【コラム・天風録】火山噴火への備え

 ドイツの文豪ゲーテは自然科学への関心も強かった。火山にも興味をそそられ、イタリア旅行中には、南部のベズビオ火山に3度も登ったほど。溶岩が噴き出したと聞くと火口に急ぎ、溶岩流を見た感激を記している▲身の危険を感じなかったのだろうか。ベズビオ火山は、ゲーテ訪問の150年ほど前にも大噴火して、数千人の犠牲者を出した。1世紀には噴火による火山灰と火砕流で、ポンペイなど複数の街を壊滅させたのだから▲山裾には今、大都市のナポリがある。大噴火が起きれば、犠牲者は60万人に達するとの試算もある。ベズビオを含む四つの火山を常時監視する観測所を設け、政府を挙げて避難態勢を整えている▲イタリアにも勝る火山国の日本はどうだろう。世界の火山の約1割を抱える割に、対策は進んでいなかった。多くの犠牲者を出した御嶽山噴火から10年、観測や研究を一元的に担う政府の火山本部がおととい、やっと設置された。気象庁や国立大の連携不足解消は今からだそうだ▲富士山が噴火すれば社会の仕組みが大きく損なわれかねない。そのリスクをわがことと捉えられるか。強い危機感を持ち、備えを急ぐイタリアを見習わなければ。

© 株式会社中国新聞社