<レスリング>【2024年全国高校選抜大会・特集】無念の初戦敗退だが、インターハイで雪辱を目指す…福島初の東北制覇の喜多方桐桜(福島)

福島県勢として初めて東北予選を制し、全国大会に出場した喜多方桐桜(とうおう=福島)は、初戦の2回戦で敦賀気比(福井)に3-4のスコアで惜敗。2014年以来の出場、さらに東北王者としての初陣を飾ることはできなかった。

▲敦賀気比に3-4で惜敗。東北王者としての初勝利は次回に持ち越しとなった喜多方桐桜(手前)

下村保伸監督は「非常に悔しいです。初戦を勝って、(3回戦の相手として予想された)鳥栖工業に挑む予定だったのですが…」と無念そう。51kg級で想定外の黒星を喫し、55kg級で勝って反撃の狼煙(のろし)をあげながら、その後、流れを戻された展開が無念そう。

60kg級の試合は、一時は12-4と8点をリードしながら決め切れず、追いつかれ、いったん突き放したが、終了間際に再逆転されてフォール負けを喫する誤算。「攻めていたのに、全部(自滅で)やってしまったポイント。焦ってしまったんでしょう…」と悔やんだが、「相手選手の実力が上だった。それだけのことです」とも話し、この経験を無駄にすることなく次につなげてくれることを望んだ。

相手の敦賀気比は全国王者を誕生させたこともあるチーム。金城希龍監督の背後にはオリンピック・チャンピオン(妻・梨紗子)がいる。しかし、選手に気後れは「まったく感じられなかったです」と断言。自身も選手も、次に闘う予定だった鳥栖工戦を見据えていたそうで、「東北チャンピオンになった自信からですか?」との問いに、「それはあります。勝つのが当たりまえ、という気持ちで臨みました」と言う。

ただ、負けたのは事実で、「全国で勝つのは甘くない、ということを痛感したと思います」と話し、経験を積んでインターハイでの雪辱を誓った。

▲テクニカルスペリオリティで勝ち、51kg級の黒星を取り返した下村虎太朗だったが…。後方は父でもある下村保伸監督

“一強”の日体大に真っ向から挑んだ選手時代…下村保伸監督

下村監督は茨城・土浦日大高時代の1987年にインターハイ52kg級と国体54kg級で優勝。国士舘大へ進み、1989年(2年生)の全日本学生王座決定戦で12年ぶりの優勝を引き寄せた原動力として活躍。現在の東日本学生連盟の吉本収会長と同期生で、4年生のときは主将だった吉本会長を副主将として助けて全日本大学選手権優勝に導き、日体大の一強だった時代に一矢を報いた。

最後はグレコローマンへ転向し、福島県の教員として1993年全日本選手権3位、1994年全国社会人選手権優勝、1995年の地元国体2位などの実績を残した。喜多方桐桜高には6年前に赴任。県内では、世界選手権出場選手も輩出した田島高校が圧倒的に強い中、打倒田島を目標にチームを育てた。「打倒田島」という言葉には、やや拒否反応があった。「東北で勝つチームづくりが目標でした」と言う。

幸い、自身が指導している喜多方レスリングスポーツ少年団(雅樂川欣一代表)でレスリングに取り組んだ2人の息子(今大会で51kg級出場の下村武靖=兄=と55kg級出場の下村虎太朗=弟)が、レスリング部がない中学を経て(その期間は引き続きキッズクラブで練習)、高校でもレスリングを続けるほど熱中してくれ、飛躍の大きなパワーとなった。

▲今年2月、福島県勢として初めて東北予選を制した喜多方桐桜=下村保伸監督提供

きょうの悔しさが、明日への原動力となる!

もっとも、キッズ上がりの選手は他に80kg級の選手がいるだけで、残る選手は高校入学後にレスリングを始めた選手。「差がありますよね。大変だったと思います」と、その辛さを思慮しながら、「地元喜多方の生徒だけで7階級のフルメンバーを組むことができ、ここまで来ました」と、地元の協力をしみじみ振り返った。

選手の「チャンピオンになりたい」という気持ちが強かったことと、その気持ちにこたえるべく、つてを頼って多くの大学や高校に出向いて練習させたことが、実力をつけた要因と分析。行き先は母校・国士舘大のほか、日大、山梨学院大、拓大、神奈川大、育英大と関東のトップチームがずらり。高校では花咲徳栄(埼玉)足利大附高(栃木)、磐越道を通っての新潟県のチームとの交流など。「ここ(新潟市)は準地元みたいなものです」と言う。

2022年には、土浦日大高時代の恩師でもあり、現日本協会・富山英明会長を育てた小橋主典氏が喜多方まで指導しに来てくれ、組み手などハイレベルの指導を受けるなど多くの人の支援を受けた。小橋氏は昨年8月に他界し、東北チャンピオンの晴れ姿を見せられなかったことが残念そう。

▲チームで数少ないキッズ・レスリング経験者の80kg級・渡邉朝日。フォール勝ちして実力を見せた

遠征では自身と保護者のワゴン車をフル活用し、かかる経費は保護者や支援者によってまかなわれている。こうした支援者の存在なくして、全国大会での台頭はないだろう。

同県では、ふたば未来学園高(砂川航祐監督)が女子選手育成に力を入れており、附属中学には男子選手も育っているので、いずれ男子も台頭してくることが予想される。それも刺激材料のひとつだが、何よりも「きょう、本当に悔しい思いをしました。これをばねに頑張ります」という言葉が、同監督の決意を物語っている。

喜多方を「ラーメンと酒」以外でも全国区にする!

豪雪地帯にある喜多方市は、人口約42,000人。「喜多方ラーメン」、「札幌ラーメン」「博多ラーメン」とともに日本三大ラーメンと言われ、市内には100軒以上のラーメン店がある。人口に対するラーメン店の割合は日本一。酒蔵も有名。

▲125kg級は東北予選1位の山本侑季が快勝。インターハイでは貴重な守護神としての活躍が期待される

そんな地から、「全国に名を響かせるのは、ラーメンと酒だけではない」と、レスリングが全国進出を目指して発進した。まず目指すは、今夏のインターハイでの好成績。昨年は2勝してのベスト16だったので、今年はもう1勝して「ベスト8が最低の目標」。もちろん、自身が経験した個人戦優勝選手の輩出も目指す。

会場で試合を見ていた国士舘大同期の吉本会長(前述)は、同じ副主将だった高知・高岡高の小玉康二監督も2人の子供(小玉彩天奈、龍舞=今大会個人優勝)を世界に羽ばたかせて頑張っていることを引き合いにし、「チームの全国一と、子供の世界進出を目指して頑張ってほしい」とエールを送った。

▲14-12とリードし、さらにフォールを狙った60kg級の高畑眞斗。決め切れずに痛恨の逆転負け。この悔しさを忘れてはならない

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