特集は地域に根差すベトナム出身女性です。長野県池田町に移住して3年。ゲストハウスを営みながら、2023年12月、自慢のフォーなどを提供する店もオープンさせました。「二刀流」で奮闘する意欲は、どこから来ているのでしょうか。
あっさりとした鶏ガラスープに、米粉の平たい麺。
ベトナム料理の定番「フォー」です。
客:
「おいしいですよ」
作っているのは、「レンさん」ことグェン・ティヴィエット・リェンさん(38)。
2023年12月、池田町に「REN'S DINING」をオープンさせました。
「レンさん」こと・グェン・ティヴィエット・リェンさん:
「自分のブランドとしてやるっていうのは、やりがいも感じるし、面白いですし好きなっていただいているのは実感できるので、すごくうれしいなと」
移住して3年。好きになった池田町を自分流に盛り上げようとしています。
レンさんはベトナムの首都ハノイの出身。父親の仕事の関係で小学生の頃、3年間、東京で暮らしました。
日本が好きになったレンさんは、帰国後も日本語を勉強し、大分県の大学に留学。東京で12年間会社員生活を送りました。
レンさん:
「東京も長かったから、環境も変えたいし、いつか自営業をしてみたいというのがあったので」
移住を考えるようになったレンさん。コロナ禍を機に山登りが趣味となり、信州によく訪れていました。
移住先として目に浮かんだのは池田町から見た北アルプスの景色でした。
レンさん:
「北アルプスがすごくきれいだから、池田町にしよっていうのを第一希望として挙げて、コロナもあったので自然に近いところに行ったらいいんじゃないかなってことで」
2021年4月に移住。
不動産会社のサポートで民家をリフォームし、自宅兼ゲストハウスにしました。
レンさん(2021年):
「自分も結構旅行して、民宿、ゲストハウスに泊まっていて、地域の方とアットホームに一緒に過ごせたので、今度は自分がそういった場をつくっていろんな人たちをウェルカムしてやりたい」
ある日、宿泊客にフォーを提供したところ、これが大好評。
多くの人に食べてもらおうとその年の10月、親子交流スペースを間借りし、「朝フォー」の店を出しました。
レンさん:
「自分が提供したものに対して誰かが『おいしい』ってハッピーな感じになるので、こっちもそれ聞くとすごくうれしいんですよ。どんどんリピーターさんも増えてきて、それを見ているうちに、固定店で地域に根付いた感じで提供する(形に)というのが自分の中で強くなってきた」
「朝フォー」を通じてレンさんは料理店にゲストハウスとは違った可能性を見いだしました。
住民、移住者、それに観光客。さまざまな人が交流する場になるのではと考えるようになったのです。
レンさん:
「きょう食べたいなと思うときに、いつでも気軽に行ける場所。移住者同士が話をしたきっかけで知り合いになったりとか、おいしい料理を提供するのもそうだけど、プラスアルファ地域に貢献ができたらいいな」
移住の際、サポートしてくれた不動産会社に相談するとログハウスを借してくれることに。
クラウドファンディングで資金を集め、2023年12月、店をオープンさせました。
フォーに使う鶏ガラスープ。
八角やシナモンなどの香辛料を効かせてあります。
湯通しした麺に鶏肉などを盛り付けてスープをかければフォーの完成。
揚げ春巻きとセットで提供しています。
レンさん:
「牛肉のパターンと鶏肉のパターンがあって、地域によって食べ方は違ったりとかはありますね」
客:
「やさしい味でおいしかったです。(周囲に)宣伝しときます」
「ちょっと驚きましたけど、こんな所ができたなんて、すごくうれしいです。また来たい」
他に、炒めたエビや豚肉を薄く焼いた米粉の生地で挟んだ「バインセオ」や、なますとチャーシュー、パクチーを挟んだパン、「バインミー」などのベトナム料理を週4日、ランチタイム営業で提供しています。
こちらはレンさんをサポートしている不動産会社の猿田正志社長(72)。
遠条・猿田正志社長:
「(経営は)どんなもんですか」
レンさん:
「おかげさまで、お客さんにも認知してもらって、先週も町内のお客さんが週末来てくれて」
遠条・猿田正志社長:
「安定化してきてよかったね」
実は猿田社長は元料理人。松本市の人気カレー店「メーヤウ」の元経営者です。店を譲って飲食業からは離れましたが、店を営む厳しさを熟知しており、日頃からアドバイスをしています。
遠条・猿田正志社長:
「どうしてもご飯のメニューがひとつ欲しいな」
レンさん:
「ご飯ものが少ないから、肉のせのどんぶりとか出す予定なので、来月から」
レンさん:
「いろいろアドバイスとか、相談させてもらったりとか、すごくありがたい存在ではあります。第二のお父ちゃんみたいな感じで思っています」
遠条・猿田正志社長:
「すごいと思うんですよ、女性が一人で知らない日本のこんな田舎に来て、そこで何かしようって思うこと自体が。今はそういうバイタリティーを持っている日本人は少ないので、すごく応援したい」
店の営業を終えると今度はゲストハウスへ。
台湾からのスキー客が連泊中のため、スキーから戻ってくる前に部屋のセッティングなどを行います。
レンさん:
「おかえりなさい」
客:
「ただいま」
レンさん:
「it's fine(楽しかった)?」
「Very good(最高だった)?」
主と客の距離が近いレンさんのゲストハウス。
家庭的な雰囲気がインバウンド客に好評です。
台湾から:
「Very nice.Very beautiful.(最高よ、室内もとても美しいし)Homey,homey.(居心地が良いのよ)」
北の「大町・白馬」、南の「松本・安曇野」に挟まれた池田町。
「二刀流」は決して楽ではありませんが、自分が気に入った池田町の「魅力」が増せばと奮闘しています。
「レンさん」ことグェン・ティヴィエット・リェンさん:
「池田町って今まで通過される町だと思うんですよ、大町・白馬行く人の。そうじゃなくて池田町に寄っていこうよみたいな、あそこにそういうお店があるし、そのきっかけをつくれたらすごく大きな貢献だと思うので。人と人のつながり、人と地域のつながりを、飲食店もそうだし、宿で提供していきたい」