マスコミが報じない川勝知事が暴言失言を恐れない理由|小林一哉 「磐田は浜松より文化が高かった」また暴言をした川勝知事。しかし、撤回もせず、悪びれる様子もない。なぜ、川勝知事は強気でいられるのか――。

暴言を撤回せず

3月13日の川勝知事の会見(静岡県庁、筆者撮影)

2024年3月18日、静岡県議会2月定例会は何の波乱もなく無事、閉会した。

と言っても、今回の2月県議会でも、川勝平太知事のいい加減な政治姿勢に対して、さまざまな批判が集中した。

ことし1月1日に起きた能登半島地震被災地への対応を話し合うため、発災直後の4日に開催された、石川県を含む中部9県1市のウエブによる首長連絡会議を欠席したためだ。

静岡県のみが代理出席となり、川勝知事は、ほぼ同じ時間に開催された静岡新聞社・静岡放送主催の新年会を優先してしまった。

批判に対して、川勝知事は「新年会に出席したが、連絡会議の話し合いに何らの支障はなかった。新年会もあくまでも公務であり、重要だった」と言い張った。

自民党県議団らから厳しい意見が続いたが、川勝知事の対応は全く変わらなかった。

この結果、最終日の18日、県外の大規模災害であっても最高責任者の自覚と責任ある行動を求める決議案を全会一致で可決した。

ただ、いくら自覚を促しても、知事本人がそう思っていないのだから、あまり効果のある決議案とは言えないだろう。

また、3月13日午前、知事を表敬訪問した、磐田市を本拠地とする女子サッカーなでしこ1部リーグの「静岡SSUボニータ」の監督、選手との懇談の席で、川勝知事は「磐田は浜松より文化が高かった」、サッカー強豪校の藤枝東高に触れて、「ボールを蹴ることが一番重要なんですよ。勉強よりも。何よりも」などと好き勝手な意見を披露した。

同日午後の定例会見で、表敬訪問を取材した記者から、一連の知事発言は不適切ではないのかと問われたが、川勝知事は「相手が不快に思われたり、相手に無礼を働いたりしたら問題があるが、そういうことはなかった」などと発言の修正、撤回など必要はないとしてしまった。

批判の嵐があってもどこ吹く風

この知事発言に、「特定の地域を比較して、一方を侮辱した」などと自民党県議団は反発、最終日の18日の提出議案の討論で、自民党県議が「文化が高い、低いとの表現は重大な差別発言だ。知事と県民の意識にかつてないほどの隔たりができている」などと異例の苦言を呈した。

公明党県議も「知事の立場にありながら他人や自治体を自分勝手な基準で評価し、思いのまま発言するのは許せない」などと怒りをぶつけた。

しかし、川勝知事はどんな批判の嵐があってもどこ吹く風で、2月県議会を乗り切ったのである。

と言うのも、どんな失言暴言があったとしても、県議会の現勢力では、川勝知事の不信任決議案を可決できないことをちゃんと承知しているからである。

川勝知事は大船に乗ったつもりだったのだろう。

ただ議会終了後に、川勝知事を支える県議会第2会派「ふじのくに県民クラブ」の浜松選出の議員1人が、会派を離れることを決め、会派所属議員に伝えた。

4月以降に退会届を提出したあと、会派代表が議会事務局へ届け出ることで、同議員は無所属となる予定だ。

これで川勝知事も大船に乗っていることができなくなったのか?

もう一度、現在の県議会の勢力を見る。全議席数68議席だが、欠員1で67である。

昨年4月の県議選で、ふじのくに県民クラブは選挙前の17より1つ増やして18とした。ところが、選挙直後に無免許運転などが発覚した同会派の女性議員が辞職した。現在は欠員1で、ふじのくに県民クラブは17議席。

昨年6月県議会で、知事不信任決議案が提出されたが、67議席のうち、ふじのくに県民クラブ17人以外はすべて賛成に回った。1票差とは言え、それでは可決できなかった。

つまり、不信任決議案の可決要件の4分の3の賛成票は、51議席が必要となるからだ。

川勝知事と真っ向から対決したいが…

2月県議会で川勝知事への苦言を呈する自民党県議(筆者撮影)

川勝知事への不信任決議案は、2021年10月の参院静岡選挙区補欠選挙の応援演説で、元・御殿場市長の自民党公認候補をやゆして、「御殿場にはコシヒカリしかない」などと発言したから、一躍、注目を集めた。

「御殿場コシヒカリ」問題で、自民党県議団は、不信任決議案提出を目指した。

自民に加え、公明党県議団、一部無所属議員が賛同したが、ふじのくに県民クラブの壁を切り崩すことができず、68議席のうち、可決要件の4分の3、51の賛成票を集めることができなかった。

つまり、68でも67でも51の賛成票が必要なのだ。

その結果、法的拘束力のない辞職勧告決議案を可決して、お茶を濁した。

今回、ふじのくに県民クラブが16議席となったことで、事態の打開をはかることができるのかもしれない。

ふじのくに県民クラブを離脱することを決めた浜松選出の議員は、浜松市の遠州灘海浜公園への新野球場整備に当たって、同会派が、浜松市商工会議所などの求める大型ドーム球場建設に賛成していることで、意見の対立があったようだ。

川勝知事の政治姿勢に対する批判ではないから、知事不信任決議案が提出されたとしても、同議員が賛成に回ることはなさそうだ。

しかし、もし、同議員が棄権した場合はどうなるのか?

同議員が棄権すれば、総数は66となり、賛成が50であれば、可決要件の4分の3に届くことになる。となれば、会派の拘束がないのだから、是々非々で、棄権に回るよう働き掛けが始まるだろう。

いずれにしても、どうなるのかは、6月18日開会の県議会までには明らかになるはずだ。

ただ知事不信任決議案が可決されても、自民党県議団が川勝知事に対抗する有力候補を用意していなければ、結果として川勝知事が辞職しても、何の意味もなくなる。

2025年6月の県知事選前に、自民党県議団は不信任決議案を可決させて、川勝知事と真っ向から対決したいことがわかる。ただ、対抗馬がいまだに見えてこない。

川勝知事に勝てる有力候補を

2019年12月、JR東静岡駅南口に整備を進めていた「文化力の拠点」施設に、自民党県議団が見直しを求めていることに不満を持った川勝知事が、自民党県議団を念頭に、「やくざの集団」「ごろつき」などと発言、大騒ぎを招いた。

さらに2020年10月の会見で、今度は当時の菅義偉首相を「教養レベルが露見した」「学問をした人ではない」「学問立国に泥を塗った」などとめった切りにして、こちらも大騒ぎを招いた。

いずれも自民党県議団はなす術もなく、事の収拾を図ったに過ぎない。

「やくざの集団」「ごろつき」発言で自民県議団がボコボコにされてから、2021年6月の県知事選までは1年半もあった。

それなのに、前回選は約33万票の大差をつけられる惨敗となった。

次回の6月県議会までに川勝知事の新たな失言暴言が生まれるのは間違いない。

そこで何よりも自民党県議団は、川勝知事に勝てる有力候補をちゃんと用意して、知事不信任案を提出しなければならない。

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小林一哉(こばやし・かずや)

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