【ベトナム】日本版GPS、送電網点検に[公益] ベトナム宇宙ビジネス勃興(上)

ファンリードはドローンによる送電線点検のデモフライトを実施した=1月、ハノイ

ベトナムで黎明(れいめい)期の宇宙ビジネスに、日本企業の参画が相次いでいる。IT企業のファンリード(東京都豊島区)は、高精度の測位ができる日本版衛星利用測位システム(GPS)「みちびき」をベトナムの送電線の点検作業に利用する実証実験に乗り出した。シンスペクティブ(Synspective、東京都江東区)は自社が保有する小型衛星から収集するデータをベトナムの防災に活用する。ベトナム政府は、日本の円借款によるベトナム初の地球観測衛星を年内にも打ち上げる。日本政府は国内企業の宇宙ビジネスのアジア進出を後押ししており、ベトナムでの事業展開を図る関連企業が今後も増えそうだ。

首都ハノイ郊外の住宅地に残された1ヘクタール余りの空き地で約20人が見つめる中、小型望遠カメラを搭載したドローン(小型無人機)が6枚のプロペラを回転させ、ガのようなうなりとともに浮上していった。ドローンは数十メートル上空をゆっくりと飛行し、この日のために設営された3本の模擬の送電線を撮影した。3分ほどして着地すると、しばらくしてまた飛び立ち送電線を見下ろす高さに上昇していった。

ドローンは約1時間にわたり繰り返し飛んだ。送電線からの距離や高さはそのたびに変わる。「実際の送電線点検での最適なパターンを見極めたい」。模擬の送電線を使ったドローンのデモ飛行の狙いをファンリードの岸耕一シニア・マネジャーが解説した。

ベトナムでは従来、作業員が高所に張り巡らされた送電線を伝って目視などで異常箇所を点検していたが、ファンリードはドローンの導入により安全で効率的な点検の実現を目指す。

■不具合特定、数十センチ単位

ファンリードによる実証実験の最大の特徴は、撮影された画像からドローンの方位を推定する独自の技術と日本版GPSみちびきの信号を異常箇所の割り出しに活用する点だ。

ドローンでの送電線点検は日本でも実用が始まっているが、従来のGPSだけでは通信環境が悪い遠隔地での活用は難しい。位置情報を数メートル単位でしか取得できないため、近接して敷設された複数の送電線のうちどこに不具合があるかが把握できないからだ。

だが、みちびきが発信する測位の誤差を補正する信号「MADOCA」をドローンが受信すると、位置情報を数十センチ単位にまで絞り込むことが可能になる。数本の送電線が長距離にわたり平行して敷設された送電網の点検作業に実用できれば、飛躍的な効率改善が見込める。

ベトナムでは発電所から電力の消費地に送配電されるまでに失われる「送電ロス」の比率は7%前後とされ、直近で3.8%の東京電力の2倍近い。改善されれば電力不足の緩和にもつながる。

■橋や洋上風力の点検への活用も

ファンリードは今後、実験結果を踏まえてドローンを使った送電線点検の事業化の検討を進める。岸氏は「まずは国営ベトナム電力グループ(EVN)に提案していく。将来は離れた場所からの観測が必要な橋や洋上風力発電所の点検などにも応用できれば」と意気込む。

課題は遠隔地で撮影したデータをリアルタイムで解析できる体制の整備や、ドローンに据え付けるMADOCAの信号受信機の低価格化と軽量化だ。

受信機は現在100万円ほどする。人海戦術による点検作業に対してコスト競争力を出すには、より安価な機器が求められる。また今回の実証実験では受信機とカメラなどドローンに搭載する機器の重量は数キロあるが、軽量化すればドローンの飛行時間が長くなり、点検作業はさらに効率化できる。ファンリードは、受信機のメーカーなどの協力を得ながら実用化に取り組んでいく方針だ。

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