ラジオで読まれるファンレターは「推しとのエピソードを綴る」が鉄則? 推しに手紙を絶賛されたプロライターが“3つのポイント”を解説

「推しに、自分の名前を読んでほしい」

推しがいる人なら、誰しも一度は願ったことがあるのではないでしょうか。

推しの口から推しの声で、私の名前が私に向けて発信される。そんなの、間違いなく後世にまで伝えるべき家宝です。でも、どうしたら推しに名前を読んでもらえるのでしょうか?

アイドルやYouTuberなら握手会や撮影会でそうしたチャンスがあるかもしれませんが、ファンと一対一で会う機会のない推しには、一生名前を呼んでもらえないのでしょうか……。

いいえ、そんなことはありません。実は20数年間Mr.Childrenオタクである私は、彼らのラジオにファンレターを送り、合法的に名前を呼んでもらった経験があります。

Mr.Childrenと言えば、デビューから30年以上経った今でもキャパシティ数十万人以上のツアーを満員にしてしまう(なんならファンクラブに入っていても外れる人もいる)国民的バンドですが、ライブ以外でファンの前に出ることはほぼありません。

唯一とも言っていいファンとの接点は、ファンクラブ会員限定で公開している不定期更新のラジオ「誰も得しないラジオ(仮)」だけ。しかし、2024年3月時点の最終更新は23年8月。さらに、配信で読まれるファンレターは毎回10通程度。

ファンクラブには推定70万人が加入しているそうなので、彼らのラジオでファンレターが読まれるのは極めて難易度が高いのです。

そこで読まれた私は、ただ単に運が良かった……わけではありません。もちろん運の要素も多分にあると思うけれども、それ以上に、本業であるライターの仕事で培った知識と経験を総動員して、「推しが思わず誰かに共有したくなるファンレター」≒「リスナーに紹介するのに適したファンレター」を書いたからだと思っています。

今回は、そんな私が「推しに読まれるラジオのファンレターの書き方」を伝授!

ラジオで推しに名前を呼ばれたい方はもちろん、それだけでは物足りず、ファンレターを推しに読み上げて欲しい方はぜひチェックしてみてください!

読まれないファンレターは「誰&何のために書くのか」意識されていない

まずは、読者のみなさんがこれまでに推しに送ってきたであろうファンレターの内容を振り返ってみましょう。

「好き」「愛してる」などの抽象的な気持ちのみを綴った

◆溢れんばかりの想いを綴っていたら、数千字を越えていた

◆新しいアルバム収録曲について、一つ一つ感想を述べた

上記のようなファンレターを送っていませんでしたか?

推しがいる身としては、分かる。全部分かるんです。どんな言葉を選んでもどこか嘘っぽく感じてしまうくらい推しという存在が偉大すぎて、「好き」や「愛」以外の言葉が出てこないことを。

もしくは、推しが今日もこの世に存在していると思うだけで「あぁ世界は薔薇色だ」とエモさが爆発し、言葉が溢れて止まらないことも。

でも、推しにラジオでファンレターを読んでほしいのであれば「何のために書くのか。誰のために書くのか」を、一旦立ち止まって考えてみましょう。

まずは、「何のために書くのか」。もちろん、推しに読んでもらうためですよね。次に、「誰のために書くのか」。推しのためですよね。

「そんなこと分かっているよ!」と思う人も多いかもしれません。

でも、読まれるファンレターには、それらがきちんと意識されて書かれているため、受け取った側が思わず「こんな手紙が届いてさ」と他の人にも紹介したくなる内容になっているのです。

皆が語れる内容でも、掛け合わせたら「私にしか書けない」ファンレターに!書き方のコツ3つ

ここからは、普段ライターとして活動している私がライティングの知識と経験を総動員して生み出した「ラジオで読まれるファンレターを書くためのコツ」を3つのポイントで紹介していきます。

1.「リスナーの共感」と「推しのメリット」を考える

当たり前ですが、ファンレターの読み手は”推し”本人。彼・彼女が「この手紙、ラジオで取り上げたいな」と思う内容であることは大前提です。

そのうえで、リスナーが共感できる内容・知りたかった内容が書かれていると、より「読まれるファンレター」となります。

さらに、「ファンレターの内容をきっかけに、ラジオの現場が盛り上がりそうか」「告知や近況報告につながりやすいか」など、「推し本人へのメリット」を意識することが大切です。

最新開催したイベントやライブ、作品について触れておくと、推しはそれを読み上げるだけで「ファンへの近況報告」も同時に行えるので、読まれる可能性が高くなるかもしれませんよ。

2.ラジオ内で読みやすい600字程度に収める

当たり前ですが、ラジオは「聴く」コンテンツです。また、時間制限もあります。それを踏まえると、ファンレターの内容はより具体的に(音だけで情景をイメージできるように)、でも長すぎないものが好まれるはずです。

たとえば、ラジオ内で一通の手紙にあてる時間が5分、そのうち手紙本文を読み上げる時間が2分、手紙の内容をテーマにトークする時間が3分と仮定します。

NHKのアナウンサーがニュースで原稿を読む速度は1分間で300文字程度と言われているので、手紙の文字数が600字程度に収まっているとラジオで読みやすくなります。

(※あくまでMr.Childrenのラジオ基準です。実践するときは、みなさんの推しのラジオやYouTubeに置き換えて計算してみてください!)

3.自分だけが語れる推しとのエピソード等を綴る

最後に、最も大切なのが「自分だけが語れるエピソードかどうか」です。

と言っても、特別な体験である必要はありません。たとえば、「好き」という二文字を掘り下げていくと、「自分にしか語れないエピソード」になっていきます。

◆あなたが推しを「好き」と思うのは、どんな瞬間?

◆初めて好きだと認識したのはいつ、どこで、何をしているときだった?

◆推しの影響でハマったものや、始めたことはある?

◆推しと出会う前後で、どんな変化があった?

さて、ここまでいろいろと話しましたが、「じゃあ実際に読まれたのはどんなファンレターなんだろう?」と思った方も多いはず。

ここでお恥ずかしながら、Mr.Childrenのラジオで取り上げられた、私のファンレター原文を掲載します。

ミスチルのみなさんこんにちは!

昨日まで、ap bank fes '23に参戦していました。1日経った今も胸がいっぱいです。この気持ちが色褪せないうちに、感謝の気持ちを伝えさせてください。

前日まで「一体どんなセトリでくるんだろう。5年ぶりのapだし、みんなで盛り上がれる定番曲が多いのかな?」と予想していましたが、見事に期待を裏切られました。もちろん、さいっっっこうに良い意味で!

3日間すべて最高だったのはもちろんですが、個人的に一番印象に残ったのが2日目の『花の匂い』。桜井さんが「人恋しさをメロディーにした口笛を風が運んでいったら」と歌ったタイミングで、からっからの酷暑の中、突然、優しい涼しい風が会場を包み込んで、そこにいたみんなのTシャツの袖を揺らしていて。その光景が切なくて、尊くて。うまく言葉に表せないのですが、そのときの桜井さんの優しい笑顔と歌詞の内容がリンクして、胸がいっぱいになり気づいたら泣いていました。

他にも大好きだけどライブで聞いたことのなかった曲がたくさん聞けて、本当に幸せな3日間でした。

中学生のときにMr.Childrenを好きになって、気づいたらもう20年。でも、今でもどんどん好きを更新しています。そしてap bank fes '23で、もっと大好きになりました。(549字)

さて、このファンレターのどの部分に先ほど紹介したコツが反映されているのか、見ていきましょう!

1. リスナーの共感と「推しのメリット」を考える

たくさんファンレターが届く中で目を引くために、冒頭でMr.Childrenが出演したフェス(ap bank fes '23)に参加した旨をアピールしました。

また、フェス全体ではなくごく一部の光景にピントを絞ることで、手紙の内容自体がリスナーへの情報提供や近況報告になるように工夫しています。

さらに「感動した」「楽しかった」といった気持ちだけでなく、その光景も具体的に盛り込むことで、当日参加したリスナーは「そうそう、こんなことあったな」と思い出し、参加していないリスナーもその場を想像しやすくしています。

2. ラジオ内で読みやすい600字程度に収める

感想だけでなく情景も盛り込むことで、映像がなくてもイメージできるコンテンツに。また、2分以内に読み上げられる、600字以内(正確には549文字)に内容をまとめました。

3. 自分だけが語れる推しとのエピソード等を綴る
フェスに3日間通して参戦したこと。しかもそれがファンレターを送った前日であること。特に『花の匂い』に感動したこと。『花の匂い』演奏中に目にした光景や、感じた気持ち。20年以上Mr.Childrenが好きなこと。

一つ一つは「誰でも語れる」内容かもしれません。しかし、それらをかけ合わせることで「私だけが書ける」ファンレターになります。

コツを掴んで、いざ「推しに名前を呼ばれる世界」へ。

「埼玉県の、ななさん!」

20年来の推し、Mr.Childrenさまに名前を呼んでもらった2023年8月11日。あの日あの瞬間だけは、私という人間がこの世に存在していることを、推しが認識してくれました。

あぁ、私なんかを見つけてくれてありがとう。尊死を経て、私は生まれ変わりました。もはや、その日は私の第二の誕生日と言っても過言ではありません。

あの日からほぼ毎朝、目覚めたらまず「埼玉県の、ななさん!」を聞くことが日課になりました。この一言で、プライベートで嫌なことがあっても、仕事がどんなに忙しくても、「今日も頑張ろう」と思えるのだから不思議なものです。

ラジオで推しに名前を呼んでほしい方、ファンレターを読み上げてほしい方は、ぜひ今回お伝えしたポイントを実践してみてください!余談ですが、私の友人が上記の項目を参考に推し(Mr.Childrenではない)にファンレターを送ったところ、ラジオで取り上げられたそうですよ。

(執筆:仲奈々、編集・イラスト:柴田捺美)

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