東日本大震災発生時の福島での業務経験が今につながる 宮城海上保安部の巡視艇船長

海の安全を守る宮城海上保安部の巡視艇の船長です。東日本大震災発生時の福島での業務経験が今につながっていると話します。

宮城海上保安部の巡視艇うみぎりは、総トン数は約100トン、乗組員は9人です。巡視艇や巡視船は海難救助や災害の防止、治安の維持などのため全国の海域を24時間365日パトロールしています。

うみぎりの船長を務める佐々木祐輔さん(35)です。
佐々木祐輔船長「私が進路を決めてその進路にのっとったコースを取れるように、航海士や機関士にスロットル(レバー)を操縦させてもらうように指示を出しています」

巡視艇うみぎり佐々木船長

この日は、宮城県塩釜市の第二管区海上保安本部から石巻方面に向かってパトロールをします。風が強く海が荒れる予報が出ているため、船舶などに影響が無いか注意を払います。
佐々木祐輔船長「プレジャーボートなどの遊びで使う船はいなかったのですが、皆さんが予報を気にしてマリンレジャーを楽しんでいる証拠だと思うので、それはそれで哨戒としては良い結果なのかなと思います」

定期的に訓練も行います。この日は、機動救難士が実際に海に入って溺れた人の役となり、救助する訓練などを行いました。
救命用の浮き輪を要救助者に向け的確に投げる必要がありますが、強風がそれを阻みます。 船長の佐々木さんは、強い風の中で救助を待つ人に船を近づける難しさを実感しました。
「結構風が強かったですよね?」
「向きが悪かった、入る角度がそもそも悪かったんだよね、1回目と違って本当だったらそのまままっすぐ入る。右で取った方が良かった要検討かな」

チームワークの向上を

人を助ける職業に関心を持ち、海上保安官になった佐々木さん。業務に当たるうえで心掛けていることがあります。
佐々木祐輔船長「(乗組員)9人というチームワークを上げていくことで色々な業務に対応できるのかなと思うので、特に(事案が)大きいものに関してはチームワークはすごく大事だなと思いますので、みんなで協力してできるような体制を常に作り上げたいと思います」

佐々木さんが何よりチームワークを大切だと考える訳は、13年前の東日本大震災での経験にあります。
当時2年目の海上保安官だった佐々木さんは、福島海上保安部で業務に当たっていました。
佐々木祐輔船長「明らかに今までとは違うというのが一目で分かるという状況で、電気もついていない、本来あるはずのない船が道路の上にあったりというような現実世界なのかなと考えられない状況でした」

海上保安官たちは福島第一原発の事故による被ばくの恐れもある中、救助に向かいました。
佐々木祐輔船長「情報が無いというのもありましたし、目に見えるものでもなかったので普通の恐怖とは違うというか。不安はより一層大きかったですね」

震災の経験が今に

しかし、原発に近い海域で業務に当たったのは主にベテランの職員でした。当時は若手だった佐々木さんは、規制区域に指定された原発から半径30キロメートルより外側の海域で、貨物船などが原発に近づかないよう警戒する業務を行いました。
佐々木祐輔船長「もともと人命救助がしたかったのに、すぐ近くにそういう現場があるのにできないのはもどかしい気持ちもありましたし、自分がここにいていいのかなと感じていました」

しかし、船長として乗組員をまとめる立場になり当時の考えが変化したと言います。
佐々木祐輔船長「私自身は当時は何でここにいる意味あるのかなと思っていましたが、結局私がやっていた業務も当然必要だからあるわけでチームワークかなと思う

震災の経験は訓練に臨む心構えにも影響を与えています。
佐々木祐輔船長「明日が当たり前に来る状況ではないというのことを目の当たりにしたので、きょうの訓練もそうですが、あすもしかしたら使うかもしれない。当然意味が分かっていないと訓練の意味もないですし、それを分からせた上でやるというのが私の仕事だと思っているので、その点は今にも生きているかなと思います」

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