【今週のサンモニ】さようなら、関口宏さん!|藤原かずえ 『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。

関口宏氏の「引退試合」で伝家の宝刀「空想的平和主義」

2024年3月31日放映の『サンデーモーニング』をもって、36年間にわたって番組の司会を務めた関口宏氏が番組を卒業しました。

この卒業が「勇退」であったのか「降板」であったのかは個人によって認識が異なるかと思いますが、この日の「風をよむ 平和国家日本…?」は、まさに『サンデーモーニング』の王道ともいえるテーマであり、出演したコメンテーターも、まるで引退試合を盛り上げるチームメートのように伝家の宝刀である空想的平和主義を熱く語りました。

水野真裕美アナ:それでは「風をよむ」です。火曜日、政府は殺傷能力の高い戦闘機の輸出の解禁を決めました。それは戦後の日本にとって大きな転換点となるのでしょうか。

薮中三十二氏(VTR):日本は勿論、平和国家としてやってきた。戦争になったらどうするんだということをみんなが議論をしているが、その前に戦いを避ける。平和を守るための外交努力が非常に大事になってくる。それがまさに日本の役割であると。

水野真裕美アナ:戦後日本が追い求めてきた平和国家としての歩み。それが今あらためて問い直されています。

関口宏氏:私がずっと感じてきたことは、武器に対する考え方がずるずると歪められていった感じ。それは周りの影響もあるかもしれないが、あの戦争で悲惨な負け方をした日本人たちがもう二度と戦争をしたくない、それが平和憲法だと言うことになっているんだと僕は思うが、周りの状況を見ると、空気が変わっていくのはしょうがないという面は私も感じるが、でも頑張ってやっぱり外交努力は一番に続けなければいけないと思う。皆さんはどうでしょう。

『サンデーモーニング』の出演者は、共通して大きな勘違いを犯しています。

最も深刻な勘違いは、日本政府が侵略戦争をやりたがっていると本気で信じていることです。民主主義国家の日本が他国を侵略するなど考えられないことです。

また、専制覇権国と日本の関係が悪化すると、日本が先制攻撃を仕掛けると本気で信じています。このような場合に、戦争を回避するため、日本が外交交渉を全力で行うのは自明ですが、彼らは、日本が外交努力などするわけがないと考えています。

さらに、他国の領土を確信的利益と宣言しているにもかかわらず、専制覇権国が日本を侵略することなどありえないと本気で信じています。彼らは、防衛予算を無駄と考え、防衛装備品の輸出も商売でやっていると考えています。

このような勘違いの結果が、空想的平和主義であると言えます。彼らは、自らの自尊心と承認欲求を満足するため、無責任に美徳を振りかざし、現実世界で平和を守るため日々努力している人たちを悪魔化します。

彼らは自身が専制覇権国家に与して罪のない人々の安全を脅かしていることに気付いていないのです。彼らのハチャメチャ発言を順に見ていきます。

空想的平和主義者は軍国主義専制覇権国家の味方

寺島実郎氏:「普通の国」という言葉が登場して、要するに「他の国だってやっているじゃないか」「日本だけなんで我慢しているんだ」みたいなね。

それが何を意味しているかというと、戦争ができる国であり、戦争に介入する国。戦後日本というのは、敗戦の屈辱の中から歯を食いしばって、武力をもって紛争解決の手段としないという憲法を掲げて国際社会の中を生きた。私も経済の現場に生きた人間だから、平和産業に立脚して我々飯食っていくんだということに誇りも持っていた。

そこで国際社会の中での日本の存在感ということを考える時に、今日本人に覚悟が問われている。普通の国の誘惑に駆られていくのか。

一つ大変僕にとって重要な数字があるが、国際連合の分担金という比率がある。日本は21世紀迎える頃、国連の21%の分担金を支えていた。で、GDPがグーっと相対的に沈下してきて、去年は8%までに落ちた。中国は1%から15%まで増やしてきて、国連は株式会社ではないから分担金が多いからと言って発言力が多いなんてもんじゃないけど、どんなに小さな国でも自己主張するためには、筋道が通った、要するに、主張というのが大事だ。

で、国際社会の中で日本が持っている筋道は何だと言ったらやっぱり非核平和だ。非核に徹し平和に徹することから国際社会の敬愛とか尊敬とか発言力を維持してきたし行かなければいけない。小さくても筋の通った国ということについて日本人が大きな問題意識を問いかけられている。

こういう時に世の中皆そうなっているんだからそれでいいんじゃないってことでは日本の将来がむしろ問題だ。新しい時代に向けて日本の国際社会での役割は何なんだということをよ~く真剣に自問自答しなければいけない。

本当に見事なまでに冗長過ぎる禅問答です(笑)。

「日本の国際社会の役割は非核平和だ」と言えば済むところを、これだけ長くコメントするのですから恐れ入ります。国連の分担金の話題が結論にどう関係しているのか、しびれるくらいに意味不明です。

国際社会の敬愛とか尊敬を得るために非核平和を目的化するのは、どう考えても本末転倒です。

目加田説子氏:戦争と平和の問題にどう向き合うのかは、その国の歴史に根差した問題だ。今、目の前の脅威、国際環境が変わって我々が晒されている脅威にばかり目が行きがちだが、もっと長いスパンで歴史を見た時に、もしかしたら今の脅威は一瞬の出来事かもしれないと思う。

そもそも45年に我々が長い戦争を経て至った考え方というのは、二度と同じ過ちを繰り返してはいけないということだったはずだ。ですから、目の前の脅威にばかり「どうせ言ったって駄目だ」「現実は厳しいんだ」という思考停止に陥ることなく、やはり原点に立ち返ることが大事だし、特に憲法9条だけでなく前文に書かれていることを噛みしめたい。

その一節に「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」と書いてある。ですから我々だけでなく世界の市民が等しく平和的な生存権を認められるように掲げられているその理想を忘れてはいけないし、原点に立ち返って努力を積み重ねることが大切だ。

目の前にある中露北の脅威から目を背けて丸腰になることが大事だと説く目加田氏です(笑)。

空想的平和主義者はもはや軍国主義の専制覇権国家の味方であり、常軌を逸するほどにアクロバティックになっています。関口氏の番組降板は、空想的平和主義の終焉を意味しているのかもしれません。

青木理氏も降板しては……?

安田菜津紀氏:紛争の問題を抱える国・地域に出向いて現地の方に言われたことがある。「たとえば私たちがあなたを受け入れるのは日本が私たちを直接攻撃したことがないからだ」「日本製の武器が自分たちに向けられたことがないから」という言葉をいただいたことがある。

その信頼をわざわざ今、壊す方向に舵を切っている。これから第三国に輸出されようとしているのは戦闘機だ。「直接は紛争地に送らないから歯止めをかけたんだ」というのはハッキリ言って詭弁でしかない。

人命をこれだけ左右する問題を国会の議論も経ずに決めていくのは民主主義も人の命も軽視していると言わざるを得ない。そこで得られた利益で潤う社会というのは一部で言われているいわゆる「美しい国」なんだろうかということだ。

今求められているのは偽物の美しさではなくて、本物の公正さを私たちは目指していかなければならない。

美徳を振りかざして相手に不合理な罪悪感を持たせて不相応な要求をする手法を【感情的恐喝 emotional blackmail】と言います。

安田氏の上記コメントは、そのほとんどが感情的恐喝で構成されています。日本の防衛装備品の輸出が可能な国は、国連憲章の目的と原則に適合した使用を義務付ける国際約束の締約国である米・英・仏・独・伊・スウェーデン・豪・印・シンガポール・フィリピン・インドネシア・マレーシア・ベトナム・タイ・UAEの15か国です。

ルールに則って平和を希求する国々に防衛装備品を輸出することは、罪のない市民の命を守る安全保障と安全確保の向上に寄与するものであり、特に専制覇権国の脅威に晒されているアジア太平洋諸国からは信頼を得ることができるはずです。紛争地に防衛装備品を送らないというのもけっして詭弁ではありません。

青木理氏:三木内閣は防衛予算GDP1%内、武器輸出3原則を決めた。当時も国際情勢は厳しかった。ベトナム戦争もあり、冷戦真っ盛りだった。中東でもたびたび戦争が起きていた。宮澤喜一氏が外務大臣だった。

「日本のような平和主義を掲げる国は残念ながら世界には珍しいのが現実だ。但し、これがいつか拡がって行って欲しい。そうすれば争いは無くなる。日本は武器を輸出して稼ぐほど落ちぶれてはいない」と国会答弁している。

それを考えると、皮肉を込めて言えば、日本はここまで落ちぶれたのかと。戦闘機は殺傷兵器だ。理想を掲げて、それをきちんと口に出して、多くの人達に「国はこういうふうに向かうべきじゃないか」と示しながら多くの人を頷かせる政治家がかつてはいた。

今、そういう政治家いますかというところに政治の貧困が現れている。

警察の拳銃は殺傷兵器ですが、市民を暴漢から守る重要な道具となっています。物は使いようであり、信用できる国に防衛装備品を輸出することは積極的平和主義に寄与します。

安倍総理はこの積極的平和主義の理想を掲げた「地球儀を俯瞰する外交」で多くの人を頷かせました。当時の外務大臣であった岸田首相がこれに加えて「核なき世界」という理想を掲げていることは世界の首脳が知るところです。

なお、ちょうどよい機会なので言わせていただければ、的を射ない個人の認識しか語らない青木氏のコメントはほとんど無意味です。関口氏の卒業に合わせて降板した方が視聴者の利益になると考えます。

空想的平和主義の終焉か

さて、番組の最後に、関口宏氏が卒業の辞を述べました。

関口宏氏:今日のこの放送をもちまして、私担当の『サンデーモーニング』は終了ということになります。36年と6カ月でございます。長い間ありがとうございました。(中略)

考えてみれば36年6カ月、この『サンデーモーニング』でいろんなことを勉強させてもらったかなと思っております。そのことにつきましても、ありがとうございました。でも『サンデーモーニング』が終わってしまうわけではありません。(中略)

皆さんもよろしくお付き合いください。私は今日で消えます。ありがとうございました。

『サンデーモーニング』は、日本社会のメンタリティに大きな影響を与えたと考えます。その詳細については、また別の機会に論じようと思っていますが。思えば、関口氏は、東京五輪が閉幕したくらいから、番組で自己主張することがほとんどなくなり、出演者のコメントに「そうですか」を繰り返していました。どのような内面の変化があったのかは不明ですが、過去とは歴然とした違いでした。

いずれにしても、関口氏の番組卒業により、強力な宣伝機会を失うことになる空想的平和主義は終焉を迎えるかもしれません。

なお、この回で、12年の長きにわたりこのワンダーランドを支えてきた水野真裕美アナも卒業ということになりました。

皮肉なことに、水野アナこそ、番組が批判する「わきまえた女性」の典型であったかと思います。お気の毒にも、番組に何か不適切な問題が生じると、まったく無罪であるにもかかわらず、謝罪をさせられていました。罰ゲームのような手作りフリップによるプレゼンも難なくこなしていました。

抜群のアナウンス能力でTBS報道女性アナのエースとして大活躍されることをお祈りしています!

藤原かずえ | Hanadaプラス

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