サプリから検出…非常に強い毒性を持つ「プベルル酸」とは?【薬学部教授が解説】

小林製薬の紅麹サプリによる健康被害が報告される中、「プベルル酸」という物質が混入していた可能性が伝えられています。プベルル酸とはどのような成分なのか、構造・毒性も含めて、わかっていることを解説します。

小林製薬の紅麹サプリによる健康被害に関して、その原因究明が急がれています。その中で、同社の分析によると、本来含まれているはずのない「プベルル酸」という物質の混入が検出されたと伝えられています。 名前さえ聞いたことがないという方が大多数で、一体どういうものなのか知りたくて調べても情報が限られています。現時点で分かっていることを、まとめて解説します。

プベルル酸とは……青カビの一種から産生される毒性の強い物質

プベルル酸は、1932年にイギリス・ロンドン大学のジョン・ハワード・バーキンショーとハロルド・レイストリックによって、青カビの一種Penicillium puberulum Bainierから単離・同定されました(原著論文:Biochem J, 26(2): 441-453, 1932)。 Penicillium puberulum Bainierは、ヒアシンスの花穂が褐色に枯れて青緑色~灰緑色で粉状のカビが密生する「ヒアシンス緑かび病」(詳細は日本植物病名データベースを参照)の原因菌としても知られています。 ちなみに、「プベルル酸(puberulic acid)」という名前は、産生するカビの種小名「puberulum」に由来しています。さらにpuberulumは、ラテン語で「綿毛」を意味するpuberulusに由来しています。青カビの中でも、ふわふわした毛のような形状をしていることから、そう名付けられたのでしょう。 植物の中には、同じようにpuberulumという種小名をもつものがいくつか知られ、たとえばHelenium puberulumというヒナギク科の草本は、1~2ミリメートルの毛むくじゃらの痩果をつけることから名づけられました。 プベルル酸の化学構造は、下図に示したように、ちょっと珍しい形をしています。七角形の炭素環を中心としたトロポノイド(トロポンの構造を含んだ化合物の総称)の一種です。自然界の植物には、多くのトロポノイドが見つかっており、その代表例は、イヌサフランに含まれる猛毒のコルヒチンです。 青カビがなぜプベルル酸を作り出しているかは不明ですが、おそらく他の動植物に対して「毒」として作用することによって、自分が生存競争に勝つために役立ったものと思われます。いわゆる「抗生物質」の一種とみなすことができます。

プベルル酸の化学構造には、トロポン骨格が含まれ、コルヒチンにも似ている

抗生物質は、有名なペニシリンの例で分かるように、人体に対する影響が少なければ、有害な微生物を死滅させて感染症を治療するのに役立つこともあります。プベルル酸もその抗菌作用に注目して研究されたこともありますが、人体への悪影響が懸念されたため医薬品としては応用されませんでした。 毒性試験において、ネズミに投与したところ、その多くが死亡したという報告もあり、人体にとって危険な化合物であり摂取すべきではないでしょう。 今回の紅麹サプリと腎疾患の因果関係、そしてその原因が、製造工程で混入したかもしれない青カビ由来のプベルル酸なのかは、今後のさらなる調査が必要と思われます。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。 (文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))

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