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トライアンフ・モーターサイクルの最新モデルとして、待望のフルカウル3気筒ミドルとなるデイトナ660が日本でも発売開始。さっそく試乗会に丸山浩が駆けつけた。当日はあいにくの雨だったが、かえってそのことが3気筒スポーツを楽しく味わえる新鮮なキャラクターを浮き彫りにしたのだ。
●まとめ:ヤングマシン編集部(宮田健一) ●写真:長谷川徹 ●外部リンク:トライアンフモーターサイクルジャパン
本気系の先代675から間口の広いマシンにキャラ変
トライアンフの3気筒ミドルフルカウルスポーツであるデイトナが久々に帰ってきた。このスタイルを待っていたファンも多かったのではないだろうか。’16年に生産終了となった先代デイトナ675は128ps、’20年に全世界で1530台が限定生産されたデイトナMoto2 765は130psを発揮するガチ本格仕様の尖ったマシンだった。
だが、今回の660は意外にもそれらとはキャラクターを変えてきた。659ccの3気筒エンジンはトライデント660系のユニットを使用して最高出力は95psに抑えられ、ハンドル高も見た感じではそんなに低くない。ヘッドライトも今どきとしては大きめで、そんなにイカツすぎない。そして価格は675の158万5000円(’14・675R)から660では108万5000円へとグッとリーズナブルになった。
こうしたことからもターゲットをこれまでの走りを極めたハイエンドユーザーから、ストリートメインの幅広いユーザー層へと移したことを読者も感じていただろうと思う。
【TESTER: 丸山浩】
自らのチューニングショップWITHMEやYoutubeチャンネルのMOTOR STATION TVを主宰する本誌メインテスター。二輪・四輪両刀使いのプロフェッショナルレーサーとしても活動中。
実際に跨ってみただけでも660は新しいデイトナ像を持っていた。シート前方のエラがちょっと張っていて足着き自体は初心者向けとしては思っていたよりも高い気はしたものの両足指の腹まで接地するし、やはりハンドルバーも適度な低さに抑えていたので前傾姿勢もストリートレベルに最適化され、スーパースポーツ特有の腰高感といったものは感じさせない。
ハンドル垂れ角もそんなに付いていないので、セパハンながらフラットバーハンドルのような感覚を併せ持ち、長時間乗っても手首の疲れは少なくて済みそうだ。と同時にハンドルバーは絞り角を強めてライダー近くに寄せ、高い操作性を提供。ハンドル幅も肩幅より拳半分広いかどうかという設定で絶妙だ。タンクの形状も下半身がピタっと吸いつくような感じでホールドできるようになっている。こうした端々から街中からワインディングまで楽しく乗るための考え抜かれたライポジになっているのが感じ取れた。
さて、せっかく試乗会場には箱根ターンパイクを用意してくれたのに当日はあいにくの雨。しかし結果から述べると、その雨がかえってデイトナ660の良い部分を浮き彫りにしてくれたのかもしれない。雨の中で乗ってもこんなに楽しいスーパースポーツには、なかなかお目にかかれない。
「SPORT」「ROAD」「RAIN」とあるライディングモードのうち、雨でもあえて「SPORT」でスタート。低中回転では程よい鼓動感とトルク感で扱いやすいエンジンは95psに抑えているとはいえ、やはり回転を上げていくと8000rpmあたりからドガッと3気筒の利点である2ストローク二段ロケット感覚もしっかり味合わせてくれる。
装着タイヤのミシュラン・POWER6は雨の峠を走るには少々勇気がいる攻撃的なトレッドパターンだが、トラコンがバッチリ効いてくれるおかげでグリップを失う兆候はない。雨の中でも驚くほどスロットルを開けていけるのだ。
トルク感・盛り上がり感・伸び切り感! 3気筒の楽しみをキッチリ味わえる
雨の箱根でデイトナ660は実に気持ちよく走ってくれる。そして、とにかく乗りやすい。本領を発揮する8000rpmからの駆け上がり感に加えて1万2000rpm弱くらいまでちゃんと上の方までの伸び切り感を持っているんだけど、100ps以下で走らせているのでリッター超えのようにすごいパンチ力を持て余してしまうようなこともない。
それに中間の5~6000rpmで走っていても、それに至る低回転域からのドロドロドロっとした味わいあるトルク感が高回転域に負けず楽しい。ただ高回転域については雨のため8000rpmを超えたころからドラコンが効きっぱなしになり、「SPORT」「ROAD」「RAIN」のどのモードでも同じような雰囲気になっていた。これがパワーをスポイルされないドライコンディション下のSPORTモードだと評価はもっと変わってくるかもしれない。
いずれにせよ、雨の中でもトルク感・盛り上がり感・伸びきり感という3気筒の3つの良いところを持っていることはしっかりと確認。それだけでも十分に意味はあった。
また、エンジンに加えてデイトナ660は車体も優秀。ハンドリングが気持ちいい。SHOWA製の前後サスペンションはアジャスター機構こそリヤプリロードのみではあるものの、フロントにSFF-BP倒立フォークを採用しているなど豪華で、路面追従性が実に素晴らしい。
セッティングは柔らかめでありながら、コーナリング中にギャップを踏んでもストトトトッと何事もなかったかのように通過。ブレーキもなかなかに強力かつコントローラブルだ。それにニーホールド部分に加えてタンク形状が実にいいので、お腹の膨らみが心配になってきたオジサンたちでも前傾姿勢でしっかりと身体をタンクに押し当てながらコーナリングするスポーティーフォームをキメやすい。
クイックシフターは残念ながら付いていなかったが、こちらは上下対応のものがオプションで装着可能。無くてもマニュアル操作によるシフトダウンでエンブレを効かせながらコーナーに飛び込むといったスポーツライディングの醍醐味を存分かつ手軽に味わうことができた。
デイトナ660は、レーシングマシンを彷彿とさせるスポーツバイクとしての素性をしっかり持ちながら普段使いやツーリングにも応えてくれるオールラウンダーへ見事に生まれ変わったというのが私の結論だ。フルカウルのカッコ良さに憧れてバイクに乗ることを決めたという人にピッタリのバイクではないだろうか。
最近流行りのミドルスポーツ界において、このデイトナ660と最も近いのはホンダのCBR650R。この2車は馬力的にも価格的にも丸かぶりだ。違いは3気筒か4気筒か。4気筒のCBRの方が上の伸び切り感で勝るようにも思えるが、デイトナもドライコンディションでの実力をまだ解放してはいない。このあたり、ヤマハYZF-R7や排気量がワンクラス上になるスズキGSX-8Rら2気筒勢も交え、いずれキッチリと決着を付けてみたいと思う。
ミシュランの最新スポーツタイヤであるPOWER6をいち早く採用。トレッドパターンはご覧のとおりエッジ部分まで達しておらず、なかなか攻撃的だが、トラコンが効いてウェットでも予想以上のグリップを発揮してくれた。タイヤ単体でも旧モデルのPOWER5よりドライ・ウェットともにグリップ性能は10%向上していると言う。
デイトナ660のスペック
デイトナ660 のスタイリング
デイトナ660 のディテール解説
メーターの各種切り替えや設定は主に左スイッチボックスにある十字ボタンによる直感的な操作が可能となっている。右スイッチボックスはシンプル。キルスイッチ兼用のスターターボタンとハザードスイッチを備える。
マフラーはショートタイプでサイレンサーエンドは車体と同化するようなデザインでまとめている。アンダーカウル前から覗いて見える3本のエキパイが3気筒であることを主張。
爽快なスポーツライディングを提供するステップ形状。クイックシフターは非装備だが、オプションで上下双方向対応のものが装着可能となっている。
リヤサスにはリモートプリロード調整機構付きのSHOWA製モノショックを採用。スイングアームは左右で形状が異なっている。
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