「家賃を上げちゃおうかな?」 オリンピアンとメジャーチャンピオンの“意外”な関係性【カメラマン南しずかの米ツアー小話】

イン・ルオニン(左)とリン・シユの関係性って?(写真は23年「全米女子オープン」3日目)(撮影:南しずか)

畑岡奈紗、古江彩佳、渋野日向子らに加え、今季からは稲見萌寧らが新たにメンバー入りし、日本勢9人が出場している米国女子ツアー。その動向にも注目だが、試合以外や海外勢のおもしろ話まで伝えるのはなかなか難しい部分も…。そこでツアーを長年取材しているカメラマン・南しずか氏が気になるネタをピックアップ。これを見れば“米女子ツアー通”になれるかも!?

昨年にペブルビーチで行われた海外メジャー「全米女子オープン」の3日目、かなり珍しいペアリングが実現した。当時27歳のリン・シユと20歳のイン・ルオニン(ともに中国)。ふたりは同郷の先輩・後輩という関係性だけではない。実は、“大家さんと入居者”という間柄なのである。

母国を離れて米国女子ツアーに参戦すると、練習拠点から生活面の諸々まで、選手仲間で情報を交換し合うのはよくある話。だが、家賃のやりとりが発生する関係性というのは、なかなか珍しい。

そんなふたりの出会いは、2019年のあるゴルフ大会だった。当時アマチュアだったルオニンは、16年「リオ五輪」に中国代表で出場するなど長年活躍するシユに米ツアーについていろいろと尋ねた。初対面でも臆することなく真剣に聞いてくるルオニンの様子に、シユは好印象を受けた。

ルオニンが21年の「Qシリーズ」(米最終予選会)を突破し米ツアーの参戦が決まると、ふたりはますます仲良くなった。ルオニンにとってシユは「お世話をしてくれるお姉さん的な存在」だという。そんな流れで、シユが以前住んでいた米フロリダ州の家にルオニンが住むことになった。シユの新居はその近所のため、お互いのタイミングが合う時は一緒に食事することもある。

落ち着いた生活が出来ていることが功を奏したのか、ルオニンは昨年4月「DIOインプラントLAオープン」でツアー初優勝を飾る。シユは後輩の活躍を喜びつつ、「(優勝賞金が入ったんだから)家賃を上げちゃおうかな?」とジョークを飛ばした。

“大家さん”シユの言葉を受けて“入居者”ルオニンは、その2カ月後の海外メジャー「KPMG全米女子プロ選手権」の記者会見で「かなり割安で住まわせていただいてるので、家賃を上げてもらって大丈夫です!」と応じた。さらに同大会で勝利しメジャー初制覇を飾った。

同年1月の世界ランキングでは152位につけていたが、およそ半年間で5位まで浮上。好調を維持し、9月には自身初となる1位まで上り詰め、中国勢としてはフォン・シャンシャン以来の快挙を遂げた。

成績の上昇とともに家賃もアップした。ルオニンいわく、「(上がったけれど)お手ごろな金額」。お互いが納得して暮らしているため、今でも大家さんと入居者の関係性は続いている。(取材・文/南しずか)

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