【メタバース観光】新たな誘客の一手に(4月2日)

 インターネット上の仮想空間「メタバース」に会津若松市の観光地を再現し、「会津ワールド」として世界に発信する取り組みが進められている。観光庁の直轄事業で、第1弾として鶴ケ城が公開された。デジタル技術を活用した先進モデルとして、会津全域、県内に波及させてほしい。

 事業は、一般社団法人JDX日本の伝統継承と革新の会が受託し、「セカンドライフ」と呼ばれる仮想空間に桜に彩られた鶴ケ城を再現した。アクセスして会津ワールドに入ると、自分のアバター(分身)を操作して散策や別の参加者との会話を楽しめる。現時点では試作版の段階だが、ドローンで撮影したデータなどを基にした精緻な立体画像には没入感があり、「会津に行ってみたくなった」との反応が寄せられている。

 世界で人気のオンラインゲーム「フォートナイト」でも8月に会津ワールドが公開される予定だ。鶴ケ城に市内の観光を代表する七日町通り、会津武家屋敷を連結させたエリアの中で、対戦ゲームが楽しめるようになる。仮想空間での遊びや体験をきっかけに、城下町の風情に興味や関心を持ってもらえれば、インバウンド(訪日客)を中心とした誘客に弾みがつく。

 会津地方には、大内宿やJR只見線など訪日客に人気の観光スポットが点在している。会津ワールドの手法は会津の良さを広く知ってもらうにも役立つ。今回は観光庁の直轄事業として行われているが、今後はメタバースの観光活用を希望する市町村や登録DMO(観光地域づくり法人)などへの国の補助や支援を検討すべきではないか。

 観光資源をアーカイブとして後世に伝える利点もある。能登半島地震では、観光名所・輪島朝市(石川県輪島市)の大半が大火災で焼失した。正殿など6棟が焼失した首里城(沖縄県那覇市)の火災も記憶に新しい。被災前の姿が立体画像として忠実に残っていれば、迅速な再生にも生かせるだろう。

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故以降、本県は急激に人口減少が進んでいる。地域の活性化には、交流人口と関係人口を増やす必要がある。本県の魅力を国内外に発信する一つの手だてとして、会津の取り組みを全県に広げたい。(紺野正人)

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