<レスリング>【2024年風間杯全国高校選抜大会・特集】インターハイ王者への完敗が飛躍の原動力、中学以降で初の全国制覇の山鹿辰士(55kg級=秋田・秋田商)

昨年のインターハイ3位でU17世界王者の小川大和(長崎・島原)が準決勝で敗れた55kg級は、小川を破った満永大楽(愛知・星城)を決勝で山鹿辰士(秋田・秋田商)が破り、中学以降で初の全国王者に輝いた。

決勝は満永のアンクルホールドなどで0-6とリードされて劣勢だったが、第2ピリオドにタックルからローリング2回転で6-6に追いつき、ラストポイントによって勝利をつかんだ。「素直に、うれしいです。腕がつってしまって想定外の展開になったのですが、宮原(崇)監督と必死に練習してきたローリングを出せて、よかったです」と声が弾んだ。

▲優勝を決め、宮原崇監督から祝福される山鹿辰士(秋田・秋田商)

6点をリードされ、腕がつってしまっても出せたローリングのエネルギーは、「気持ちだったと思います」ときっぱり。優勝への執念を捨てることのない内容に、満足そうな表情を浮かべた。ただ、6点もリードされたことは反省材料。「先制点を取られることが多い。悪いところが、もろに出てしまった。(反省を)次に生かしたい」と言う。

千葉から秋田へ移り住んでレスリングにかけた

反対側のブロックからは、世界王者の小川が勝ち上がってくることを予想していた。「小川対策を練っていた?」の問いに、「自分は強い選手ではないので、目の前の試合のことが精いっぱいでした」と、対策も何もない状況だったという。その小川を破った満永は、当然強いから勝ち上がってきたわけだが、「ここまで来たらだれが相手でも関係ない。相手のことを考えるのではなく、自分がいいパフォーマンスをすることを考えていた」と振り返った。

▲第2ピリオドの終盤、こん身の力をこめたローリング2回転を決めた

秋田商に多い関東(千葉県)からの県外留学生。小学校1年生のときに兄を追ってレスリングを始め、千葉・松戸ジュニア時代に全国少年少女選手権2度優勝。2019年(1年生時)全国中学生選抜選手権2位のあと、「何も成績を残せなかったんです」と説明したが、コロナ禍の期間中で大会も少なかったのだから、仕方あるまい。

高校は、クラブのかなり上の先輩が秋田商へ行っていたことと、祖母が秋田県在住だったことで、親元を離れて秋田へ移り、レスリングにかけることにした。秋田商は、オリンピック金メダリスト2人を輩出したチームで、最近も大学や全日本のトップレベルで活躍したOB選手がUターンし、練習の指導をしてくれる。

宮原崇監督が達成した高校三冠王が目標

そうした環境の中で実力をつけ、昨年8月のインターハイで5位となり、国体では3位へ躍進。準決勝でインターハイ王者(大脊戸逞斗=埼玉・花咲徳栄、中大進学)に2分ももたずにテクニカルスペリオリティ負けしたことで、闘志に火がついた。

▲ラスト2分で0-6の劣勢。粘って盛り返した

「国体が終わってから、監督と『この大会で絶対に優勝する』と誓って練習してきました」と言う。王者に完敗したことに落ち込んだり、引きずったりせず、それを受け止めたうえで「気持ちの切り替えができたことがよかったと思います」と振り返った。

優勝したとはいえ、初戦で3-2の接戦を展開し、決勝も劣勢をしいられるなど反省点は多く、「まだまだです。得点能力が低い。スタンド、グラウンドともしっかりポイントを取れるように練習し、インターハイではもっと圧勝続きで優勝したい」と言う。この大会で勝ったことで、宮原監督が2004年に達成した高校三冠王(全国高校選抜大会、インターハイ、国体)が目標となり、「追いつけるよう頑張りたい」と、表情を引き締めた。

© 公益財団法人日本レスリング協会