過剰な消費社会へのアンチテーゼと、感じ良い暮らしの追求――無印良品の40年

Day1 プレナリー
金井政明・良品計画 代表取締役会長

シンプルで機能性の高い商品が、多くの人の生活に浸透している「無印良品」。その始まりは世界で大量消費、大量廃棄型経済が進み、日本もバブル景気に沸いた1980年代に、『過剰な消費社会へのアンチテーゼ』の意味合いを込めて市場に送り出されたものだった――。今や世界に1200以上の「MUJI」の店舗を展開し、サステナブル・ブランド ジャパン アカデミックチームが行う"生活者のSDGsに対する企業ブランド調査『Japan Sustainable Brands Index(JSBI)』 でも2年連続で1位になるなど、名実ともにサステナビリティのリーディングカンパニーである良品計画の経営の神髄を金井政明会長が語った。

無印良品のカラーとしてなじみ深い、えんじ色(良品計画は“弁柄色”としている)の背景に白字。セッションは、スクリーンに映し出された「幸せですか?」との問いかけから始まった。会場を見回しながら、「(主語を)『私たちは』、というふうに聞くと、皆さんちょっと困ってしまいますよね」と金井氏。なぜなら、個人で幸せを感じていても、その問いかけの範囲が子どもや孫、さらに将来世代ともなると、答えに窮してしまう人が多いだろうから。水・食糧・エネルギー不足や『地球沸騰化』など、さまざまな問題が差し迫っているからだ。

それらの根っこにある『過剰な消費社会』に対し、無印良品は1980年の創業時から「闘っていこうというアンチテーゼ」を持つと同時に、「みんなが感じ良い暮らしや社会とはどういうことかを探求してきた」と金井氏は力説する。人間には「人と比較してうらやましがったり、ねたんだり、見せびらかしたり」という特性があり、資本の論理もそこに向かって過剰な消費をつくりだしがちであるのに対し、無印良品では、クリエイティブチームがアドバイザリーボードという形で経営の軌道を修正する仕組みを続けてきたという。

「家に戻ってネクタイを外して、家族だけに、あるいは自分ひとりだけになった時にどんな商品と暮らしたいか、どんな商品を選んでもらえるだろうか、というのが僕たちのマーケティング」と金井氏。そのような「素の自分」へアプローチする商品は、「素材に無駄がないか」「必要以上に加工に手間がかかっていたり、付加価値を付けていないか」など、徹底的に削ぎ落とした「素材としての良品」であり、背景には「少ない方が豊か」という生活美学がある。

今や無印良品の店舗は世界32の国と地域で1200以上に広がり、その半数以上が海外だという。金井氏はその一つ一つが「単純なチェーンオペレーションではなく、思想を共有した個店経営だ」と説明し、特に日本ではこれから人口が半減するとされる2100年を見据え、「小売の仕事だけではない、『超小売』として」地域と対話し、協業を進めていく方針を強調。ここでセッション冒頭の問いかけを自らに向け、「他者(ひと)の役に立てている実感と、『困ったらお互いさま』という社会をみんなで一緒につくっていく。そこに自分がいることが本当の幸せではないでしょうか」。このような答えを導き、講演を終えた。

青木茂樹・SB国際会議アカデミック・プロデューサーと対談

人間という、動物の一種類が私たちなのだ、と再認識する。人間中心主義ではない、本来に戻ることが必要だ

続いてセッションは、青木茂樹・SB国際会議アカデミック・プロデューサーが、良品計画のこれまでやサステナビリティの考えについて金井氏に深掘りする形で進行。初めに、無印良品を創業した中心人物で、セゾングループを築き上げたことで知られる堤清二氏の『イズム』が、無印良品の中にどう息づいていたのかを聞くと、金井氏は『人間はそもそも矛盾した生き物なんだ』という堤氏の言葉を紹介しつつ、当時のクリエイティブなメンバーに共通する戦争体験や『弱いもの、小さいものに対する強いまなざし』を指摘し、無印良品誕生のバックボーンとして説明した。

サステナビリティの言葉が普及するはるか前から、それにつながる思想と経営を続けてきた良品計画。青木氏が「時代がやっと追いついてきたのか。トレンドをどう感じているか」と問うと、金井氏はSDGsやESGなどの言葉に「本質を感じていない」と応じ、「今の価値観の何が豊かで、何が幸せで、何が美しいのか、もう一度考える。この惑星の中で、人間という、動物の一種類が私たちなのだ、と再認識する。人間中心主義ではない、本来に戻る、ということが必要だ」と述べた。

一方、無印良品のグローバル展開に関連し、青木氏が「標準化と適応化」のバランスについて尋ねると、金井氏は自律分散型の組織を目指しているとし、「社員が株主、経営者であるべきで、ワーカーではなくプレイヤーだ」と強調。食や衣料に浸透したグローバリズムを「今のままでいいのか」と疑問視した上で、「思想を共有した人たちが、それぞれの地域や店舗で自ら考えていく。そういった経営が、最後は役に立ってもうかると思う」と話し、実際に世界各地で、店舗の一部を工芸作家らに無料で開放し、地域の人と人をつなげる取り組みが行われていることを紹介した。

サステナビリティがビジネスの主要なテーマとなる中、日本で40年以上前に生まれた「MUJI」はグローバル市場をどう生き抜き、さらなる成長につなげていくのか——。青木氏の最後の問いに、金井氏は「計数的にエビデンスがないといけない風潮があることの難しさ」を指摘しつつ、「エビデンスだけが全てではない。会社のビジョンや哲学の価値を計数化できないとしても、顕在化できるようなことは考えないと負けてしまう」と力説。競争は激しさを増す中、本質を見極める経営の大切さを改めて伝え、セッションは幕を閉じた。(眞崎裕史)

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