実際に今年テレビアニメとして放映されることになった。

――ストリートミュージシャンのサクセスストーリーみたいですね(笑)。

髙橋:それこそマンガみたいですよね(笑)。アマチュア作家があれよあれよと8500万人のグローバルユーザーに自分の作品を届けられるところまでかけのぼれる。

「横書きじゃないと読まれない」とか「webtoonは邪道だ」と言われてきた過去はあっても、今はこうしたスター作家の方々が育ち、グローバルで活躍、IP化されている。この現実は、多くの作家希望の方々に勇気を与えるし、既存の作家の方々もwebtoonに興味をもっていただけることにつながる。

何度も繰り返して恐縮ですが、日本は本当にクリエイターのレベルが高い。作家さんだけではなく、脚本家や背景作家といったスタジオに所属するクリエイターの方々も含めて、世界一のマンガリテラシーと才能に溢れた方々に参加していただけることは、世界にとって大きな価値を生むことになる。

だからこそ、LINEマンガからマンガのようなサクセスストーリーが、日々誕生していることをしっかりと伝えていきていきたいのです。

――「webtoonを世界に発表するならば『LINEマンガ』だな」と思っていただきたいと。

髙橋:はい。余談ですが、マスコミ向けに配信するプレスリリースも、我々は多くを「クリエイターさんに向けた発信」だと意識しています。「『入学傭兵』が10億円を売り上げました」とか「『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』が原田泰造さん主演でドラマ化されました」とか。こうした成功例が、ここから多く生まれていますよとお伝えしている。ある種、クリエイターの方に向けたラブレターのような感覚を持っています。

あの名作マンガを参考に経営している?

――webtoon市場がこれだけ成長してくると競争も激しくなっているのではないでしょうか。アマゾンも最近、「縦読みマンガ大賞」を開催。賞金総額1億円と、思い切った施策をうっています。

髙橋:そうですね。まず競争が激しくなることは大歓迎です。市場が活性化することで、webtoonの認知度が高まれば、さらに良いクリエイターの方々と、多くのユーザーの方々が生まれるでしょうからね。ただ、他社さんがいろんな策を打っても、「クリエイターファースト」の姿勢は変わりません。我々は高額賞金を提供するよりも、しっかりと作家さんやスタジオが育ち、世界に出ていける道筋を創り続けていきたいですね。

――ところで、髙橋代表ご自身は、どんなマンガが好きなんですか?

髙橋:僕が小学生のときにジャンプで『DRAGON BALL』(集英社)がはじまったので、いわゆるあの当時のジャンプ作品は読み込んできました。学生の頃は、マガジンもサンデーも、ヤンジャンもスピリッツも毎週読んでいました。電車の棚に誰かが忘れていったマンガを読んで、また元に戻す、みたいな暗黙のルールを守っていましたからね(笑)。

ただ、いま連載中のものでいうと、『ワンパンマン』(集英社)とか、『入学傭兵』『神血の救世主~0.00000001%を引き当て最強へ~』とか。けっこうアクションものが好きなのかな。

――経営に役立てたり、仕事のモチベーションをあげたりするときに読む作品などはあります?

髙橋:なんだろう。なんだかんだいって「島耕作シリーズ」(講談社)は、自分の役職が変わるたびに読んできましたね。「あそこにすべてが描かれてるんじゃないか」って思って。実際には、そんなに上手くいかないんですけどね(笑)。

髙橋将峰氏プロフィール2006年、ヤフー株式会社に入社。その後、株式会社イーブックイニシアティブジャパン代表取締役社長に就任。2023年7月にはLINE Digital Frontier株式会社代表取締役社長CEOにも就任。

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