事故対応から中古車の信頼回復にも効果的!?な新たな取り組み始まる。一般ユーザー向け「EDR体験会」で学ぶ、事故履歴データ活用のメリットと大切さ

ビッグモーターの不正発覚から始まった、中古車に対する信頼性確保の問題。業界全体にその影響は波及しているようです。そんな中、わかりやすい信頼性を担保するための新しい取り組みが、セールスの現場から始まりつつあります。ポイントは「修復歴なし」だけでなく「事故履歴なし」という、新しいガイドライン。安心、安全につながる顧客サービスに関する新たな取り組みを、取材してみました。

自動車の総合病院から始まる「安心感向上」への取り組み

取材に伺ったのは、埼玉県北葛飾郡杉戸町に拠点を構える株式会社 杉戸自動車(代表取締役社長 泰楽秀一氏)。新車や中古車の販売とともに「自動車の総合病院」を謳い、車検や日常点検、キズ凹みや事故などの修理、コーティングからバッテリー上がりまで、クルマのコンディションを正しく保つためのさまざまなサービスを提供しています。

2023年11月12日にグランドオープンした、杉戸自動車 新本社。ここが、一般向けEDR普及の最前線のひとつとなりそうだ。【住所:埼玉県北葛飾郡杉戸町清地3-4-16/電話:0480-32-3562/営業時間:午前9時~午後7時まで/月曜・第二第三火曜定休】

とくに注目したのが、オフィシャルホームページに記載された「当店の中古車に事故車はありません」という一文でした。エビデンスとして杉戸自動車が活用しているのは、BOSCHのシステムを利用したEDR(Event Data Recorder)データです。

エアバッグなどの展開を伴うような強い衝突を受けると、車載の記録装置であるEDRに事故時の衝突状況だけでなく、衝突直前の運転状況、走行状況などが記憶されます。専用のツールとアプリを使ってレポート化すれば、見えない部分に加わった衝撃や破損などを把握することが可能になります。

杉戸自動車では、仕入れた車両でEDR読み取りに対応した車種については、ボッシュが提供するCDR(クラッシュデータリトリーバル)によって検査しその情報を顧客に開示、万一そこに事故と思しき衝撃が加わった場合には販売をしない、とのこと。

一般的に中古車の安心感を担保する「修復歴なし」というガイドラインだけでなく、客観的な数値に基づく「事故歴なし」という証明は確かに、中古車に対する信頼性を高めることにつながりそうです。

その時、どんな運転をしていたのか・・・を教えてくれるEDR

EDRデータの活用については、北米のモータリゼーションでは一般的に浸透しています。近年は日本でも同様に、裁判や係争案件などで証拠として活用されるケースが少しずつ増えているようです。

事故を起こした軽自動車のEDRデータを読み出しするデモンストレーションを実施。専用ツールを使った作業と、そこから読み出されるデータに、参加してくれた一般ユーザーも興味津々のご様子だった。

一方で、一般自動車ユーザーの認知がなかなか進んでいないことも、また事実。BOSCHの日本法人を始めとするステークホルダーがそれぞれに、さまざまなアプローチでユーザーに対するパブリシティ活動を展開しています。

2024年3月9日、10日には、杉戸自動車の新社屋グランドオープン(2023年11月)の記念イベントとして、来店客向けのEDR体験会が開催されました。実施したのは、EDRを中心に自動車の「安心安全の見える化」を進める自動車関連事業者団体「EDR-DATA.JP(イーディーアールデータジャパン)」です。

体験を希望する来店者は、テスト車として用意された事故履歴のある軽自動車に乗り込み、データ抽出の作業を見学。PC上にレポート化されたさまざまな情報を見ながら、EDRを活用するメリットについて説明を受けました。

また、愛車の大型ミニバンを運転中に正面衝突事故に巻き込まれてしまったという杉戸自動車の顧客のために、EDRデータの読み出しを実施。取り出されたデータをもとに、事故時の運転がオーナーの記憶どおりだったかどうか、を確認することができたそうです。

こちらは不幸にも事故に巻き込まれてしまった車両を使った、読み出しのデモンストレーション。一見すれば、衝撃の大きさがわかるだろう。
事故に巻き込まれたオーナーが心配していたのは、自分が衝突時にどのくらいのスピードで走っていたのか、ということ。EDRから読み出した衝突直前5秒間の運転状況を見ると、ブレーキをしっかり踏んでおり、ほぼ停止状態だったことがわかって、ひと安心。EDRデータの利活用は、さまざまな形でユーザーの安心感につながる。

一般への認知度向上が、EDR活用のメリットをさらに高めていく

EDR-DATA.JPの協力企業のひとつで、今回の体験会をコーディネイトしたCDR-Japan
株式会社ブリッジ代表取締役の藤田隆之氏によれば、中古車に限らず今後、EDR活用の重要性が増していく可能性が高い、と言います。

これが、事故直前の5秒前までの運転・走行状況を記録した「プリクラッシュデータ」のレポート。車速、アクセル開度、ブレーキの踏み具合のほか、ハンドルの舵角まで数値化される。

そのためEDR-DATA.JPは2024年、日本各地でEDRの有用性を認知してもらうための一般向けキャラバンの実施を予定。同時に、EDRデータの読み取りを担う専門家資格「CDRテクニシャン」の講習会を、開催することにしています。

杉戸自動車の泰楽社長も「総合病院」として、新しい店舗をEDR活用事業の拠点として育てていく構想を明らかにしています。

フェアなどを通じて中古車の信頼性を高めるだけでなく、マイカー点検など顧客への安全啓蒙活動も実施。さらに、事故が原因で起こる係争への対応をサポートする活動にも、取り組んでいくことになりそうです。

体験会を取材して感じたのは、愛車に残されている記録は、オーナーの財産でもある、ということでした。「万が一」の時にそれを積極的に活用することは、オーナーとして守られるべき大切な権利であり、それがさまざまな課題の解決に大きく貢献してくれる可能性を秘めていることは確かです。

EDRおよびCDRに関する詳細は、Webモーターマガジンの過去記事をご一読ください。また、杉戸自動車およびEDR-DATA.JPの活動については、それぞれのホームページ(CDRテクニシャン認定講習についてはCDR Japanの公式Webでスケジュールを掲載)でチェックしてください。

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