ペット後進国からペット大国へ、「犬より猫」が出現した中国の事情とは―中国メディア

中国でペットとしての犬や猫の飼育が本格化したのは1990年代で、当初は犬の数の方が多かったが、2021年あるいは23年に、猫の飼育数が犬を上回ったという。

中国中央広播電台(中国中央ラジオ)のニュースサイトである中広網は29日付で、中国でペットとしての犬と猫が普及した経緯を紹介する記事を掲載した。中国でペットとしての犬や猫の飼育が本格化したのは1990年代で、当初は犬の数の方が多かったが、2021年ごろに猫の飼育数が犬を上回ったという。同様の現象が発生しているのは中国だけでないが、中国ならではの状況もあるという。

国により違う犬と猫の飼育数の多寡、中国では「猫が犬を逆転」

中国では1990年代が、ペットとしての犬猫の飼育、さらに関連産業の「草創期」だった。2000年から10年はまだ「揺籃期」で、11年に高度成長期に突入した。

新華社中国経済情報社とカン州(「カン」はへん部分が「章」、つくり部分は「夂」の下に「貢」)大健康ペット科学研究院が共同発表した「中国ペット業界発展指数報告書(2023)」によると、世界のペット猫の数は17年の35億匹から22年には43億匹に増加した。ペット犬の数は17年の45億匹から22年には52億匹にまで増加した。

地域別に見れば、米国、英国、南米、オーストラリアなどでは犬が多く、フランス、ドイツ、北欧、東アジアでは猫が多い。中国での飼育数は犬でも猫でも世界の国と地域の中で第2位だ。

同報告書によると、中国のペット産業はすでに「犬経済」から「猫経済」へと移行している。17年に8220万匹だった犬の飼育数は、20年の9393万匹をピークに、22年には8672万匹に減少した。17年には6853万匹だった猫の数は、その後は年々増加し、22年には9896万匹に達した。

中国で犬や猫の飼育数が増えた「大環境」としては、人々の生活が豊かになったことがある。人々の消費は「実用本位」から「充実感本位」に移行した。そのことで、ペットによって得られる「情緒」がより重視されるようになった。中国では改革開放の開始以前からいわゆる夫婦共働きの家庭が一般的だった。改革開放が進行すると、仕事や地位の向上を重視して、子どもを持とうとしない夫婦も増えた。いわゆるディンクス族だ。そしてディンクス族がペット犬やペット猫を飼う重要な階層になった。そしてペット飼育の「草創期」から「揺籃期」にかけては、生活に余裕ができた人が社会的地位の象徴と見なされた純血種の犬を飼育することを好んだ。しかし10年以降は猫が急速に中国人家庭に入ることになった。同時にそれは、中所得層の台頭を象徴する現象でもあった。

生活が忙しくなったことで犬を敬遠

国家2級心理カウンセラーの何自容氏は、「ディンクスの家庭はペットを選ぶ上で、ペットそのもの特徴と飼育の利便性を考慮します。ペットが違えば、飼い主が得られる感情もペットとの関係も異なります。猫の飼育は犬より楽で安心できるかもしれません。犬の飼育では、感情の交流と人が得られる活力はより強くなるかもしれません」と説明した。

何氏によると、犬と猫では飼い主の得られるものが違ってくる。本来ならば、ペットを飼うことで何を得られるかを重視せねばならないが、実際には「犬より手間がかからない」という理由で猫を選択する人が急増した。

四川省成都市に住む勤め人の冉さんはかつて、コーギー犬を飼っていたが、仕事の都合などで他人に譲って、猫を飼うようになった。今年の春節(旧正月、24年は2月10日)の時期に帰省した際には、飼い猫のために十分な猫砂と水、キャットフードを準備しておいた。実家で年越しをしてから自室に戻った際には、室内は清潔なままだったという。

冉さんによると、犬を飼っていた時期には犬の吠え声で近隣住民から苦情を言われたこともある。散歩に連れていけばどこでも大小便をして、室内での「破壊行為」もあった。冉さんは、犬を教育する時間も十分に取れなかったと説明した。

「犬害」の多発で飼育に規制強化、猫に対しては「手加減」

飼育しているペットを手放すことは、「理想」とは言えないだろうが、冉さんのように新しい飼い手を見つけて引き取ってもらうならば、良心的と言えるだろう。しかし中国では、飼い犬を「捨てる」現象も問題になっている。まず懸念されるのは狂犬病などの問題だ。重慶流浪動物救助基地旺汪家園ペットセンターの責任者である陳明才氏は、狂犬病に罹患するのは犬だけでなく、全ての哺乳動物に感染の可能性があると説明した上で、イヌ科の動物は移動が激しいので、伝染の危険度は高いと指摘した。

また犬の場合、野犬に限らず人を深刻に傷つける可能性がある。猫の場合は人を傷つけた場合でも、かみ傷や引っ掻き傷を負わせる程度で、被害を受けたら必要と思われるワクチンを接種すれば問題はほぼなくなる。しかし犬の場合には、人が襲われて死亡する事例もある。

行政側も「犬害」にはより厳しい姿勢で臨むようになった。例えば重慶市は、23年6月1日に正式施行した「重慶市犬飼育管理条例」に、犬を飼育する場合の管理責任と1世帯当たりの飼育制限数、犬飼育登録制度などを明記し、犬を遺棄した場合の重罰も定めた。

最高人民法院(最高裁)は24年2月5日付で、動物の飼育による人への損害の典型的な事例を紹介し、文明的に犬を飼うことや、各地方政府が定める法律や規則に従って犬を飼うように呼びかけた。

重慶市の旺汪家園ペットセンターで動物保護を担当する陳明才氏によると、捨てられた猫を保護する場合もあるが、件数としては犬の方が圧倒的に多い。同センターではこれまでに飼い主のいない動物2000匹以上を保護したが、うち犬は1700匹以上で猫は200匹以上という。

犬は動物としての特性もあり、不注意な飼育や無責任な飼育放棄で他人に被害を及ぼすことが多い。そのため中国各地で規制や問題を起こした飼い主に対する厳罰の適用が進められている。一方で、猫の飼育について、当局は今のところ「手加減」している状態という。(翻訳・編集/如月隼人)

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