水原一平氏も陥ったギャンブル依存症は、根源に「1次感情不全」あり…精神科医が指摘

大谷翔平(右)と元通訳の水原一平氏(C)共同通信社

ドジャース・大谷翔平選手の元通訳、水原一平氏が告白したギャンブル依存症。「出来上がってしまった依存症は脳の病気でも、そこに至る病理は『1次感情不全』」と言うのは、東京歯科大学精神科准教授の宗未来医師だ。

「依存症は結果であって、原因ではない」

宗医師は、ギャンブル依存症の患者にそう声を掛けているという。

「『これまで本音を押し殺して生きてきたのでは? 取り繕いを重ねる我慢の人生はさぞ大変だったでしょう』と続けると、一見好き勝手にやってきたと思われがちな方が、うなずきながら涙を流されるケースは珍しくありません」(宗医師=以下同)

1次感情とは、「喜怒哀楽など動物にも共通する原始的な本音感情」を指す。一時的に強い苦痛を伴う感情も多いが、きちんと感じきれば自然に消退していく。

「しかし、厳格な家庭環境や親の期待が高すぎたり、本人の性格が繊細すぎると、傷つかないように本音の1次感情を抑圧し、そのことに麻痺してしまう。すると逆恨みや対人不信といった病的に膨らんだ2次感情が生じ、問題行動すら出現してくるのです」

この2次感情は、1次感情から目を背けるために生まれた人工感情。自然には消えず、どんどんたまり続け、解消しない苦悩となっていく。

一方、1次感情自体は麻痺しており、喜びや達成感といったプラス感情の感度も低下。日常のささやかな出来事には幸せを感じられず、強い快楽刺激をもたらす物質(アルコール、ドラッグなど)や、行動にのめり込みやすくなる。

「ギャンブルはその最たるもの。負の感情に向き合うことが苦手で、負けを認めて受け入れられない。さらにプライドの高さから、ギャンブルでは損切りができずに損失拡大の原因にもなります」

■脳が病的状態に陥る

ギャンブルのような依存性の強い刺激ほど、のめり込みやすい。勝ち負けの繰り返しで、快楽を感じる脳内の報酬系が活性化し、快楽物質ドーパミンが大量に放出。ギャンブルでのドーパミン放出量は、ほかのどの依存行動よりも多いといわれるが、報酬系の鈍化で、よりハイリスク・ハイリターンの刺激を求めるようになっていく。

「こういった状態が進むと、ある段階から自力脱出が困難な脳の病的状態に陥ります。優先順位が狂い、大損しているのにやめられず、最終的には失職、離婚、友人を失う、借金、中には横領などの犯罪に手を染めるなど社会的に追い込まれる。その2割弱が自殺に至るとも報告されます」

ギャンブル依存症患者は、もともと本性を偽って生きてきたことで口先だけの謝罪や嘘のうまい人も多く、アルコール依存のように「外から見て、なんだかおかしい」といった部分が見えづらい分、露見しづらい。もし、身近にギャンブル依存症にまで陥った人がいる場合、ただきつく正論をかざして説教するだけでは逆効果だ。傷つきやすい性格もあり、かえって回避が強まり隠れての依存が悪化しかねない。

借金の尻拭いも良くない。本人が「このままではだめだ」と限界を悟り自らの負の感情に向き合う機会を先送りするだけで、依存症を助長する共依存となるからだ。

「私は、患者さんとそれを支える家族などにはギャンブル依存症治療をうたう医療機関の受診と、同時に自助グループへの参加を強く勧めています。その理由は自己流で対処するにはあまりに危険な病気だからです」

人は他人からの共感なくして自らの感情を深くは感じられない。どんな依存症でも1次感情を真に感じられ、2次反応である依存行動に頼る必要がなくなった時こそ、本当の意味での回復が得られる。

「デリケートな依存症患者の心に真に寄り添えるのは同じ苦しみを分かち合える当事者同士しかいないと言っても過言ではありません。まずはギャンブル依存症という敵を知り、1次感情不全という己を知ることで、回復の道が開けることをぜひ知っておいてほしいです」

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