iDeCoの加入が70歳まで拡大されたら…暮らしにどんな影響がある?

厚生労働省が「iDeCoの加入可能年齢を現状の65歳から70歳に引き上げる予定」こんなニュースが飛び込んできました。はたして、これはどういう意味を私たちの暮らしにもたらすのでしょうか? 詳しくみていきましょう。


まだ決まったわけではない

2024年3月24日の日経新聞の報道によれば、65~69歳で働く人は2023年に52%に達したこともあり、iDeCoの加入可能年齢を現行の65歳までから70歳までの引き上げを検討しているということです。

また、働き続けるのであれば、その間できるだけ積立をすることで将来の年金を増えやすくしようと、掛金の上限額と受給開始年齢の上限引き上げも検討していると報道しています。

実は2024年は5年に1回行われる年金の健康診断である「財政検証」が行われる年のため、財政の健全性を分析すると共に、公的年金のみならず、企業年金、個人年金まで広げて社会保障審議会が議論を進める年でもあります。

今後こういった検討段階のニュースがいろいろ世の中を騒がすことも出てくるかと思いますが、先走って自分勝手に判断するのではなく、現状を見つめた上で冷静にどういうことが起ころうとしているのか考えることが大切です。

現状の制度はどうなっている?

では、現状の制度から確認していきましょう。報道では「加入可能年齢を65歳から70歳に引き上げる」としていますが、実際この65歳という数字には注意が必要です。なぜならば、すべての人が65歳までiDeCoの掛金を拠出できるわけではないからです。

iDeCoは公的年金と紐付いている制度なので、公的年金の被保険者であることがiDeCo加入の大前提です。つまり、65歳まで掛金の拠出ができる人は、65歳まで公的年金の被保険者であることという意味です。

もう少し詳しく説明すると、公的年金は働き方などにより3つの被保険者区分に分かれています。まず最も対象者が多いのが、第2号被保険者といって、会社員、公務員です。そして第2号被保険者の扶養の配偶者を第3号被保険者と呼んでいます。

一般的にはパートやアルバイトで働きに出ても年収130万円までは扶養でいられると思われていますが、最近は働き先の規模によりその判断基準となる年収の額がことなります。現在は従業員100人以上の会社にお勤めの方は年収106万円以上になると扶養から外れ、自らが厚生年金に加入して働くことになるため第3号ではなく第2号被保険者となります。

一方2024年10月には、さらなる改正が行われ50名以上の会社にお勤めの方も年収130万円ではなく106万円が扶養でいられるかどうかの分かれ道となります。実際は単純に年収だけで決められるわけではないので、詳しくはお勤め先に聞いていただきたいのですが、古い情報だけを持っていると間違ってしまうので念のためアップデートをさせていただきました。

そして、第2号でも第3号でもない方たちを第1号被保険者と呼んでいます。具体的には、自営業者やフリーランスといった会社員ではない働き方をしている人というイメージです。また、多くの方は大学や専門学校などに通っている時、第1号被保険者であった可能性が高いです。

実は前述した年収130万円がお勤め先の規模によって106万円に引き下げられることを「適用の拡大」と呼び、これは主に第1号被保険者の雇われている人の救済として設けられた制度なのです。

というのも先ほどご説明した通り、第3号被保険者の年金保険料は第2号被保険者全体が負担してくれているので、免除となっています。しかし、パートやアルバイトで働くことで収入が一定の水準以上になると、年金保険料が免除にはならず自らが支払うことになります。つまり、これまでと同じように働いているだけなのに、社会保険料の負担分手取りが減る、これを「年収の壁」と呼んで話題となることがあります。

一方、同じように厚生年金に加入していない第1号被保険者の保険料は自らが負担しなければなりません。例えば、ご主人が第1号被保険者で自営されている場合、奥さんが専業主婦であっても扶養とは認められず第1号被保険者として保険料月約17,000円程度を負担しなければならないのです。

このように被保険者区分によって保険料の負担方法が異なります。さらに、厚生年金は国民年金よりも手厚い保障となるので、国はいまこの格差も課題としているのです。

自営業者やフリーランスの保障を拡大

そのひとつとして国では適用拡大を進めることにより、「雇われている」第1号被保険者の保障を拡大しようとしています。一般的に、第1号被保険者といえば、自営業つまり自らの意思で働き方を選べるという印象がありますが、小さいお店に「雇われている」人は不安定な立場でなおかつ厚生年金がない、つまり保障が少ない状態になっています。

そこで適用拡大により、より多くの「雇われている」第1号被保険者に保障の拡大を提供しようとしています。例えば、国民年金の保険料は月約17,000円です。仮に年収120万円でパートで働いていた人が、適用拡大により厚生年金に加入すると、保険料は約半分になります。また同時に健康保険や雇用保険にも加入できるようになります。

このケースで保険料負担が半分になるのは、国民年金保険料は実際の年収にかかわらず定額であること、厚生年金保険料は労使折半なので会社が半分負担してくれているからです。いずれにしても、厚生年金に加入することで、老齢厚生年金、遺族厚生年金、障害厚生年金がそれぞれ基礎年金に上乗せされます。

また、国民健康保険の被保険者であれば、仮に病欠した際に時給は発生しませんが、健康保険なら長期で療養が必要な場合など傷病手当金などの給付が受けられるなど、非常に手厚い社会保障給付を準備することができるのです。

公的年金は何歳まで加入できる?

では、公的年金は何歳まで加入が可能なのでしょうか? 第2号被保険者が加入している厚生年金は70歳まで可能です。一方、国民年金のみに加入している第1号被保険者と第3号被保険者の公的年金加入義務期間は60歳までと決まっています。例外的に、第1号被保険者の場合、海外で暮らしている間、あるいは過去の保険料支払漏れ期間を補うために「任意加入」することができます。特に過去の保険料未納分については原則65歳まで任意加入できますが、あくまでも合計40年分までの保険料が支払い上限額となります。

そのため、過去3年未納があれば60歳以降の任意加入は3年のみ。つまり、iDeCoも掛金拠出可能期間も3年のみとなるのです。そして第3号被保険者の年金加入年齢は60歳までで、そもそもが保険料免除のため任意加入という仕組みはありません。

仮に第3号被保険者だった方が60歳以降に過去の未納分を支払いたいと希望すれば第1号被保険者として任意加入もできますが、保険料の支払義務をどう考えるのかによりここは選択が分かれるようです。

iDeCoの加入可能年齢引き上げは限定的

いずれにしても、iDeCoの加入可能年齢が一律65歳ではないことを考えると70歳まで引き上げを検討しているという報道は、対象者が限定されるので、実現するにはもう少し深い議論が必要になると思われます。

また、掛金の上限額引き上げについても、現状の金額がやはり公的年金の状況により異なっていることを考えるとそう簡単ではないことが想像されます。例えば、第1号被保険者のiDeCoの掛金上限は月68,000円と企業年金がない会社にお勤めの会社員つまり第2号被保険者の月23,000円と比べて、圧倒的に大きい金額を拠出することができます。

掛金は全額所得控除の対象となることを考えると第1号被保険者優遇とも受け取れるのですが、実際第1号被保険者は厚生年金に加入できず、一方第2号被保険者が加入する厚生年金保険料も全額所得控除であることを考えると、厚生年金という上乗せがない第1号被保険者にとってiDeCoは公的年金が少ない分を自らが上乗せする制度とも考えられるのです。

さらに、第2号被保険者についても、企業年金があるのかないのか、あるいは企業年金が企業型確定拠出年金(DC)なのか、確定給付企業年金(DB)なのか、はたまた両方なのかなどによって,iDeCoに加入できるかどうか、また加入した際の掛金上限額も複雑です。しかしここについては、一定の解が2024年12月以降から導入されます。

それが、企業年金のある会社員は、iDeCo上限月20,000円というルールです。ただし、会社が企業型確定拠出年金(DC)のみあるいは確定給付企業年金(DB)のみの場合は、それぞれとiDeCoの合計が55,000円までという条件がつきます。またDCもDBもある場合は、iDeCoも合算して55,000円までとなります。

今回の報道で述べられているような掛金上限額の引き上げも、ベースがかなり複雑な構造になっていることもあり、さらに踏み込んだ審議が必要なのではないかと考えます。

いずれにしても、国は税制優遇の資産形成制度を拡大の方向で考えているということは、ある意味で警告と捉えても良いのではないかと考えています。しかし、その警告を真摯に受け止めるのか、聞き流すのか、国が準備した制度を活用するかどうかは国民次第。それぞれが自分の将来をどう生きるのか、しっかり考えなければいけない時代なのだということです。

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