【社説】水道行政の移管 社会インフラ守る自覚を

 上水道の整備や管理の所管がきのう、厚生労働省から国土交通省に移った。

 厚労省はコロナ禍で要員不足が目立った感染症対策を強化できるという。国交省は所管してきた下水道事業などと一体整備の利点を強調する。移管の狙いは理解できる。

 水道行政は長らく上水道を厚労省、下水道を国交省、工業用水は経済産業省が所管してきた。一方、地方では業務を一つの組織で対応する市町村も多い。縦割り行政を解消することも賛成だ。

 ただ、看板を掛ける省庁が変わるだけなら大した意味はない。水道事業は老朽化した施設の更新や人口減少による経営環境の悪化など課題が山積している。移管を機に、安全安心な水を確保する対策を着実に進めてもらいたい。

 とりわけ力を入れるべきは老朽対策と耐震化である。

 水道普及率は98%。74万キロもの水道管のうち、法定耐用年数の40年を過ぎたものが2割もある。破損や漏水が年2万件もあるのに、更新が年1%にも満たないのは心細い。

 想定される最大規模の地震に耐えられる割合を示す「耐震適合率」も4割しかない。国は2028年度までに6割以上に引き上げる目標を掲げるが先行きは見通せない。

 移管により、下水道と一体で整備すればコスト圧縮につながる可能性がある。地方で水道事業を広域化すれば専門性の高い人材の確保も容易になるかもしれない。移管を契機に、いかに水道業務の再生を図っていくか。国の本気度が問われる場面と言えよう。

 能登半島地震では老朽管が寸断された。給水車も入れない地域もあった。災害時の避難先となる学校や病院の水道管の耐震化を優先するなど、災害時の水確保策を練り直してもらいたい。国庫補助率の大幅引き上げはもちろん、被害の深刻度いかんでは、国が直轄事業として対応することも検討すべきだ。

 気になるのは国が水道事業への民間活力導入に前のめり過ぎる点だ。民間にも良い面はあろうが、営利優先でうまくいくのか疑念が拭えない。

 民営化が先行した英国やフランスでは赤痢などの感染症が拡大したり、飲めない水が供給されたりした。水道事業を公営に戻そうとする動きを見ても、民営化には慎重かつ十分な検討が不可欠になる。

 蛇口をひねれば安全な飲み水が出てくることは、世界を見渡せば当たり前の話ではない。水道事業の国際協力を30年以上続け、カンボジアなど途上国の水質改善や水道普及に貢献している北九州市のような事例は、優れた日本の水道事業の象徴だろう。世界に誇るべき、こうした日本の水道事業が民間に委ねて失われてしまっては元も子もない。

 そもそも水道事業は感染症予防という公衆衛生の立て付けで進められてきた。施設整備や経営に気を取られ過ぎ、その監視がおろそかになれば本末転倒になってしまう。

 安心で安全な水は、国民の重要なライフラインであり、公共サービスである。水道行政の移管はこのことを忘れてもらっては困る。

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